それは、はるか昔、天上より降り立った勇者がもたらした光と平和によってのはじまりと、 そして、かの運命は100年前、一人の青年が、一人の姫君と出逢った時から始まった。 いつの頃からだろうか、その血に連なる者はその二人に敬し、ロトの勇者が旅立った16の年から、竜の勇者が 光を取り戻した26までの10年にかかるロト王家の者を『精霊のこども』と呼ぶようになった。 始まりは、いつも破壊。在るものが失われた時。当たり前のものが永遠に消えうせた時。 「大神官…ハーゴンと、名乗る邪神官が…モンスターを引き、連れ、ムーンブルクの城、を攻撃…我軍は全滅 いたし、ました…」 「そのようなことが許されると思っているのか、レオン!!」 「うるせえ、くそ親父!てめえが決めた策略に乗ってやってるんだろ!!黙って見とけ!!」 「ご、ごめん、なさい…わたし、わたし、ほんとは、知ってて、知ってて…でも…」 「いいのですよ、姫。それより教えて下さいますね?」 「えへへー、遅いよー、レオン!僕探しちゃったよー」 …判っている、ルーンに悪気はない。こいつが悪いわけでもない。しばらく会っていなかったがこいつはぜんっぜん変わってない。 だが、 レオンは顔全体に笑みを浮かべていった。 「一発殴らせろ、ルーン。」 レオンはのんきに笑うルーンの肩に手を置く。 「え、ちょ、ちょっと待ってよー、レオンー」 「やかましい!俺がどんだけ苦労したと思ってやがる!!!」 「わたくし…どうすればいいのかしら…」 へたりと座り込んだリィンはまさに『虚無』だった。 「国もない、お父様もお母様もいらっしゃらない…どうすれば…何のために、生きれば…」 「しっかりしろ、リィン。おめーは生きてたんだ、それだけでいいじゃないか。」 「レオン、周りを見てくださる?みな、わたくしがいなくても、お父様がいなくなっても、変わらず生活していてよ… わたくしの生に、意味なんてもうないわ…」 レオンは手を差し伸べた。リィンの手を強引に掴み、立ち上がらせる。 「そんなことはねーよ。ちゃんと意味はあると思うぜ。」 「そうだよ。リィンが生きていてくれるだけで救われる人だって、ちゃんといるんだよ。来て!」 もう片方の手を掴み、ルーンが走り出した。街の果てまで。 「じゃあ、一緒に行くよ、リィン。」 「しゃーねーな、付き合ってやるよ。」 にこやかに笑うルーンと、だるそうなポーズをとりながら立つレオン。 「で、ですけれど…」 「おめー一人にいい格好はさせねーよ。」 「リィンが良ければ、僕も一緒に行くよ。…構わない?」 「だめですわ…だって、わたくしは…」 「いーからとっとと行くぞ!おめーがいりゃ少しは楽になるな。」 レオンのその言葉に、光明を見出すのは、はたして罪だろうか。 「その人は、今いくつなの?」 「あ?ああ…よく覚えてね―けど…30は越えてたはずだぜ。少なくとも、もうとっくに精霊のこどもじゃなくなってるはずだな。」 「でもそれじゃ、勝てなくても当たり前なんじゃない?」 その言葉に照れたようにレオンが言葉を返す。 「でもなあ、俺、それまで負け知らずだったからな。なんつーか、みんな負けてくれてたことに気づかなくてな、 馬鹿だったよな、俺。で、未だにイメージトレーニングしても、勝てる気がしねえんだ。」 「へー、って。あれー?精霊のこどもって事は、フェオさんって人、ロト王家の人なのー?」 首をかしげるルーンの顔を見ず、レオンは立ち上がる。 「やっぱ知らなかったのか、お前。…人にはいわね―方がいいぞ。今となっちゃロト三国最大の禁忌だからな。」 大きな、大きな洞窟。細々と灯る、頼りなげなたいまつ。 そして自分は敵を潜り抜け、美しき宝玉を手に入れ、麗しき姫君を救い上げるのだ――――― それはまさしく、勇者の記憶だった。 「…ロトの勇者がこの世界に来て、最初に尋ねた城。竜の勇者が救った城。・・・その王が…」 自分の血が汚らわしい。一滴たりとて連なってる事が憎らしい。 ただでさえ、先ほど幻想を砕かれたダメージが消えていないのだ。 「…しかたありませんわ、レオン。…これほど近くのかつてのモンスターの居城がそびえているのですもの。同情いたしますわ。」 「じゃあ、リィン。お前許せるってのかよ!!!」 「そうではありませんわ!!ですけれど、それほど単細胞に物事を考えられるほど、人はお気楽ではないということですわ。」 「俺がお気楽だってのかよ!!」 「ならば貴方のお父様はどうなのです?」 「俺と親父を一緒にするな!!あれは卑怯なだけだ!!」 相変らずの言い争いになろうとした時、ルーンが口を挟む。 「うん、ごめんね、リィン。僕のお父様も、今、お城でぬくぬくしてると思う。」 「あ…」 勢いに任せて、言ってはいけないことを言った事に気がついた。 「でもね、とりあえずこの人は関係ないんだし、ここで言い争いをするのは、可哀想じゃないかなぁ?」 王の代わりを勤めていた王弟が、半ば脅えながらこちらを見ていた。 「…別に、本気で欲しいわけじゃねえ…けど、もし、もしも俺に、魔法の、力があったら…」 「僕は、樽一杯のミルクと生肉!!」 「…ずっと、名誉ある死を、望んでいたから…」 レオンは顔を真っ赤にし、勢いよく叫んだ。 「ふざけんな!!よく聞けよ!俺はなぁ!お前が好きなんだよ!!!」 「わたくしは、紋章で言えば月だわ。誰かの力によって輝き…けっして自分の力で燃えることができないの… けれど、レオンは太陽だわ。貴方は、自分の力で燃えることが、生きていく事ができる・・・」 「…じゃあ、ルーンはなんだ?」 「…例えるなら…水ね…」 「僕ね、二人の事、大好きだから…レオンもリィンも大好きだから…。 わがままかも知れないけど、もう少しだけ、側にいたかったんだ…」 「なーんで俺だけ、なんだろうな…今までロト王家で魔力が一切ない奴なんて、いなかったのにな…」 独り言のようなつぶやき。 「レオンも、ずっと気にしてらしたの??」 リィンの問いかけに、首を振るレオン。 「いや、俺には剣があるしな。本当ならもっと気になるんだろうけど…俺は不思議なほど気になんねえ。 別にそんなもんなくったって戦えるしな。」 「精霊が決めた、宿命かもしれないねー。レオンが魔法が使えないのはー。」 ルーンの言葉に、レオンは真顔で頷く。 「ああ、そうだったらいいって、俺は思ってる。」 「い、いいの?…」 恐る恐る、柄に手をかけながら、ルーンはレオンを見た。レオンは何も言わず頷いた。 そっと柄を握り締める。不思議なほど反発はなく、当たり前のようにルーンの手に吸い付いた。 「ああ…。」 手が振るえる。歓喜の涙。 「僕、大丈夫なんだね…。」 「判っているでしょう?わたくしはもうとっくに16年生きているわ!!けれどわたくしは名に ロトを冠することをいまだ許されていないわ!!!わたくしは、いまだリィンディア・ルミナ・ムーンブルクですのよ?!」 「リィン、落ち着いて…」 「ざけんな。そんなの、そんなのあの人には関係ねえ!!!」 「本当にそう思って?わたくしの誕生日はわたくしの身内以外誰も知らないのよ?そして、ムーンブルクの王家の者が、 精霊の子供になる儀式の事は、あなた方にさえ知られてなかったはずよ?!ええ、わたくしはいまだ、精霊の こどもではない、ただ人なのよ!!あなた方と違って!!!」 「時空の、扉?」 「ああ、なんかむかーしそんな事言ってたな、お前。」 レオンの言葉に首をかしげる。 「旅の扉じゃないんだよね?なぁに?それー」 「おめーが言ったんだよ!『僕、時空の扉を見つけたんだ!』って。」 薔薇の生垣。ただひたすら泣いていた。 その時から、自分はずっと変わる事はない。 『お前はいらない』 ずっとそう言われて生きてきたようなものだった。いらないもの、必要のないもの。 誰かに必要とされたくて、ずっと誰かに必要とされたくて。 薔薇の生垣で、ずっともがいていた。 「そんな風に呼ぶなよ!!」 「いい名前だと思うけど、何が嫌なんだい?」 いつも笑っている人だった。くしゃりと、俺の頭を撫でる。 「だって…俺には似合わない…母上が付けてくれたけど…」 「そんなことないよ、いい名だよ、レオンクルス、獅子の十字架。お前はただ、本能のまま戦うわけじゃない。 戦う理由をもって、戦う。そう言うことだよ。」 目の前にある、全てのものをにらみつける。そうすることで、この場所を浄化できるかのように! 「よくも、よくも汚して下さいましたわね!!」 わなわなと、リィンの体が震える。 「あなた方に多少の知能があれば、決してしない事ですわ!その畜生にも劣る行い、後悔なさい!!」 ルーンは、知らず涙を流す。 「本当は、そんなことを望んでたんじゃないよね…ねえ、思い出してよ…一番最初…どうして貴方が、その道を選んだのか…」 同情ではない。ただ、失われてしまった夢が余りにも切なくて、哀しくなった。 そうして、レオンは、生まれて初めて、女に手をあげていた。 「ふざけんなよ!お前が、お前が諦めるのかよ!違うだろ?お前だけは、お前だけは諦めんなよ!!!」 新たな伝説の誕生まで、あともう少し。 そんなわけで「精霊のこどもたち」の予告です。 あたりまえなんですけど、人数少なくて難儀してます(笑)半分以下ですぜ、旦那。 さておき、ずっと寝かせてきた小説。寝かせすぎて原型ほとんど残ってないので、かつて日記でUPした序章を 覚えていらっしゃる方は綺麗さっぱり忘れて下さい。ほとんど設定違ってます、別物です、はい。(名前すら違ってるんですよ、実は) では、新連載、相変らず見切りスタートです。なお、以上の予告は予定であり、変更されたり順不同だったりします。 ご容赦ください。 なお、こっちにドラクエ2キャラに33×3+1の質問があります。どうぞご覧下さい。 |
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