〜 22.グリーンラッド 〜


 氷の大地を進み、ようやくその先に家を見つけたときには、四人はホッとした。
 四人とは、勇者、賢者、武闘家、そして僧侶。
 エリンはあの後ダーマへルーラし、「これで文句ないでしょう?」とさっさと僧侶になったのだ。
 その顔と目が赤いことに、三人は気がついていたが、三人とも何も言わなかった。
 カザヤのことについては、エリンはひとまず横においておくことにしたらしく、特に何も言わなかった。 そんなわけで、カザヤはニコニコしながらグリーンラッドの小屋まで共に着いてきたのだ。
「……いるかしら。雪原の識者。」
 エリンが小屋の扉をノックしながらそう問うと、中からしわがれた声がした。
「おや、懐かしい名前じゃな。じゃが、ここにいるのはただの道楽じーさんじゃよ。」
「……そう。レットの紹介で来たの。入るわよ。」
 エリンはそう言って扉を開けた。中は想像通り小さな部屋で、椅子と机と暖炉、それから箪笥と寝る場所があるだけだった。
「おやおや、お客さんじゃな。……よしよし、勇者を連れてきたか。ということはオーブの件じゃな。」
「そうよ。ネクロゴンドへ行くためのガイアの剣はサイモンの元。そしてそのサイモンは嘆きの牢獄に 入れられたと聞いたわ。」
 エリンが言うと、老人が笑う。
「ほっほっほ、じゃが、あそこへ行くにはオリビアが邪魔しておる、と。そう言うわけじゃな。」
「オリビア?」
 ルウトが思わず口を挟む。どう聞いても人の名前なのだが。
「正確に言うと、オリビアの幽霊じゃな。恋人が騙され、奴隷船に送られたあげく、その船が難破してな。岬から身を投げて、 その岬で通せんぼしておるのじゃよ。」
「その鍵を持っていると聞いたわ。」
 エリンがそういうと、老人はまた笑う。
「持っておる。持っておるが、そうじゃな……ただでは渡せぬ。わしのコレクションゆえにな。 代わりの物をよこしてもらおうかの。」
「代わりの物……ですか?」
 クレアがそう言うと、老人は目を細くして笑う。
「変化の杖を知っておるか?実はあれが欲しいんじゃよ。」
「……そう、とんだ食わせ者ね。」
 エリンがそう言うと、老人はまたほっほっほ、と笑った。


 小屋を出て、カザヤは船へと戻るエリンに話しかける。
「よくわからないんだけど、どういうこと?」
「変化の杖は、サマンオサ王が持っている国宝よ。」
「つまり無理難題を吹っかけたということか?」
 ルウトが憎々しげに言うが、エリンは少し首をかしげる。
「それだけを聞くなら。けれどそこにレットの情報が加わると話しは変わるわ。レットはサマンオサは今、鎖国していると聞いたわ。 そして今まで温和だった国王は恐怖政治を始め、少しでも王に逆らうものは即刻死刑にしているそうよ。」
「……なんだかどこかで聞いた話だね。」
 カザヤはにっこりと笑うが、目は笑っていない。エリンも頷く。
「そこに変化の杖、という情報が加わると、話は一つ。おそらくモンスターたが変化の杖を使い化けているのでしょうね。 つまりそれを何とかして来い、ということなのでしょうね。」
「で、でも……その、なんとかできるんでしょうか……?だって、その……ジパングの時はヤマタノオロチを倒しに行きましたけど ……もし間違いだったら……。」
 クレアがおずおずと言うと、エリンはにっこりと笑った。
「そうね。万が一間違いだったら私たちはお尋ね者よ。けれど大丈夫。サマンオサには変化の杖の正体を暴く ラーの鏡という宝があるの。それを使えば変化を解くことができるわ。近くの洞窟に封印されているはず。 まずはそれをとりに行きましょう。」


 ようやく船が見えてきた。それを見て、ふとルウトがカザヤに話しかける。
「ふと思ったんだが、カザヤがオリビア?を祓うってのは無理なのか?」
「無茶だよ、ルウトにーちゃん。僕はちょっとそっちの方向に目と耳がいいだけなんだから、祓う力なんてないよ。」
 カザヤは呆れたように言うが、ルウトはよく実感がわかない。
「そうなのか?」
「そうだよ。そもそも幽霊になるには、心身ともに鍛えられているか、よっぽど心残りがあるか、あとは何か物が手助け してるか、死んだことに気がついてないか、それくらいかな。祓うにはまぁ、その原因を取り除いて あげるか強引に力で押し通すかのどっちかなんだよ。」
 そう言って、カザヤは空を見る。
「僕がなんとかできるくらいなら、とっくに誰かがなんとかしてるよ。それこそ僧侶にそういう呪文、 あるんじゃないの?よく知らないけど。」
 カザヤは案外物を知らない。あんな国にいたのでは当然だが、その代わり驚くようなことを知っていることがある。
「カザヤは……どんなものが見えるの……?人のこととか、全部分かるの?もし分かるなら、カザヤが 直接、王様を見れば分かったりしないかしら……?」
 クレアの言葉に、カザヤは考える。
「王様が人を殺してるなら、後ろに殺された人がいる可能性はあるけど、それでモンスターか人かはわからないよ。 何も話してくれないかもしれないし。」
「案外不便なもんなんだな。何でもわかるのかと思ったんだがな。」
 ルウトの言葉にカザヤは苦笑した。
「普段は多分皆と一緒だよ。エリンねーちゃんの後ろも、もう今はほとんど見えてないし 、何も聞こえないよ。僕に伝えて、大体満足したみたいだし。普通の人間の後ろにはたいてい何もいないしね。 ルウトにーちゃんもクレアねーちゃんもね。」
「そうなのか。」
 どこかホッとしたようなルウトの声音に、カザヤがからかうように言う。
「だからルウトにーちゃんが浮気しても、僕には分からないけどね。」
「するか、ぼけ!!!」
 ルウトは笑いながらカザヤをつかみあげ、そのまま乱暴に船に積み込んだ。

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