〜 11.ガルナの塔 〜


 目の前には、風に揺れる綱が渡されていた。そして向こう岸には階段。
「……綱?」
「わ、渡れってことなの……?」
 ルウトが蒼然と、そしてクレアが唖然としている中、エリンは一息小さくため息をついて、そのまますたすたと 綱を渡りだす。
「エリン!!」
「おい、大丈夫なのか?」
 エリンの足取りは確かで、バランスさえ取っていない。二人が心配する様子に、エリンはこちらを振り向く。
「心配は要らないわ。……こんな綱で渡れると考える方がおかしいもの。」
 それだけ言うと、またエリンはすたすたと歩き出す。二人は顔を見合わせる。向こう岸にたどり着いたエリンが、 退屈そうにこちらを見ていた。
「……いくわ。エリンを信じる。」
 クレアが破裂しそうな胸を押さえながら、一歩歩き出すと、その感触は予想以上に固かった。
 また一歩。やはり硬い。そういうことかとようやく理解し、それでも恐る恐るエリンのところへ歩き出す。
 その様子を見て、ルウトも同じように歩き、向こう岸にたどり着いた。
「……なぁ、クレア。」
 階段を下りながら、ルウトは苦笑する。
「……多分一番賢者にふさわしいのは、エリンだと思うんだが。」
「本当にそうね。」
 クレアは頷いて、くすくすと笑った。

 旅の扉を超えて、その向こうにも三つの旅の扉。その先にある細い塔。そして。
「変わった仕組みの塔だよな。……また綱かよ。さすがに落ちたらしゃれにならんな。」
 ルウトはそう言うと、おそるおそる踏み出すと、やはり感触が硬くて安心する。
「あとはこの向こう側だけだよな。」
「そうね。順当に行けば、悟りの書はそこにあるはず。わからないけれどね。」
 エリンはそう言って、やはりためらわず踏み出す。そこに固い床があるとわかってはいても、やはりおそろしくて クレアはびくびくと怯えながらその後に続く。そうしてようやく着いた先には、メタルスライムが待っていた。
「ご丁寧ね。経験値の高いモンスターを置いておくなんて。これは魔法は効かないわよ。」
 エリンはそう言ってメタルスライムを杖で殴りつける。クレアとルウトもそれに続くと、メタルスライムは目を回して倒れた。 その途端、体に力があふれていくのを感じた。
「うわ、すっげえ!」
「これで少しは時間節約できたかもね。レベル上げはここでするほうがいいかもしれないわ。」
 そうしてあがった階段の向こう側は、小さな小部屋に宝箱が一つ。そこには銀の髪飾りが入っていた。
「まさかこれが?」
「違うと思うわ。……これはクレアが付けなさい。こう見ても防御力はあるわ。」
 エリンに渡され、クレアが戸惑っていると、ルウトがその手からすっと取り、クレアの髪につける。それはクレアの 青い髪に、とてもよく映えた。
「ありがとう。」
 クレアがそう言って、ささやかに微笑むと、ルウトは満足したように笑った。


 階段を下りながら、エリンはじっと考え込む。
「……そうすると。あとはこの塔の構造から一つしか考えられないのだけれど。」
「ん?」
「この綱の下ね。よほど分かりにくい隠し通路ではない限り、この真下にまだ部屋があるはず。」
 エリンの言葉に、ルウトとクレアは目を丸くする。
「飛び降りろってことか?!!」
「おそらくね。この綱が見た目どおりでないように、おそらくこの下に飛び降りても、なんらかの仕掛けがあると 見るべきだけれど。あくまで推測だけれどね。だから私が行くわ。」
 降りたったエリンは、そのまま躊躇いなく綱の中央へ歩き出そうとする。そのエリンのスカートのすそを、クレアは 急いでつかんで止めた。
「わ、わ、私が行きます!!」
 クレアは震えながらもそう言って叫んだ。
「無理する必要はないわよ。」
「だ、だって、わ、私のた、ために、なんですし……。」
 目に涙をためながら、両手を握り締めてがたがた震えながらも、クレアは一歩一歩前に進もうとする。それをルウトが 抱きとめる。
「オレが行くよ。クレアは待ってて。」
「ルウト!だって!」
 ルウトはクレアの涙を拭いながら、さわやかに微笑む。
「クレアを守るのが、オレの役目だからな。」
「でも、私が、私が行かないと!」
「……待って二人とも。」
 エリンが冷静にそれを止める。
「まずクレア。貴方はやめておきなさい。」
「エリン、でも……!」
「貴方が怖がっているとかそういう問題じゃないわ。もし悟りの書があっても、合流できないでしょ?結局 ルウトか私が降りることになるのよ。ルウトも、あまり呪文は得意ではないのでしょう?もしなんの仕掛けが なかったとして、極限状態で呪文は使えるの?」
 エリンに言われ、二人は黙り込む。ルウトはしばらく考えていう。
「じゃあ三人で行くか。」
「ルウト?」
 エリンは驚くが、ルウトは平然と続ける。
「いざとなったらエリンが呪文でこの塔を脱出してくれればいいんだろう?合流の手間も省けるしな。」
「何もないかもしれないわよ?それに私が失敗したら……。」
 そういうエリンの手を、クレアは握る。
「大丈夫です。……私、エリンを信じますから。」
 震えた手は暖かく、少し湿っていた。エリンはため息をつく。
「分かったわ。行きましょう。」
 そう言われ、ルウトはエリンの手を握る。
「エリンは呪文に集中してくれ。行くぞ!!」
 そうして三人は、空中に躍り出る。悲鳴も漏らせぬほどの恐怖の中、ゆっくりと空中で何かが包み込んできた。 それはゆっくりと三人を下の地面へと降ろした。

 なにやら降り立つ鳥のような気分になりながら、そっと地面の固い感触に安堵する。
「これでこの先になにかありそうね……。」
 そうして向かうは、部屋にある地割れだった。
「……これなら腕でぶら下がれば下りれそうね。」
 エリンはさっさとそう言うと降りてしまう。ルウトは次に続こうとするクレアを抱き上げた。
「……ルウト!!」
「ごめんな、クレア。オレ、わがままでさ。」
 ルウトはそれだけを言うと、クレアが何かを言う前にそのまま穴から飛び降りた。


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