蜃気楼バザール

 確かに感じる人の熱気に、三人はいぶかしげに周りを見渡す。
「うわぁ……本物の町みたいだねー。」
「蜃気楼じゃないみたいですわね。信じられませんわ……。」
 大きなオアシスを背に、あちこちに天幕が張られている。その中では色々なものが並べられ、売られている。籠を頭に載せて、 果物を売っている女達もいる。まるでお祭りのようににぎわっていた。


 夜中にルーンはぱちりと目を開ける。そして周りを見渡した。
 ルーンは寝るのが得意だ。寝起きは悪いが寝つきはいい。そして一度寝たら野宿でもない限りぐっすり寝てしまう タイプなのだが、目が覚めてしまった。
(……めずらしいなぁー……。)
 理由はわかっている。この最近、寝ると見る、妙な感覚のせいだ。
 夢未満のわずかな波動で訴えてくる妙な感覚。いっそもう少しはっきりと夢で出てきてくれたら、すっきりするのに。
(まぁ、いっかー。がんばろうー。)
 考えても仕方ない。ルーンはもう一度布団にもぐりこみ、その身を眠気にゆだねた。


 そして次の日の朝、また珍しく、サマルトリアにレオンとリィンがやってきた。しかもお忍びで。
「……うわぁ、びっくりした。どうしたのー?二人そろってー。」
 旅が終わって早二ヶ月。今、リィンは主にローレシアとムーンペタを行ったり来たりの生活をしている。 レオンはもちろん、ローレシアで王として頑張っていて。昔は毎日見ていた 旅装束を来た二人は、本当に久しぶりだった。
「おう、ちょっと息抜きだ。」
 レオンは活き活きしていたが、ルーンは笑う。
 レオンが一生懸命善き王になろうと頑張っていたのだ。息抜きに国内をうろうろするくらいはするだろうが、 リィンを連れて旅装束で自分のところまでくるなど、ただの息抜きの域を超えている。
「んー、でもー、レオンの息抜きにリィンを連れて行くの?リィンは僕の恋人なのに。」
「嫌ですわ、ルーン。だからルーンも誘いに来ましたのよ。……といってもただの息抜きではありませんのよ。 わたくしはルーンに手伝っていただきたいことがありますの。」
 リィンははにかみながらそう言って、事情を話し始めた。


「ムーンブルク城の跡地の整備がようやく始まりましたのをご存知ですわよね?」
 ルーンは頷く。ハーゴンが荒らしたあの無残な城を綺麗にしようと、ようやく落ち着きを取り戻したムーンブルクの 領民達と、リィンは力をあわせて頑張っている。跡地はまた城にするか、それとも慰霊碑を建てるかと 話し合っているところだった。
「それが大分進みまして、10日ほど前なのですけれど、地下の壁の奥の土から 二抱えくらいの大きな石が出てまいりましたの。」
 リィンが両手で作り出す形は、人の頭二つほどの大きさだった。
「それ自体はそれほど珍しいことではありませんけれど、それには色々古い文字が彫られていて、途中で欠けておりますの。 おそらくはもっと大きなものだったのでしょうね。それにわずかですけれど、不思議な魔力が感じられたものですから、 どのような由来のものかと、調べていたのですわ。」
「へー、どんなものだったのー?」
 ルーンがわくわくしながら聞くと、リィンは首を振る。
「それがわかりませんの。少なくともロト三国建国前のようですから……資料があまりありませんの。」
 ロト三国は新しい国だ。特にローレシアとサマルトリアは、元々田舎とされていた場所であるだけに歴史は浅い。だが、 ムーンブルクのあった場所は、元々別の王国があり、それが滅び、しばらく町として続いていった土地柄で、色々 古い歴史はあるが、きちんとした資料が残っていない厄介なところでもあった。
「で、それとはまた別の話しなんだが。」
 その後をレオンが継ぐ。
「ムーンブルクの西の砂漠のオアシスあるだろ?あそこでなんか妙な蜃気楼が見えるって話があってな。」
「蜃気楼ー?でも珍しくないんじゃないのー?」
「見えるのは町の蜃気楼らしいんだが……近づいても逃げないそうだ。」
 レオンの言葉に、ルーンは目を丸くする。
「それ、蜃気楼じゃないんじゃないのー?」
「そうだな、あの近くに町はない、どころか町があった記録はなかったように思うんだが…… 。幻の方がいいかもな。その町には人もいる。ただし声は聞こえないらしい。中に入ると 自分の姿はその幻には見えないし、声も聞こえないらしい。触れることもできないそうだ。」
「そして、その蜃気楼が生まれたのも、10日前だという話ですの。」
 リィンの言葉で、ようやく二つがつながる。
「それで、人をやってみたのですけれど、やはり噂話と同じくそこに確かに幻の町があったそうですわ。特になんの 害もないのですけれど、その石との関係も気になりますし……。」
「幻の町って聞いて、……ハーゴンのことを思い出してな。 もしかしたらそれと何か関係があるかもしれねーだろ。 幽霊かもしれねーし。……で、ルビス様の守りがなにかの役に立つかも知れねーし、かといってルビス様の 守りを他人に任せるのは失礼だろうしってことで、俺たちが行くことになったわけだ。」
 そうさらりというが、おそらくレオンは父親に頼み込んだのだろうな、と思うとほほえましく思った。とはいえ、 久々の三人の旅に心躍ることも確かだし、幻の町のとても気になる。
「うん、行くよ。すぐ支度してくるから待っててー。」
 そう言うと、ルーンは部屋を出て倉庫に入り旅支度を簡単に整える。そうして、マントを羽織ろうとした時、その マントからころん、と何かが転がり落ちて来た。
「……うわぁ。……これ。」
 驚いてもう一度見直す。それはこの世にはもうないはずのもの。にも関わらず確かにそれはそこに存在した。
「……というわけなんだけどー……。」
 さすがにルーンも困惑して、二人にそれを見せた。二人も目を丸くする。
「邪神の像……だよなぁ……。」
「確かに砕けたと思ったのですけれど……?」
「うん、マントからころんと出てきたんだよー。」
 おどろおどろしい蛇のような神が巻きついた像。確かにシドーが消えた後、これも消えたはずだった。 リィンが悩みながら恐る恐る口にする。
「そういえば、ルーンの血を集めたときに、一緒に粉になった邪神の像を集めてしまった……のかもしれませんわね……。」
「それにしてもなんで今頃……?」
「もしかしたら何かなんか関係あるのかもしれないね。その幻の町とー。」
 ルーンの言葉に、三人は頷いた。そうしてその邪神の像を持ち、ルーンたちは砂漠へと向かったのだった。


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