〜 13.テドン 〜


 パリッとした皮をほおばれば、中からはじわりと肉汁があふれる。スープはクリーミだが濃すぎず、さらりと 喉を通る。サラダにはオレンジ風味のドレッシングが爽やかさを沿えるが、野菜の風味を決して損ねていない。 軽く油で揚げられた魚には油っぽさも、生臭さもなく、歯ごたえが気持ちよい。
 早い話が、絶品だった。
「上手い!やっぱりクレアの作った料理は世界一だよな!!」
 凄い勢いで食べ始めるルウトに意見は決して大げさではないと、エリンも思う。
 船の中にある台所を見て、クレアは初めて見る活き活きした表情でそこでいきなり料理を始めたのだが……間違いなくエリンが 今まで食べた中で一番おいしい食事だった。
「本当においしいわ。」
「ありがとう。外だとあまり上手くなくて、思うようにいかなかったのだけどやっぱりお料理って楽しくて。 ……あの、良かったら船の中にいる間は、私が食事を作ってもいい…?」
 控えめに、しかし熱心に言うクレアの言葉を、エリンは一蹴する。
「駄目よ。」
「あ、……そうですよね。ごめんなさい。」
「おい、いーじゃねーか。クレアは料理が好きなんだよ。」
 しゅん、としたクレアに、エリンは小さく微笑む。
「こんなにおいしいんだもの。私にも教えて欲しいわ。」
 その途端、クレアの顔がぱあ、と輝いた。
「はい……はい!喜んで!!」
 本当に嬉しそうに笑うクレアを見て、ルウトは得したような何か悔しいような複雑な気分になる。
「ほら、クレアも座って、食事にしろよ。」
「そうよ、これからのことを話したいのだけれどかまわない?」
 二人に促され、クレアも座ってパンをかじり始める。それを確認して、エリンは話を始めた。

「オーブというものがあるの。世界に6つ。赤、青、黄、緑、紫、銀。ルビスの精神の欠片だとかいわれているけれど、 由来はよくわからないわ。これから先はそれを集めることになる。」
「なんでだ?」
「その6つは、霊鳥ラーミアを蘇らせる封印の鍵だからよ。霊鳥ラーミアと言うのは、まぁ、精霊に属する鳥なのだけれど、 魔王バラモスの城付近に張られている結界を解くことができるのよ。だからラーミアがいなければ、魔王の城へ 行くことができないわ。」
 丁寧な説明に、クレアとルウトがこくこくと頷く。
「6つか……場所はわかるのか?」
「そのうちの5つはね。もっとも大分前の情報だから移動している可能性もあるけれど。ただ、そのうちの黄色だけは 元々、人から人を渡り歩く性質のあるものだから、情報に乏しいわ。」
「五つは別々の場所にあるんですか?」
 クレアの言葉に、エリンはスープを一口飲んでから頷く。
「ええ、これを全て集めることができるのは勇者だけだと言われているわ。そして霊鳥ラーミアを蘇らせ、 その背に乗ることができるのも、ラーミアとその仲間達だけだと言われている。私が勇者を求めたのはそれが理由よ。」
「……それ、本当、なんでしょうか?」
 エリンの言葉に、クレアが躊躇いがちに言う。ルウトもそれに同意した。
「確かにな。なんだって勇者がそんな特別扱いされるんだか。」
 勇者は、数万人に一人生まれると言う特殊体質者のことだ。 生まれながらにして剣と魔法を双方こなし、職と言う属性に縛られない者。 神に選ばれ、世界の危機を救うために生まれると言うのが一般的な認識だ。
 だが、実際にそんな神秘の手が働いているようなことを言われると、首を傾げてしまう。
「本当にね。けれど、今まで集められたことがないのは事実よ。黄色以外のオーブには見張り役もいるそうだし。 無駄足になるよりも勇者を探した方が近道だと思っただけよ。」
 そう言って、エリンはシャリシャリとレタスをかじる。それがどこか荒っぽい気がするのは気のせいだろうか。
「はー、なるほどな。まぁ、なんでもいいか。それでどこに行くんだ?」
 ルウトの言葉に、エリンはしばらく黙った。その雰囲気があまりに重いので、ルウトとクレアは 何も言わずにエリンの言葉を待った。
 これを言えばもう、引き返せない。そう思いながらようやくエリンは口にした。
「……テドン、よ。」


 夜半すぎに、二人はエリンにたたき起こされた。
「あ…ふわぁ、あの、その、行くのはかまわないんですけれど、朝になってからのほうが、ふわぁ、 いいんじゃないかって、思うんですけれど……。」
「テドンって、村なんじゃねぇの?皆寝てんじゃね?それとも寝てるほうが都合がいいのか?」
 二人の言葉に、寝起きが悪いはずのエリンは、静かに答える。
「いいえ。……夜だと起きているわ。それが都合がいいのか悪いのか分からないけれど。……ごめんなさい、 私の感傷に付き合って。」
 エリンはそれだけ言うと、そのまますたすたと歩いていく。すると、山間にちらちらと灯りが見えた。 やがてそれが村であることが知れると、ルウトは少し首をかしげる。
「村……なんだかにぎやかだな?」
「人影も……お祭り、かしら?」
 しかし今は春の種まきでも、秋の草刈りの時期でもない。誰かの結婚式だろうか。
「違うわ。……行きましょう。」
 そう言って、エリンは村へと入っていく。すると、声がかかった。
「エリン、エリンじゃないか!!」
「バージィさん。お久しぶりです。」
「帰ってきたんだね。」
「……ええ、勇者を連れてきたわ。」
 エリンがそういうと、バージィと呼ばれた男は、少し切なそうに笑う。
「そうか……ご両親に会って行きなさい。ありがとう、エリン。」
「……知り合いなのか?」
 半ば予想しながら、ルウトはエリンにささやいた。エリンは予想通りに答えを返す。
「ええ、……ここは生まれ故郷だから。」


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