船はそのまま南下することになった。 「ランシールに行くんじゃないのか?」 船を操りながら、ルウトはエリンに尋ねる。 「せっかくここまで来たのだから、別のオーブへ行った方が効率的だわ。ここから 南に海賊のアジトがあるわ。レッドオーブはそこにあるはずよ。」 「あの……海賊……ですか?」 「ええ。でも良い人よ。私が……テドンを出るときに乗せてもらったの。」 『アリアハンになんて、なにしに行くんだい。』 『勇者を手に入れて、オーブを集めるわ。』 そう言って目を丸くしたのを覚えている。最後は笑って送り出してくれた。 『しょうがないね。いつか勇者を手に入れたら、こっちにおいで』と。 「いい奴っていってもなぁ……。オーブなんで持ってるんだ?」 「……テドンで言ったでしょう?オーブを集めようとしたけれどできなかったって。それをしようと したのが、先代の海賊の頭だったそうよ。けれど結局数々の困難に阻まれ、ジールに 何日も頼み込んで持ってきてもらったオーブには触れることすらかなわなかった。手が透けて通ったそうよ。」 エリンの言葉に、ルウトとクレアがごくりと息を飲む。 「だから、貴方の資格がなければ、レッドオーブでもそうなるはず。……覚悟しておいて。」 「……ああ。」 ルウトは緊張の面持ちで頷く。クレアが心配そうにルウトを見上げた。 「あ、あの……だ、大丈夫……かな。」 「大丈夫だ。クレアはオレが信用できないか?」 「そ、そんなんじゃないけど……でも……私……。」 「もう何も言うな、クレア。オレは……。」 そっとクレアの頬に手を添えて言うルウトに、エリンはふう、と息をつく。 「仲がいいのはいいのだけれど、それ以上のことをするなら部屋でしてくれるかしら?」 「あああ、ごごごごごごごめんなさいぃ。」 「ああ、悪い悪い。」 クレアは真っ赤になりながら、ルウトは微笑しながら謝る。 エリンもそうは言ったものの、対して気分は害していないようだった。 「ふふ、ルウトが選ばれるように私も祈っているわ。」 やがて空に星の灯りが燈る頃、船はゆっくりと海賊のアジトまで近づいていく。 船から降りると獣道のような仄かな道の先には、ぼんやりとした灯り。それを目指してエリンと二人は進んでいった。 アジトと言っても、カンダタの時のように変な塔だとか洞窟ではないようだった。むしろ住みやすい、立派な 屋敷に見える。 「なんだお前らは?」 おそらく見張りなのだろう。いかにも荒くれの男が屋敷付近でエリンを見下ろす。エリンは動じもせず答えた。 「私はエリン。レットはいるかしら?」 「なんだと?御頭に用なのか?」 「ええ。尋ねてくるようにと言われているのよ。話を通してくれるかしら?」 エリンにそう言われ、男はいぶかしげに屋敷に入っていく。少し待っていると複数の男達の足音がして、扉が 開いた。 「エリン!来たんだな!」 「おおエリン、いい女だな!目の保養だ!」 「おい、奥にはまた女がいるぞ。かーわいーい。」 「おお、なかなかいい感じだな。オレよりもダットの好みじゃねえの?」 わいわい言いながら、エリンとクレアの品定めを始める。エリンの方は前に会っているのだろう、嬉しそうに 声をかけてくる。 「あ、すみません、御頭がお呼びです。こちらです。」 最後に最初に話しかけてきた男が、その男達を掻き分け、エリン達を引き入れた。 アジトの奥へとずんずん進み、おそらく一番良い部屋の前に止まる。すでに話しは行き届いていたのだろう、 部屋の前で見張りをしている男が頭だけ下げてくる。 「御頭、客人を連れてまいりました。入ります。」 「ああ、いいよ。」 その声に違和感を感じる間もなく扉が開き、中から黒髪の女が姿を見せた。 切れ長の目に、余りにも大ボリュームで迫力の体つき。エリンもなかなかに色っぽい大人の女だが、 それとは少し違う。例えて言うならば、エリンがウイスキーでこちらは薫り高いロゼワインと言ったところだろうか。 「エリン、久しぶりだねぇ。良くきてくれたよ。」 「遅くなったわね、レット。貴方も元気そうで何より。」 嬉しそうに言う黒髪の女に、エリンも少し嬉しそうに笑いかける。 「……女?」 思わずルウトがいぶかしげに言うと、女はその言葉を聞きつけて声をかけてきた。 「あたいはこの海賊団の御頭のスカーレット。レットって呼んどくれ。で、女が御頭だとおかしいかい?」 「わざわざ女がやる仕事でもないだろう?こういう荒事は男の方が向いているのは明らかだ。」 ルウトがそう答えると、レットは笑う。 「あっはっはっは、随分はっきり言うじゃないか、気に入ったよ。」 「……辛くは、ないんですか?……」 ルウトの後ろから、クレアが小さな声で尋ねると、レットはなんでもないように答える。 「ま、一応親父の跡継ぎなんだけどさ。あたいにはなかなかあってたようだね。辛いことも確かにあるけど、それは どの道を選んでも同じことじゃないかい?」 「……。」 クレアは少し困ったように笑う。レットはルウトに視線を移した。 「で、あんたは自分の父親のことどう思う?」 「頑固者のくそ親父だな。」 ずばっと答えたルウトに、レットは大声で笑う。 「あっはっはっはっは、言うねぇ言うねぇ。でもあんたはその父親の跡を継いだ。なんでだい?」 「…………跡を継いだつもりはない。オレはクレアを守りたいだけだ。」 少し気まずそうに、照れたようにいうルウトをレットはじっと見つめ、それからまた豪快に笑った。 「ま、いいか。持っていけるようなら持って行っていいよ、レッドオーブ。親父の墓の横の倉庫に入れてあるよ。」 「ありがとう。そうさせてもらうわ。」 エリンが言うと、レットは真顔になる。 「ただ、一度全部そろえることが出来たら、どうか一度持ってきておくれ。それから今日は泊まっていきな。あんたらが取りに 行ってる間に用意しておくよ。」 「わかったわ。」 裏庭の隠し倉庫。その中にレッドオーブは入っていた。エリンに促され、緊張の面持ちでレッドオーブをつかむとあっさりと 現実の手触りを手に入れる。 「……本当に集められないのか?これ?」 クレアも触ってみるが、なんら変わりなさそうに思える。 「伝説なんてものは、実際手にしてみると現実となんら変わりないものなのよ。」 エリンがレッドオーブを撫でながら、少し寂しげに言った。 館に帰ったら酒盛りが始まっていた。 「ああ、本当に手に入ったんだね。そんなわけで今日は無礼講だよ!!じゃんじゃん飲みな!!」 レットの言葉に応じて、男達が歓声をあげる。 長く短い夜が始まった。 そうして、皆ほどよくお酒が入り、時にクレアにちょっかいを出した男が、ルウトに成敗されている中、 レットとエリンは差し向かいで酒を飲んでいた。 「事態は最悪だね。ガイアの剣はサイモンのとこだ。」 「……そう、予想はしていたわ。」 エリンは無表情でそう言うと、酒を煽る。レットが少し笑う。 「けど、鍵が出てきた。グリーンラッドのじいさんとこにある。困ったら行きな。案外本物なのかもね、 あの勇者は。」 「そうね、……本人は偽者だと言っていたけれど。」 そういうエリンの口角があがる。それを見て、レットがにやりと笑う。 「いい顔をするようになったね。あの無表情が嘘みたいだ。あの二人のおかげかい?」 「……そうでもないわよ。」 決して口にする事はないが。こうして歓迎してくれ、差し向かいで飲んでくれる相手がいる。 エリンはその空気に良いながら、口元を隠すために器を傾けた。 |
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