精霊のこどもたち
 〜 白く汚された大地 〜




 そこは魔力の奔流の中だった。
 風と思えるのは、悪しき神を呼び出さんとする魔力。霊地としての魔力。世界を闇に変えんとする魔力。 そんな魔力が戦い、争う時に起こる力が、風となり、天にいると言われるルビスから目を覆い隠すための 雪雲から落ちてくる雪を吹き荒らす。
 一瞬無風となった瞬間、激しい魔の風が三人に襲い掛かる。絶え間なく雪は降り、積もった雪が舞い上がる。 分厚いコートはなんの意味も持たず、ただ冷風と雪が三人の体力を奪っていった。
「…くっそ、前が見えねーぞ!!おい!!ハーゴンはどこだ!」
 手を伸ばすと、白くかすむ世界。自分の手の先すら、雪によって隠されてしまう。
「…判らないよ!!多分、この大地の真ん中あたりにあるとは思うんだけど…」
 必死で叫ぶ声も、風の音にかき消されてしまいそうだ。
「むやみに歩くと危険ですわ!!遭難いたしますわよ!!」
 風に飛ばされてしまいそうになる身体を、足を踏みしめてなんとか押さえるが、このままでは長続きしないだろう。
「っつったって…どうしろって…」
 ちらりと後ろを見るも、すでにロンダルキアへの洞窟の姿すら見ることは出来ない。自然な嵐ならば、ここに留まり 嵐が終わるのを待つことも出来るが、ここではそれも意味はない。
 …ならば、前に進むしかないのだ。一歩一歩足を踏みしめて。たとえその先に絶望しかなくとも。

 響く轟音がすぐ横を通り過ぎる。 これで何度目だろうか。雪煙の向こう側にかすかに見える大きなもの。…建物かと期待して足を進めると、 それはこちらへと向かってくる。…巨大な魔物。今は運良く避けることができたが、三人は何匹もと戦い…大打撃を受けた。 それは本当に、今までのどの魔物よりも強かった。
 氷の幽霊。一つ目の巨人。醜悪な悪魔。…それを倒し、避け、時には逃げる。今どんな風に歩いてきたかも判らなくなっていた。
 ひときわ強い風にあおられて、リィンの身体が中に浮いた。
「リィン!」
 とっさに伸ばした手を、ルーンが掴んで引き寄せる。
「…大丈夫?」
「…ええ。助かりましたわ。ありがとう、ルーン。」
 自分ひとりを支えきったその力に、リィンは戸惑いながら話を続ける。
「…それより、先ほどの風の合間に、何か建物が見えた気がいたしましたわ」
「なんだと?どっちだ?」
 リィンが指差した方向は白くかすんでいたが、他に当てはなかった。
「わかった。行くぞ。」
 レオンが先頭に立ち、歩き出す。ルーンとリィンはその手を離さぬまま、歩き続けた。 その手があれば、いつまででも歩き続けられる気がした。
 そしてようやく雪嵐の向こう側に、かすむ祠が見え出した。三人は足を進め、その中に滑り込んだ。


「…助かった…」
 レオンのつぶやきに二人は無言で同意する。下手をすると死んでいたところだった。
 頭や肩に乗っている雪を払いのけ、冷え切っていた両手足が少しずつ暖まりだしたころ、ようやく三人は 落ち着きを取り戻した。
「…ここは…どこなのかしら…?」
「祠…だよな?誰もいないのか?」
 きょろきょろと周りを見渡しながら足を進める。三人の足音が反響する。
「んー、でも、荒れてないよ。人がいるか、定期的に管理するひとがいるんじゃないかな。ほら、 扉の取っ手にもくもの巣ないし。」
 すぐ目の前には、奥に続く扉があった。ルーンが言うように、その扉も綺麗に掃除されているようだった。
 扉はきしまずに開いた。そしてその向こう側に、火のきらめきを感じた。
「…よくいらしたな、伝説のロトの勇者の末裔の方々…レオンクルス王子、ルーンバルト王子、リィンディア王女…」
 それは低く、良く通る声だった。
 そこは、教会のようだった。簡素ではあるが、清楚で美しい教会。よこに控える修道女と、祭壇の神父。どうやら ここにいるのはこの二人だけのようだった。
 そして、さきほどの声はその神父だった。
「…困難を乗り越えて、良くぞこちらに参られました。お寒いでしょう、どうぞこちらへ…」
 横にいる修道女が、火のついている暖炉の前へと進めてくれた。聞きたいことが沢山あった三人ではあるが、 今の三人にとって抗いがたい誘惑だった。




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