乾きの壷を返そうと、遠回りになるがそのまま大陸を渡り、複雑な川を抜けたいわゆる未開の地へと やってきた。 「ここスーの村。お前達旅人か?」 どこか不思議なイントネーションでしゃべる村人は、顔に不思議なペイントを施し、不思議な羽飾りをつけていた。 「ええ、偶然これを手に入れたのだけれど、ここの物だと知って返そうと思ったのよ。」 エリンがしれっと乾きの壷を見せると、村人は飛び上がった。 「こ、この魚のついた壷、昔取られたと聞く!酋長のとこ行く!!」 村人はそう言うと、三人を先導してとある家に入る。 「酋長!村人が乾きの壷、持ってきた!返してくれるて言ってる!」 「ん?ほほう、これはまさしく乾きの壷じゃな。お客人、これをどうして?」 「旅をする上で必要になって手に入れたのだけれど、もう必要なくなったから返そうと思って。」 「ふむ……なるほどな。お客人、これは我が村の象徴ともいえる宝。返してくださって感謝する。何かお礼が したいのだが……。」 酋長は深々と頭を下げ、エリンに問いかける。エリンは少し考えていった。 「オーブを探しているの。大体の場所は把握しているのだけれど、黄色だけが分からないわ。スーの村にも オーブの伝承は残っていたはず。何か知らないかしら?」 「ふむ……黄色は人から人へと渡るもの。ならば逆に人の集まる場所を探せばいいのでは?」 「アリアハン、ロマリア、ポルトガ、アッサラームあたりか?」 ルウトが言うと、エリンはうなる。 「確かにそうなるけれど、一般の市場に出ている可能性は低いわ。どうやって探せばいいのかしら……?」 「ならば逆に、探せる立場の場所を作ればいい。……今、ここから東の場所に、わしらの仲間が町を 作ろうとしている。わしらは開拓は得意だが、町づくりのやりくりは苦手でな。誰か商いのできる仲間をその 町に置き、一緒に町づくりをしてくれんかね?もしその町が発展し、オーブがそこに引き寄せられてきたら、 そのオーブは必ずあんたらに渡すと約束しよう。」 村を出て、三人は頭を付き合わせた。 「確かに、オーブを探すのが困難ならば、こちらから待てばいい、この意見は合理的だわ。もちろん私たちが探すのと かね合わせてだけれど。……けれど、商い……。」 「まぁ、普通に考えたら商人だよな。オレ等は無理だしなぁ。」 「そうね。とりあえずアリアハンに行きましょうか。あそこのルイーダの酒場には旅人が登録されているから、 そういうことをやりたがる商人がいるかもしれないわ。」 エリンの言葉に、クレアとルウトの顔が曇る。 「アリアハンは……なぁ。」 「何?クレアはともかく、ルウトも嫌なの?」 エリンが顔をしかめると、ルウトは目線をそらしながらぽつりとつぶやく。 「魔王倒すまで帰らないって決めたし……クレアとの付き合いに反対されてる。」 クレアが不安そうにルウトを見上げる。そうしてぽつりと口にする。 「あ、あの……ドーゴさんにお願いしてみるのは……どうでしょうか……。」 クレアの言葉に、二人が固まる。クレアはおかしなことを言ったかと、もう少し早口で言葉を足す。 「あ、あのドーゴさんはその、修行中だと言ってたから、無理かもしれませんけれど、その、もし駄目ならお友達を 紹介してもらうのもいいと思うし……。」 「いいわね、それ。」 エリンが俄然やる気になる。ルウトはちょっと面白くなさそうにつぶやいた。 「……なんかなぁ……。」 「???」 くるん、と目を丸くするクレアが可愛くて、少しルウトは心配になる。それを横目に、エリンは呪文を唱えた。 ドーゴの店は覚えていた。ルウトが先頭に立ち、店の戸をくぐる。知り合いではないエリンは、後ろに控えておくことにした。 「いらっしゃいませ、私のオトモダチ!今日は一体なんの御用で?」 「悪い、客じゃねぇんだ。ドーゴにちょっと用があるんだが。」 ルウトがそういうと、今まで愛想良く笑っていた店主の顔が、がらりと変わる。舌打ちをして、店主が声をあげる。 「おーい、ドーゴ!!お前に客だとよぅ!!」 「は、はい、ただいま……クレアさん!ルウト君!!どうしたんですか?」 ドーゴが顔をぱっと明るくしてこちらに駆け寄ってきた。 ルウトはじっとドーゴをにらむ。元々目つきのきついルウトににらまれ、ドーゴはおろおろとした。 「あ、あの、ボクが何かしましたで……しょうか……?」 「いや、実は頼みがあるんだ。」 ルウトは自分の髪をかきむしりながら、スーの村の開拓のことを説明した。 「もちろんお前にも仕事があるだろうし、無理にとは言わないがどうする?」 「……ボクが、町の開拓の手伝いを……?」 ドーゴは明らかに戸惑っていた。考えもしなかった、という感じだ。 「駄目なら誰か他の商人を紹介してくれると助かるんだが。」 「で、でも……あの、ドーゴさんなら、いい町を作れるって、私、思うんです……だから……。」 クレアがおずおずとそう言うと、ドーゴが困ったように笑う。 「そう、ですか?ボクが……?だって、ボク存在感ないし……。」 「で、でもとても優しいし、頑張りやさんだと思うから……あの、その無理言ってるのは分かるんですけれど……。」 クレアが重ねてそう言い、ドーゴは破願した。 「ありがとうございます、クレアさん。今頑張っているクレアさんたちにそう言われるのは恥ずかしいですが元気が でました。それで、開拓のことなんですが……。」 「行って来い、ドーゴ。」 声がして振り向くと、店主がこちらを見ていた。 「素晴らしいじゃねぇか。新大陸の開拓!なんて熱い話だ!これに乗らなきゃ男じゃないね!新しい商売の 波が来てるぜ!逃すのは馬鹿だ!行って男になって来い!!」 「は、はい!!ありがとうございますおやっさん!!」 ドーゴが満面の笑みで返事をした。 「まぁ、不安だろう、あとでオレからも人を送ってやるよ。お前の親父にはちゃんと説明しておいてやるからな。 頑張って来い!!」 どん、と背中を押し、店主はドーゴを送り出した。 アッサラームからスーの開拓地への船旅の中で、ドーゴに詳しい事情、主にオーブのことを説明する。 「分かりました。お役に立てるかわかりませんが、覚えておきます。」 「悪いな。」 ルウトが言うと、ドーゴは首を振る。 「いえ、正直言うと、ボクは向いてないんじゃないかってずっと思ってたんです。でも、開拓のことを聞いて 心が躍っています。新しい町を作る……ずっとボクがやりたかったことかもしれないって思っているんです。だからありがとう、 ルウト君。」 「お前……えらいよな。」 まっすぐに礼をいうドーゴに、ルウトは嫌味じゃなくそう言う。ドーゴは目を丸くした。 「え?」 「いや、頑張れよ。」 「ルウト君も……頑張ってください。……ルウト君なら、きっと……きっと立派な勇者になれるとボク信じてます。」 ドーゴのその言葉に、ルウトは本気で頭を下げたくなった。 「ありがとうな、ドーゴ。……けど、クレアは絶対に渡さないからな!!!」 「そ、そんなボクなんてそんな身の程知らずじゃありませんし、クレアさんはルウト君とお似合いですから……。」 そう首を振りながら弁護するドーゴの肩を、ルウトは軽く叩いた。 「いいのか?ここに骨を埋める覚悟、あるか?」 開拓地にいたスーの老人は、ドーゴにそう尋ねる。ドーゴは一瞬ためらって頷いた。 「はい、ボクで、よければ。」 「そうか、頑張る。二人でいい町作る。」 老人は頷いてから、ルウトたちの方を見た。 「オーブのこと、聞いてる。またしばらくしたら来い。」 「分かったわ。……ドーゴさん、お願いするわね。」 「頑張れよ!」 「ドーゴさん、ありがとう。きっとドーゴさんなら素敵な町が作れます。」 そう言って別れる三人に、ドーゴは力の限り手を振った。 |
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