〜 15.最後の鍵 〜


 今日の料理は、クレアとエリンの合作だった。
 エリンは今までと何も変わらない。ある意味それは当然かもしれない。テドンでの事は、以前から エリンは知っていたのだから、変わりようもないのかもしれない。だから、クレア達も変わらないで接することが出来た。
 そんなわけで、昼食を食べながら今後の予定を話していたのだが、そこにルウトが待ったをかけた。
「つまり、オーブをとりに行くのに、エリン一人で行くってことだろ?オレは反対だね。」
「どうして?確かにそれはオーブを手に入れる者の資質を試すところだけれど、 グリーンオーブを私も触れたことから勇者本人である必要はおそらくないわ。 そして中に扉がある可能性を考えれば、行けるのは私よ。」
「けどエリンは回復できないだろう?何かあったらどうするんだ?」
「その時はリレミトするわ。薬草も持って行けばいいしね。」
 クレアは言い合う二人の横で、ぽそりつつぶやく。
「エリンが強いのは知ってるけど……。でも、私も心配です。」
「オレも。魔法使いはただでさえまともな装備もできないしな。しかし逆に考えると、 その神殿はアバカムを覚えたやつにしかいけないってことなのか?」
 ルウトの言葉に、エリンは首を振る。
「違うわ。本来ならば、魔の力を封じた鍵を得ていることが前提なのでしょうね。魔法がかけられた鍵は 世界にいくつかあるわ。」
「じゃあ、それを先に取りにいけばいいんじゃないのか?」
「……時間の無駄よ。私がいるのに。」
 ルウトの提案をばっさりとエリンが切り捨てる。だが、クレアがおずおずとルウトに加勢した。
「でも、あの、魔封じされている時に扉に出会ったりしたら……それに、もしエリンとはぐれたときに、 あったら便利だと、思います。」
 エリンは小さく笑う。本人達はいつもどおりにしているつもりだろうが、おそらく気を使っているのだろう。 自分に負担をかけたくないと、二人が一生懸命になっているのが分かる。
「……わかったわ。でも、そこまで言ったのだからちゃんと覚悟して頂戴ね。」
 エリンは意地悪な笑みを浮かべて二人にそう言った。


「レムオル……これで姿は見えないわ。」
 城への出入りがアリアハンと違いきわめて制限されているエジンベアの城に、透明になる呪文をかけて そっと入り込む。
「あ、あの……鍵は、お城に、あるんですか?」
「いいえ、ここにあるのは、鍵を掘り出すための鍵のようなもの。この世界の全ての鍵を開けられる最後の鍵は 海の底に眠っているそうだから。それを掘り出す宝が必要なの。それがこの城の宝物庫にあるわ。」
「それはもしかしなくとも、泥棒じゃないのか?」
 ルウトがずばっとそう言うと、エリンは笑った。
「だからいらないと言ったじゃないの。やめておく?」
 その言葉に、ルウトが黙り込む。
「……まぁ、鍵そのもので無いのなら……借りて、返せば、いいか、クレア?」
 ルウトはクレアにそう話を振る。ルウトにとって、一番痛いのはクレアに軽蔑されることだった。クレアは躊躇いながら しばらく考えて、頷いた。それを見て、エリンはまた意地悪な笑みを浮かべる。
「返すならここじゃなくて別の場所の方が親切かもね。元々渇きの壷はスーの村の宝で、このエジンベアが 強奪したものだから。」
「強奪?国が?」
 声を上げて、ルウトはとっさに口を押さえる。すでに魔法は切れている。もっとも 入ってしまえば普通にしていれば目立たないから問題は無いのだが。
「そうよ。この国はこんな辺鄙な場所にあるから。歴史だけはあるけれど、どうやってここまでの国力を維持しているかわかる? 他に攻め込んで植民地を作っているからよ。それでスーの辺りにも攻め込んだけれど、抵抗にあって 土地は取れず、腹いせにこれだけ取ってきたみたいね。もっとも使い方も分からない上、負けたことに 悔しくて倉庫の奥にしまいこんで忘れているみたいだけれど。」
「エリン……意地悪。」
 クレアが少し頬を膨らませてそう言うと、エリンはその表情がおかしくて更に笑った。


 変なパズルになっていた倉庫をあっさりと開け、そしてエジンベアから東の海へとやってきた。
「……この辺だと思うけれど……。」
 さすがに海は広く、小さなノートの知識だけでは正確には分からない。あっちにふらふらこっちにふらふらしながら、 三人で目を凝らす。
「おーい、エリン、これかーーー?」
 ルウトが指差した先には、なにやらほのかに岩陰が見えた。うっかりすると座礁してしまいそうな場所だ。
「ありがとう!それよ!!」
 ずっと目を凝らしていたおかげで目がちかちかする。それでもなんかと船を寄せて、エリンは躊躇い無く渇きの壷を 放り込んだ。
 ずずずずずずずずずーーーーーーーーー。
 たちまち壷が海水を吸い取り、その浅瀬の周りはまるで海水のカーテンのようになる。船の上から見ていると壮観な 風景だった。
「……早いうちに行きましょう。大丈夫だと思うけれど……何か怖いわ。」
 エリンの言葉にクレアが凄い勢いで頷いた。

 中は海につかっていただけあって、なにやらあちこちから海の雫がたれる。
「ひゃあ!!」
 襟に水が入って、クレアが思わず悲鳴を上げる。
「大丈夫か?クレア?足場も悪いな……あれか?」
 部屋の中央に、ぽつんと宝箱が置かれている。エリンが開けると、不思議な形状の鍵らしきものが入っていた。
「これよ。この先の部分が鍵穴にあわせて形を変えるらしいわ。」
「ほんとか?ちょっと貸してくれ。うわ!!」
 ルウトが先を触ると、それにあわせてぐにゃりと曲がる。
「うわー、おもしれー。」
 新しいおもちゃを手に入れると、使いたくなるのは人の常。ルウトは目に付いた鉄格子の穴に、嬉々として最後の 鍵を差し込んで開けた。
「うわ、マジで開いた!おっもしれー。」
「気をつけてね、ルウト。そもそもなんでこんなところに牢屋があるのかしら?」
 エリンが横からひょいっと中を覗く。すると、そこにはすでに骨となった遺体が一つ。クレアが恐る恐る 近づき、せめて祈ろうと跪く。
「……ここ、牢屋だったんでしょうか……ずっと海の底で……。」
「私は古を語り伝えるもの。」
「きゃああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー!!」
 突然しゃべりだした骸骨に、クレアは悲鳴を上げルウトにしがみつく。ルウトは剣を抜いてクレアを背後にかばった。
「なんだ??!!」
「イシス砂漠の南、ネクロゴントの山奥にギアガの大穴ありき。全ての災いは、その大穴よりいずるものなり。」
 骸骨はクレアにもルウトにも気に留めず、言うだけ言って沈黙した。
「……これは、おそらく自分の死体に魔法をかけて、この鍵を開けたものへのメッセージを封じ込めたのね。」
 エリンが骸骨をざっと検分し、そう言った。
「ギアガの大穴って知ってるか?」
「知っているけれど、その前に出ましょう。ここじゃ落ち着かないわ。」
 エリンの言葉に二人は異議なく頷くと、逃げるように洞窟を出た。


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