邪信徒しか入れない洞窟。ハーゴンへと続く洞窟は暗く、長かった。 さまざまな罠が仕掛けられ、今まで見た事がない協力なモンスターがこちらに襲いかかる。時に血を流し、 時に動けないほどの大怪我をしながらも、魔力でなんとか回復し、時間さえ分からないその洞窟を一歩一歩 歩んでいった。 そして、暗黒の洞窟の一歩先には、真白き世界。生物を全て拒む、極寒の世界が広がっていた。 「何も、見えないわ…!」 毛皮の襟を立てながら、アーサーはそう叫ぶ。目も口も髪の毛も全て凍りつきそうだった。 遠くから聞こえる地響き。白い雪の向こう側にかすむのは、城ほどもあるの大きなモンスターだった。 「どこにいけば…ハーゴンがいるの…?」 雪が口に入らないようにアイリンが小さくそうつぶやく。目の前にある困難が、自分の心を折れさせてしまいそうで怖かった。 (…どうする?) 下手に動くとモンスターにぶつかる。かといって、このままここでこうしているわけにもいかない。前に進まなければならないのだ。 アクスがそう考えた時、胸につけていたルビスの守りが、少し温かくなった。 「…こっちだ!」 アクスは二人の手をつかみ、ルビスの守りの導くままに歩き始めた。 そこは、今やこのロンダルキアでのただ一つの聖域。ルビスの守護する祠だった。 「多分、ここから西に行けばハーゴンの城だと言っていた。」 ルビスの守りを手で押さえながら、アクスが言う。 「…ルビス様のお声が聞こえるの?」 「いや、なんとなく分かるだけだ。ここは安全だと。ふれて見ればわかる。」 アクスの付けているルビスの守りにアーサーがそっと手を伸ばすと、確かにルビスの意思が『分かった』。 「本当…。明日は頑張りましょうね、アクス、アイリン。」 ルビスの守りに手を添えながら、アーサーはそう言って微笑んだ。 ここには、アーサーしかいない。アイリンとアクスはそれぞれ別室にあるベッドで仮眠を取っている。 アーサーは焚き火に薪を入れた。ルビスの恩恵かわからないが、誰もいないこの祠はとても綺麗でこうしてぬれていない 薪まで用意してあったのだ。 アーサーが少しうとうとしていると、背後に人の気配を感じた。 「…誰?」 「ごめんなさい、起こしました?」 「いいえ、アイリン。…眠れないの?」 「…どう、なんでしょうか…?ごめんなさい、私にも良く、分からなくて…。」 戸惑うアイリンに、アーサーは自分の横に座るように進める。 「…ねぇ、アイリン、本当に、いいの?」 「え?」 「ルビス様が教えてくださったの。貴方の寝ていた部屋にあった旅の扉。…あれはベラヌールの旅の扉につながっているわ。」 優しく言うアーサーに、アイリンはスカートのすそをつかむ。 「…アーサー…。」 「貴方は女の子なのよ。今まで貴方の魔力に甘えていたけれど…戦いなんてしなくてもいいの。」 「駄目です!だって、私…。」 首を振るアイリン。だが、アーサーはなおも言い募る。 「敵討ちを考えているの?それならアクスと二人で、必ず果たして帰ってくるわ。今まで旅して来た仲間が信じられない?」 「そうじゃないんです…、そうじゃ…。でも、ごめんなさい…、私は、どうしても…ごめんなさい。でも、 私は、行きます。」 うつむきながらも強くいうアイリンに、アーサーは小さくため息をついた。 「そう…。ごめんなさい、アイリン。貴方を邪険にしたつもりはないのよ。」 「いえ…分かっています。アーサーが優しい気持ちで言ってくれているってことは…。」 アイリンの言葉に、アーサーは笑う。 「どっちかといえば、アクスの気持ちかも知れないわね。何も言わないけれど、心配しているもの。」 「アーサー…。ここから一歩外に出れば、もうハーゴンの支配する場所。ここが、ここだけがきっと、 ハーゴンの目に届かない場所。…だから、ごめんなさい、聞いて欲しいんです。」 アイリンは両手を握り締めた。そっと小さく口に出す。 「…私、アクスが好きなんです。不器用だけど温かくて、優しくて。自信に満ちていて…。大切、なんです…。」 「あら、言う相手間違っていない?」 笑うアーサーに、アイリンは首を振る。 「…ごめんなさい、誰かに知っておいて貰いたかったんです。」 「本人には言わないの?」 アーサーの言葉に、アイリンは首を振る。そして、微笑した。 「今は…まだ…私には、その資格がないから…。全てが終わって、落ち着いたら…。言えたら、いいです。」 「そう、その時のアクスの喜ぶ顔が楽しみね。一度振られちゃっているものね。」 その言葉に、アイリンは目を丸くする。 「ごめんなさい、知って、たん、ですか…?」 「ふふ、なんとなくね。雰囲気で分かるわ。じゃあ、このことは、女同士の秘密ね?」 ウインクをしながらアーサーがそう言うと、アイリンは一瞬目を丸くし、破顔した。 |
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