〜 灰色の幻想 〜 ほとんど同時に三人は階段を上がった。 「…大丈夫か!」 「よかった、無事でしたのね!!」 「レオン!リィン!!怪我、ない?!ごめんね、僕、気がつかなくて…」 三人とも、ひどい有様だった。そこかしこがほつれているし、細かな怪我もいくつかある。 だが、不思議とすっきりとした顔立ちをしていた。 「ああ、大丈夫だ。…ちょっとやばかったけどな。」 「心配要りませんわ。ルーンこそ、無事でして?」 「うん、平気だよ。とりあえず、傷を治そう。…見て、あそこ。」 ルーンの視線の先には、少し豪奢な階段があった。 「…あそこが、終点か?」 「うん。多分あそこでハーゴンが待ってる。」 「そうですのね…」 リィンは指輪をはめて祈り、ルーンも二人の傷を癒した。リィンがしんみりとつぶやく。 「…この旅も、もう終わるのですわね…なんだか、永遠に続きそうな、そんな気さえしてましたけれど…」 「…そうだな。短かったけど…長かったな。」 「うん、いろんなことがあって、いろんな人に会って…」 それはなんとも言えない複雑な気持ち。苦しかった。辛かった。沢山の思いを抱え、諍いを起こし…沢山の 物を失ったことも、事実だった。 「まぁ、悪くなかったよな。」 「ええ…とても。貴重な日々でしたわ。」 「楽しかったね。」 夕焼け。…どんなに楽しくても、家に帰らなければいけない、夕暮れ。その空が美しく、そして哀しいようにこの瞬間も 儚いほどに美しかった。 「じゃあ、行くか。」 レオンの言葉はそれは買い物にでも言うような、気軽な声だった。 「うん、行こうか。」 「そうですわね。」 美しい最後の幻想を、あっさりと打ち切る勇気。それだけの力が、三人にはあった。 階段をあがる。もう罠がないことは、本能的にわかっていた。…この先が、最後の場所。 「…勝ちましょう。必ず。」 少し震える手を押さえて、リィンがつぶやく。 「あたりまえだ。」 「そうだね。」 レオンとルーンがリィンの背中を叩いて、横に並んだ。 そうして、階段を登ると、そこはまさに神殿だった。 立ち並ぶともし火。細やかに床に配置された幾何学な文様。神話を象った豪奢な柱。それは、普段見る、神殿とさほど変わらない。 …だが、中央に描かれた魔法陣。五芒星と蛇をかたどった文様と文字が配置されたそれは、何度が見た、 邪教の代物だった。 そして、その奥。大司教の椅子に座り、祈りを捧げている青年。その人物は意外なことに、ごく普通の神官に さえ見えた。 「…ついに、ここまで来たのだな…」 だが、その声はおどろおどろしく、むしろ魔物の声に近い響きだった。 「ああ、待たせたな、ハーゴン。」 挑発気味の台詞を吐きながら剣を構えるレオンに、ハーゴンはゆっくりと言ってのける。 「ああ、…待ち詫びだぞ。…どれほど私がお前たちを待っていたか、わからんだろうな…」 「…僕たちを、生贄にするため?」 ルーンの言葉に、二人がこちらを見た。 「どういうことですの?ルーン?」 「邪神シドーをこの世に降臨させるのに、ロトの末裔ほど相応しい人間はいないよ。」 問いかけたリィンに、ルーンはハーゴンを見据えたままそう言った。 「わかってて此処まで来たのだな。わざわざ生贄になりにくるとはな…」 「そんなわけないって、貴方になら…わかるでしょう?ハーゴン。」 ルーンのその言葉に、ハーゴンは苦虫を噛み潰したような顔をした。 「もう、やめようよ、ハーゴン。」 |
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