精霊のこどもたち
 〜 群青色の邂逅、そして… 〜




 レオンが階段を登りきる。そしてその光景が見えた瞬間、反射的にあとずさり、ルーンの頭がレオンの背中にぶつかる。
「どうしたのー?」
「いや…ちょっと…」
 言葉を濁したレオンの背中越しに、リィンとルーンが王の間を覗く。すると、確かにそこにローレシア王がいた。 いつもどおり玉座に座り、笑っていた。
 …いつもどおりでないことは、いつも口うるさいと評判の大臣がいなくなっていること。そしてその代わりに。
「…なんですの…あれは・・・」
 玉座の周りに多くのバニーガールが侍っていたことだった。
「レオン、あれ、『側仕え』の方?」
「いや…よく顔なんて覚えてねーけど…違うと思うぜ。それに親父は女好きでどうしようもねーやつだけど、王の間に 母上以外の女を入れたことないはずなんだ。」
「それにローレシア王は用心深い方だと聞いておりますわ。古参の方ならともかく、新人をあれだけ多く身近に置くなんて… 暗殺でもされたらどうなさるおつもりなのでしょう…?」
「とにかく、事情を聞こうよ。ね?これがなんなのか、確かめなくちゃ。」

 嫌そうなレオンの背中を押し、ルーンは王の間に入る。リィンもそれに続き、優雅に頭を下げた。
「ローレシア王様にはご機嫌麗しゅうございますわ。」
「おお、リィン姫。それにルーン殿、レオン!!心配しておったぞ、良くぞ無事に戻ってきた!!」
 それはあまりにも心からの歓喜に聞こえ、レオンの肌に鳥肌が立つ。怒りと不快感を隠さぬ様子で、レオンは 父親に言葉を投げる。
「親父、これはどういうことだ?」
「どうしたもこうしたも、世界に平和が訪れたのではないか!聞いておらぬのか?いや、めでたいのう。」
「知らねえよ!!説明しろよ!!そこにいる女もなんだよ!!」
 怒鳴りつけたレオンに、女の一人がくすりと笑い、こちらに頭を下げてきた。
「お初にお目にかかりますわね、ローレシア王子、レオンクルス様。私、前の大臣に代わって王様におつかえすることに なったミリエラと申しますわ。こんな平和な世の中ですもの、王室を明るい雰囲気にするために雇われましたのよ。」
 ミリエラの言葉に、王は上機嫌に笑う。
「はっはっは、小言がうるさかった前の大臣より、ずっといいだろう?…ハーゴン殿を誤解していたおかげで お前にも、お二人にもいらぬ苦労をかけたからな。しかしもう安心じゃ!!ハーゴン殿は実に気持ちの良い方でな!! 誤解していたわしらのことを許してくださり、部下にしてくださった。そなたらのこともよく頼んでおいた。もう戦おう などと思うでないぞ。この平和な世の中で楽しく暮らしていれば良いのじゃ。」
 その言葉に、リィンの美しい顔がゆがむ。
「仮に平和になったといたしましたら、そんなめでたいことはありませんわね。…ですが、お約束をお忘れですの? ムーンブルクのことを放り出されますの?」
「ふむ…ムーンブルクか。失火により城が崩壊したことは大変じゃったな。」
 その言葉に、リィンの頭に血が上る。
「いつまでそんな戯言を…!」
 そこで、ルーンの手がリィンの口をふさぐ。
「リィン、落ち着いて、ね?」
「ルーン…ですけれど…」
「これがハーゴンのまやかしならいいけど、洗脳されてるだけなら殴っちゃったら国際問題だよ?ね?」
 そう言ってにっこりと笑う。
「…でもなんだか…聞いているだけで、ムーンブルクの者たちが汚されているような気がして…」
「大丈夫だよ、リィン…」
 そのしばしの間は、一体なんだったのだろうか。
「僕が、ちゃんと守るから。」
 それだけ言うと、くるりとリィンに背を向けた。


「ローレシア王。ムーンブルクが火事だったって本当なのですか?」
「おお、そうじゃ。驚いただろう?」
「でも、魔物がいたとムーンペタの人が言っていましたよ?」
 首をかしげたルーンに、王は抑揚に頷く。
「ふむ、わしもそう思っておった。だがそれは、魔物すら浄化したハーゴン殿がムーンブルクを救おうとして 派遣したものだったのだそうだ。」
 ”嘘だ”そう叫びたかった。真実を見てきたリィンが、そんな言葉で騙されるとでも思っているのだろうか。それは 侮辱以外の何者でもなかった。
「…大丈夫か?リィン?」
 気がつけば横にいたレオンが、そうささやいてきた。
「…大丈夫よ。ルーンの考えを信じましょう?」
 リィンが口をつぐんでいたのは、ひとえに先ほどのルーンの言葉を信じていたからだ。あの言葉だけで 微笑む余裕さえできた。
「じゃあ、ここに、フェオさんいらっしゃるんですよね?」
 ルーンの言葉に、二人は思わずルーンの表情を覗き込む。ルーンは にこにこ笑って、話を続ける。まるで純粋無垢な子供のように。

「ほぅ、フェオ殿…確かいなくなっていたムーンブルクの第一王子だったな… 久しい名だ…王子がここにいると?何故そう思う?」
「リィンがあの時、フェオさんに助けられたそうなんです。ハーゴンの 魔物と一緒にやってきたって聞いたんです。ムーンブルクは今ないし、サマルトリアにいないみたいだから、 僕、きっとここにいると思うんです。もしそうなら、リィンに会わせてあげたいなって、僕思います。 ムーンブルクが火事だったっていうなら、ここに絶対いるはずですよね?」
 その言葉に王が笑う。手を上げて、召使いを呼ぶ。
「さすが聡明と噂される、サマルトリアの第一王子だな。レオン、お前も見習うように。誰か、 フェオ殿を此処へ!」
「いるのか?!フェオが!!なんで先にいわねえんだよ!!」
「皆を驚かそうと思ってな。レオン、お前は少し落ち着け。まったく…聡明な二人の王族と旅に出たというのに、 お前にはちっとも高貴さや寛大さが身につかなかったな…」
「まったく、その通りですわね…」
 王の言葉にリィンが小声でつぶやく。
「…なんだと?」
「落ち着きになって…わたくしが言える言葉ではありませんけれど。…わたくしも、今混乱しておりますのよ。… けれど、ルーンにはルーンの考えがありますのよ。それを信じましょう?兄がこんなところに 居るはずないのは、…ルーンが一番よく知っていてよ?」
 リィンの言葉に、レオンが力いっぱい拳を握り締めた。…何かに耐えるように。
「…判ってるんだよ、そんなことは…。これは嘘だ…。…でも…もしそうだったら…お前には悪いって判ってるんだけどさ… もしフェオが生きててくれるなら…俺…嘘でもいいような気がして…さ。」
 そこでレオンが息を吸う。
「でも、嘘じゃ意味がない。」
「ええ。これが現実ならむしろ幸福な夢ですけれど……?あれ…どうしてルーンは哀しい 幻想(ゆめ)っておっしゃったのかしら…?」
 リィンがそう気がついたときだった。背後から人があがってくる気配を感じた。




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