〜 10.ひとさらいのアジト 〜


「バイキルト!!」
 エリンの呪文でルウトの腕に魔力がこもる。
「よくも!!かじりやがったな!!!」
 思い切りの憎しみを込めて、ルウトは人食い箱を真っ二つに切り裂いた。
「大丈夫?エリン?」
 エリンにホイミをかけつづけながら、クレアはエリンの体をあちこち調べる。
「ええ、平気よ。それにしてもこんなトラップがあるなんて……これからは気をつけましょう。貴方達が 攻撃されなくて良かった。」
 にっこりと笑うエリンに、クレアは申し訳なくなってうつむく。
「クレア?クレアは怪我はないか?」
「私は二人に守ってもらったから……ルウトは?」
「オレもないよ。あっても自分で治すから心配すんなって。」
 そうにっこり笑うルウトの強さに、クレアの胸が痛む。
「そうね、あまり魔力を使いすぎないほうがいいわよ、クレア。私ももう大丈夫。行きましょう。先に 来た二人が心配だわ。」
 結局グプタには追いつけなかった。意外と強いのだろうか。そう思いながら、三人は碁盤上になっているアジトを 一歩一歩奥へと進んだ。

「……やっかいね……。」
 地下に降り立った途端、エリンが額に指を添えてうなる。
「どうした?」
「人数が尋常じゃないわ。ここは本拠地のようね。100人くらいいるようね。」
「っげ……。」
「じゃあ、グプタさんたちは多分、捕まってしまって……で、でもどうしましょう…。」
 エリンはしばらく考えて、ふわりとマントを翻しながら二人に向き合う。
「私が突入して呪文で先制している隙に、貴方達は捕まっている人たちを助けに行って頂戴。」
「だ、大丈夫なのか?」
 ルウトの言葉に、エリンは笑う。
「おそらくね。それよりもあの二人が人質に取られる方が手が出せなくなるわ。」
「わ、分かりました。」
 そう頷いたのを見て、エリンはそのまま駆け出す。
「なんだおめえは?俺たちの仲間になりたいのか?」
 その言葉に、間違いなく堅気のものではないと判断して、エリンは先手必勝とばかりに呪文を放つ。
「イオナズン!!」
 爆発に敵が右往左往するが、すぐに立ち直り、後ろに控えていた無傷な者達がエリンを捕らえようと迫る。
「マヒャド!!」
 そこのエリンが放つ冷気が直撃する。
 そんな風に大騒ぎしているなか、ルウトとクレアはその横をこっそりと通り、奥へと走った。
 そこには大きな牢屋があり、それぞれ別の牢にタニアとグプタが入れられていた。
「た、助けてください!私はバハラタのタニアです!」
「助けにきてくださったんですね!その突き当りの所にボタンを押してください!!」
 グプタの言葉にルウトがボタンを押すと、牢屋が開放され、二人はそのまま走って抱き合った。
「ああ、グプタ……助けに来てくれたのね……。」
「ごめんよタニア、助けられなくて……。」
「いいえ、貴方が来てくれた事が嬉しいの……私、貴方を愛しているわ……。」
「僕もだよ……帰ったら、結婚しよう!」
「ああ、嬉しいわ!!」
 くるくる回りながら愛をささやく二人を、ルウトは躊躇いながら声をかける。
「いやお二人さん。その、愛をささやくのはいいんだが、まだここアジトだからな?」
「っは、すみません!ありがとうございました!あとでお礼をします。必ずバハラタまで来てください。」
 グプタはそう言うと、そのままタニアの手を握り駆け出す  ルウトとクレアは、二人を追いかけながら、また元のところまで駆け戻る。
「大丈夫か?!!」
「イオナズン!!」
 エリンの起こした爆発に、最後の盗賊が吹っ飛んだ。
 あたりは死屍累々で、ひどい有様だったが、エリンに怪我はないようだった。
「多分全部片付いたと思うけれど。貴方達も無事だったのね。早く逃げなさい。」
 その有様に驚いていたタニアとグプタが、エリンの言葉に我に帰る。
「は、はい……。」
 逃げようと、入り口近くまで歩こうとしたときだった。
「ふっふっふっ。俺様が帰ってきたからには逃がしゃしねえぜっ!」
 それに立ちふさがるように、のっそりと巨大な男が顔を出した。


「きゃああああああああああーーーーーーー!!」
「タニア、大丈夫だ、僕が守るよ!!」
 がたがたと震える二人だが、巨大な男はもうそちらを見ていなかった。
「なんでぇ、この有様は。……お前ら……誰かと思ったらまたお前らか。」
「また会うとは思わなかったな。カンダタ。おい、お前らここはオレ達に任せて早く逃げろ!!」
 ルウトの言葉に、グプタはタニアを引っ張って走り出す。カンダタは捕らえようとはしなかった。 後ろを見せたらやられることがわかっていたからだった。
「噂で聞いたがよ、ルウト、だったか?しっかしまぁ……女のけつに隠れて、なーにが『オレ達に任せて』だ。かっこ悪いとは おもわねぇのか?」
「んだと?」
「なんだ?事実だろうが。俺を倒したのだって、そこにいる赤毛の色っぽいねーちゃんのおかげだろうが。 な、ご立派な勇者様?」
 馬鹿にするようなカンダタの一言。だが、そこでルウトはあざけりの笑みを浮かべた。頭が冷えたのだ。
(考えろ。カンダタは何が目的だ?)
「『なんだと、言わせておけばいい気になりやがって。そういうならやってやるよ。エリン、クレア、お前達は 手を出すな。』なるほど、そう言って欲しいんだな。この有様はエリン一人でやったもんなぁ、とてもお前じゃ 敵わないから、な。」
 ルウトは頭を回転させる。ルウト一人を押し出して、ルウトを倒す。これは確かにたやすい。だが、それだけではないはずだ。 自分を倒した後、多少自分との戦いで傷ついたカンダタが、エリンに倒されるだけになる。それではカンダタには 何も変わらない。
「っは、勝てないからってそうやって引っ込むつもりか?この弱虫腰抜け野郎が!!」
 カンダタは見抜かれたなおも、挑発してくる。
 ルウトは変わらぬ笑みのまま、更に口を重ねる。
「で、オレを半殺しにして、『こいつを殺されたくなかったら、言うとおりにしろ。』ってことか。その後エリンと クレアをどういう目にあわせるつもりか知らないが、オレはそれには乗れないね。」
 カンダタの歯ぎしりが聞こえる。
「確かにオレはお前やエリンより弱い、雑魚だがな。頭がそこまで弱いと思われちゃたまらないね。」
「よく言ったわ。……最後の言葉よ、カンダタ。このまま以前と同じことを繰り返すか。それとも降参して立ち去るか。」
 エリンが杖を向ける。クレアはここで口出す勇気はもてなかったが、その横で目で訴えた。
「くっそう!!今度こそやっつけてやる!!!!」
 そうカンダタが言うと、横に控えていた部下と共に、こちらに襲い掛かってきた。

 カンダタは頑張った。部下達はイオナズン一撃で沈んだが、カンダタはその後メラゾーマ4発に耐え抜いたのだ。もちろん その間、ルウトとクレアも攻撃したが、おそらくあまり効いてはいないだろう。
 だが結局カンダタの体力はなくなり、地に沈んだ。
「参った! やっぱりあんたにゃかなわねえや……。頼む! これっきり心を入れ替えるから許してくれよ!な!な!」
 拝み倒すカンダタに、エリンは無表情で答える。
「かまわないわ。」
「ありがてえ!じゃあんたも元気でな!あばよ!」
 カンダタの言葉に、いつの間にか起きたのか、ぼろぼろになった盗賊たちが次々と魔法を使って去っていき……そして誰も いなくなった。
 その途端、エリンの体がぐらりと揺れた。
「エリン!!」
 クレアが支えるが、エリンの顔色は悪い。ルウトも近寄る。
「どうした?」
「大丈夫……ただちょっと、魔力が空っぽで……ごめんなさい。」
「そんな!エリンが謝ることじゃありません。エリン、一人で頑張って……。」
 クレアが涙目で言うが、エリンは少し息を吐き、ルウトを見た。
「ルウト、リレミトは使えるようになった?」
「え、オレ……?いや、その……。」
 ルウトが戸惑うと、エリンは息を吐く。
「レベル上げを惜しんだのがまずかったわね。もう魔力がないから歩いて帰らないと……ごめんなさい。」
「あ、……ごめん、エリン。オレは……。」
 ルウトがぐっと両手を握る。悔しくてたまらなかった。
「ルウト、エリン………私!!」
 そう言って、何かを言おうとしたクレアの両手を、ルウトは握る。
「クレア……一緒に唱えてくれないか。クレアが一緒に唱えてくれたら、オレは……。」
「ルウト……。」
 クレアはじっとルウトを見る。そしてしばらく考えて、頷いた。
 二人はエリンの横で、両手をつなぐ。頭に魔法呪式を浮かべる。この外の風景を。そして光を。
「「リレミト」」
 二人がそう言うと同時に、三人の体はふっと掻き消えた。


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