〜 目の中の風景 〜


 ゆっくりと船がデルコンダルに近づいていく。
 アクスは一人、甲板の上でそれを見ていた。
 どうでもいいことだった。アイリンが泣いていようが、謝ろうが。ただ、 ちょっとした疑問だったのだが。
(強い…なぁ…)
 褒められたのだろうが、むしろ責められたような気分だった。実際そうなのだろうか。あのあとから アイリンがどこかきまずげなので、そうなのだろうか。
(まぁ、弱くはないだろうけどな。…どうでもいいことなんだけどな。)
 何かが気にかかる。なんだろうか。
 そうこうしているうちに、デルコンダルの大陸へと船が着いた。

 船室から出てきたアイリンに変わった様子はなかった。うつむきながら上目遣いでこちらを見る様子が、 超絶的にかわいらしかった。
「…あの、さっきはごめんなさい。…多分、八つ当たりでした。その、アクスの事、凄いと思っているのは 本当なんです。私、あんな風に言うつもりじゃなくて…ごめんなさい。」
「いや、こちらも言葉選びが悪かった。」
 いつものアイリンの言葉に、アクスはホッとした。アイリンもほっとしたようだった。
「あら、二人してなにやってるの?」
 後ろからアーサーの声がする。見ると目の前のアイリンが目を丸くしていた。アクスは少し疑問に 思いながら振り向いた。
「……アーサー…あの…。」
 アーサーはいつもの巡礼服だった。だが、足元を黒いズボンで覆い、いつもは降ろしている髪を後ろでひとつに 結わえていた。
 驚くことに、ただそれだけで美少女にしか見えなかったアーサーが、立派な美男子に見えるのだ。
「…支度ができたのか。」
 驚いた事は事実だが、アーサーの服装など動きやすければどうでもいいだろうと思いなおし、アクスは間抜けだと 思いながらそう言った。
「ええ、大丈夫よ。行きましょう。」
 にっこりと笑う美男子からもれる女言葉は、少々気持ちの悪いものがあるな、とアクスはちらりと考えた。


「ふむなるほど。確かにロトの末裔がハーゴンを打ち倒す旅に出た事は知っておる。それにハーゴンがこの世を滅ぼそうと していることもな。ふむ…国家として国王として、そして世界の一員として協力せねばならんところではあるが…。」
 三人の説明を聞き、デルコンダル王はそう言った。
 アーサーの心あたりとは、デルコンダル王がつけていたベルトに 同じような月をかたどった宝石があるという事だった。
 デルコンダル王に説明し、実際に見せて貰ったところ、どうやら間違いなさそうだった。そこで譲って貰えないかと 頼んだが、デルコンダル王は難色を示したのだ。
「大変ずうずうしいお願いとは思いますが、どうかお聞き届け願いませんでしょうか。」
 アーサーがそう頭を下げる。
「…たしかに、わしとしてもそなた等に協力してやりたい。世界を救う勇者たちの手助けをしてやりたいし、 せねばならんとも思う。…だが、そなたらは本当に、世界が救えるのか?」
「それはどういう意味でしょうか?」
 アクスの問いに、デルコンダル王はむしろ同情した顔をした。
「こんなことを言うてはなんだが、そなた等はモンスターを従えるハーゴンを倒せるほど強いのか?もし そなたらが倒せなかったら?わしはお気に入りのベルトをそなた等の死に場所に捨てる事と同じになる。」
「おっしゃる事はもっともです、デルコンダル王。我等は所詮王族の身。その実力を疑われるのは 当然のことでしょう。…どうすれば証明できますか?」
 アクスの言葉に、デルコンダル王はにやりと笑った。
「実はな、先日獣がこの町の近くに迷いこんできてな。これが凶暴で何人もが怪我を負った。幸い皆、呪文で回復しているが、 命が危うかった者もおる。なんとか捕らえたのだが…処分に困っておってな。そなたらがこれと戦い、倒した暁には そなたらにベルト、…いや月の紋章を授けよう。」


 玉座に座るデルコンダル王は上機嫌に笑っていた。
「いやいや見事であったぞ、ロトの末裔の勇者たちよ。深く力強く切りつけるアクス殿、剣に魔法にひらりひらりと 動き回るアーサー殿、そして魔術の花を散らし戦うアイリン殿…この戦いまっこと素晴らしかった!」
 三人の獣との戦いを見物して満足したのだろう、デルコンダル王は召使にベルトを持ってこさせると、宝石を はずし、それをアクスへと渡した。
「このようなもので良ければ、安いものよ。どうかその力でハーゴンを打ち倒し、世界を平和に導いて欲しい!」
「はい、有難うございます。」
 アクスが頭を下げると、デルコンダル王は少し真顔になった。
「だがしかし、アイリン殿、…そなたは旅するのにはあまりにも細すぎぬか?」
「申し訳ありません、デルコンダル王…。」
 か細い声でそう言うアイリンにデルコンダル王は手を上げて言葉を止めさせる。
「いや、責めているわけではない、アイリン殿。そなたはムーンブルクの最後の一人。そなたが危険を 犯して旅をする必要はないのではないか?もちろん、そなたの無念はわかるはずだ。だが、 そちらの二人は十分強いだろう。そちらに任せても良いのではないか?もし、そなたが望むなら、 落ち着くまでこちらで庇護してもかまわぬぞ。」
 アクスとアーサーはアイリンを見た。アイリンは首を振った。
「…申し訳ありません、お心遣いは感謝いたしますが…。」
「ふむ、こういう言い方は卑怯だったな。」
 デルコンダル王は王座から降り、アイリンの前に跪いた。
「先ほどの戦いを見て、そなたのその魅力に惹かれた。どうかこの国に留まり、わしの事を考えてはくれぬか?」
 その言葉に、アイリンの顔が凍った。
「も、もうし…わ…」
 震えていた。搾り出すように断りの文句を言おうとするが、顔を真っ青にしていた。
「…デルコンダル王。皆まで聞かずとも、答えはお分かりなのでは?」
 アクスは思わず口を出す。アーサーが心配のあまりかけよって、背中をさすりだした。
「…む、そうであるな。すまなかった、アイリン殿。それほど恐縮せずとも良いぞ。 また旅をするうちに、わしが恋しくなったら来るが良い。」
 アイリンは弱々しく頷いた。



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