精霊のこどもたち
 〜 夢話 〜




 ルーンはまだ少し疲れているのだろう、ゆっくりとベットに座り込んだ。
「ルーン、大丈夫でして?」
「大丈夫だよー、一晩寝たらきっと元気になるよー。」
「無理はするなよ。」
 レオンの言葉に、ルーンは首を振る。
「無理じゃないよー。それより、二人に話しておかないといけないことがあるから。」
「なんだよ、まだ何かあるのか?」
「…長いお話になりそうですわね。」
 リィンの言葉に、ルーンが真面目な顔して頷いた。二人は手近な椅子に座って話を促した。

「夢の話。僕ね、ずっと夢を見てたんだ。」
「夢?なんだよそれ。それがなんで話しておかないといけないことなんだ?」
 リィンがはっと顔を上げる。
「いつもと違う夢を…見てるのかな…って、ルーンおっしゃってましたわよね?もしかして、ルーン、いつも 何かの夢を見ていらしたんですの?」
 ルーンは頷いた。
「ずっと、ハーゴンの夢を見てたんだ。あの呪いにかかってからずっと。」
「ハーゴンの!?って、どういうことだ?」
「僕の心をハーゴンがのっとろうとしたでしょう?…それはつまりハーゴンの魔力と、心が 僕の心の中に入ってくるって事なんだと思う。そしてやがて僕の心がハーゴンの心に取り込まれかけて… 僕の心のハーゴンの心に入り込んで…混ざったんだと思う。そしてね、レオン、リィン。落ち着いて聞いて欲しいんだ。」
 ルーンの言葉に二人はごくりと喉を鳴らした。
「…なんだ?」
「『そこ』にね、フェオさんもいたよ。」
「フェオが?!」
 レオンが立ち上がり、即座に聞き返した。リィンが絶句している。
「うん。…今から全部話すよ、レオン、リィン。…聞いてくれるかな?」
「…わかりましたわ。…全部話してください…」
 リィンの声が震えていた。レオンも疲れたように椅子に座り込んだ。
「…ハーゴンが生まれたところから。…ずっと話していくよ。僕が見た、ハーゴンの夢を。」
 そうしてルーンは語りだした。…優しい雪が降ってから寂しい雪が降るまでの、悲しい夢の話を。



 すっかり夜が更けた頃、ルーンはようやく口を閉じた。
「……それは…本当の話、なの…?」
 リィンの言葉に、ルーンはうつむいた。
「…それは、わからないんだ。もしかしたら僕に見せた嘘の記憶かもしれない。…けど、レオン、覚えてる?以前ペルポイの 神父様が『教会の炎獄』って話を聞かせてくれたよね。…僕はあの情景を確かに見たんだー。あの神父さんが 嘘を言うなんて思えないよ。だからきっと、本当のことだと思う。」
「…そんなことって…あるかよ…」
 しぼりだすような、レオンの声。
「…じゃあ、フェオは…もう、もういないんじゃねーか…もう、会えないんじゃねーか…」
 いつか、会えると期待していた。こうして旅を続けていれば、いつかまた巡り合えると。また かつてのように語り合える日が来ると、信じていた。…けれど、もう会えない。死んでしまった人間とは もう会うことができない。
「…フェオさんのことも見たよ、レオン。沢山レオンと語り合ってた。」
「…フェオのこと?なんでだ?」
「…もうすっかり、ハーゴンさんに混じってたんだと思う。フェオさんの思い出…その心の力は弱すぎて、少しだけだったけど …子供の頃のレオン、とっても可愛かった。それにリィンのことも見たよ。」
「…わたくしを?」
 驚くリィンに、ルーンは優しく微笑んだ。
「うん、フェオさんがね、一度だけムーンブルクに来た日のこと。…それもちゃんと言わないとね…あのね…」
 幼いレオンとフェオの思い出。そしてたった一度だけムーンブルクに来て、リィンと出会った日のことを、ルーンは語った。

「…そういえば…そんなことが…もう顔もおぼろげで…覚えていませんけれど…」
「リィンが心配だったから、ルーラの基石を残してフェオさんは旅立ったんだろうね。ずっと、心配だったんだよ。」
 リィンの頬に、一筋の涙が落ちた。
「…ルーン…わたくしの見た、最後の兄は…わたくしに呪いをかけたのは…」
「ハーゴンが中に入ってたんだと思う。…それでもまだフェオさんの心は消えてなかったから。 きっとリィンだけは助けたかったんじゃないかな…だから頑張って…姿を変える呪いをかけて…リィンを守るために、 自分を切ったんだ。」
『すまない…こんなことしか、出来ない。けれど、お前だけは…守る…』
 そう言った、フェオの言葉が頭に蘇った。リィンは荷物からフェオの基石を取り出した。そっと頬に当てる。ほのかに 輝くその基石を、そっとにぎりしめて。




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