〜 24.サマンオサ 〜


 こっくりこっくりと居眠りをしている兵士の脇を通り、四人はいわゆる勝手口から城へと侵入した。
 月も高く上る夜半過ぎ。こんな時間にこっそり進入することを、エリンはこう語った。
「モンスターが変化の杖を使って化けていると言うのは、私の推測に過ぎないわ。もし間違いだった場合、 不敬罪で死刑を免れないわ。それに本当だった場合、おそらく戦闘になる。周りに人が少ない可能性の高い 夜のほうが何かと都合が良いわ。」
 そういうエリンの言葉に特に反対はなく、四人は昼にたっぷり仮眠をとって、こうして盗賊のように城へと乗り込むことに なった。

「しかしなんだな……王様の部屋ってそう簡単に入れるもんかな。警備とかいそうだよな。」
「うーん、王様に気づかれないように、警備の人、なんとか捕獲できるかな?」
「まぁ、二人がかりで一気に行けばなんとかなるだろ。」
 ルウトとカザヤがひそひそと話すがクレアは首を振る。
「ほとんどの方が、恐怖におびえているという話ですから……どうか手荒な事は……私がラリホーします。」
「まずは見つからないことね。扉よりも窓から入ることを考えましょう。」
 エリンの言葉に、カザヤは少し考える。
「……ところでさ、エリンねーちゃん。」
「なに?」
「もし、王様がモンスターじゃなかったら、どうするの?」
 カザヤの言葉に、エリンも熟考する。
「そうね。また出直すのは時間の無駄ね。そのまま城を探索できればいいけど。」
「王様、悪い人なんだよね。ほっておいてもいいの?」
「カザヤ、そう単純にはいかないわ。どんなに間違っていても、王はこの国の象徴でありトップ。突然 いなくなれば、後継者問題なんかで更に荒れる可能性もある。もし革命を起こすことになるなら、きちんと この国の住人と反乱軍を起こさなければ駄目よ。何より賞金首になるのはごめんだわ。」
 エリンもそう言われ、カザヤは少し考えを改めたようだった。
「ふーん、そっか。難しいんだね。」
「まぁ、モンスターであることを祈るのみね。」
 ようやくたどり着いた尖塔の頂上から、エリンはバルコニーへと飛び降りた。

   ラーの鏡に映っていたのは、ぶよぶよとした巨大なモンスターだった。
「見ーたーなー!生かしては帰さぬ!!」
 モンスターはそういうとこん棒を振りかざす。飛び避けるが、クレアが遅れた。
 人よりも大きなこん棒が、クレアの頭を捕らえた。
「クレア!!」
 止める間もなく、ルウトがクレアが飛ばされた方向目指して走り出す。敵に背中をさらして。
「ルウト!!」
 エリンが思わず声を上げるが、どうやら敵は巨大なせいか、すばやさはいまいちらしい。ルウトを目掛けた攻撃は空振りし、 武器は地面に落ちた。
「クレアねーちゃん!大丈夫?!」
 カザヤはちゃっかり敵に腕に攻撃を加えながら、そう声を上げる。
 ルウトが駆け寄ると、クレアはなんとか体を起こして大量の血が出た頭に手を当てながら回復魔法を唱えていた。
「大丈夫か?クレア?!」
 クレアはルウトの目を見て小さく頷くと、叫ぶ。
「私は大丈夫です!回復は私がします!!」
 その言葉を聞き、ルウトは差し伸べた手を止めた。くるりとクレアに背を向け、剣を握る手に力を込める。
「頼むな、クレア。」
「はい、ルウト!」
「オレのクレアに何てことしやがる!!!」
 ルウトはそう叫ぶと、力を込めてモンスターに切りかかった。

 クレアの可愛らしくもりりしい声が聞こえ、エリンとカザヤは心で胸をなでおろす。とはいえ、 忌々しくルカナンなど唱えてくる敵は、いまだ健在なのだが。
 クレアの言葉に了承し、エリンはカザヤにバイキルトをかけた。
「カザヤ。貴方は全力で殴りに行きなさい。」
「うん、エリンねーちゃん、よろしく!!」
 そうしてスクルトで身を固め、バイキルトで攻撃力をあげ、エリンの呪文と一緒にモンスターをただひたすら攻撃 し続けた。


 あっという間にモンスターは地に伏せ、王城は大騒ぎとなった。どうやら地下室には本物の王が囚われていたらしく、 それが国民に知らされると、たちまち国は喜びに沸いた。
「そなたらはわしの命の恩人だ、礼を言うぞ。」
 王座に腰掛け、やややつれた王がそう言うと、ルウトはおずおずと頭を下げた。
「王様、恐れながらお願いがあります。この国の宝、変化の杖が必要なのです。どうか賜る事は できませんか?」
「聞くところによると、そなたらはアリアハンの勇者一行らしいが、真か?」
 王の言葉に、ルウトは首を振る。
「はい。」
「つまりそなたが、噂に聞くオルデガの息子か。魔王退治を志しておるとか。」
 ルウトは少し困ったように笑うと、王に頭を下げた。
「はい、魔王バラモスを倒すため、国を出て、この国にたどり着いてまいりました。」
「ふむ。わかった。もとよりモンスターに奪われ、悪用されておった物、勇者に与える方がよほど 有益であると言えよう。」
 王が合図すると、家来が変化の杖を持ち、それをルウトに渡した。
「吉報を待っておるぞ、勇者ルウト。」


 城を出て、カザヤはまじまじとルウトの持つ杖を見る。
「勇者って良く分からないけど凄いんだね。ルウトのお父さんのオルデガさんっていうのも強いの?」
 カザヤの言葉に、ルウトは困ったように言う。
「らしいな。オレは正直覚えてないんだが。火山に落ちて死んじまったって話しだし。」
「そもそも勇者って何?」
「言ってなかったか?」
 カザヤの言葉に、ルウトはぽかんと聞き返す。
「魔王を倒すって言うのは聞いたけど。」
「勇者は、言ってしまえば職業の一種よ。カザヤが武闘家なのと同じ。……ただ、勇者という 能力者は神に選ばれるって言われてるから、自分で選ぶ事はできないらしいわ。凄い 力があるってことになってるから、期待され、恐れられる。神の加護があり、他の人間にはできない 偉業を達成できると信じられているわ。」
 少し苦々しげに言うエリンの言葉に、カザヤは首をひねった。
「でもそれと、変化の杖を渡しても良いって言うのとはまた別物のような気がするんだけど。」
 カザヤの言葉に、ルウトは少し苦笑した。
「まぁ、それは勇者オルデガって言う前例と、一応アリアハンとの関係なんだろうな。……すごい勇者だったらしいからな。 オレも小さかったから覚えちゃいないが。」
「ふぅん……色々あるんだね。」
 カザヤはじっとルウトを見つめ、それからにこっと笑った。
「でもまぁ、結局はルウトにーちゃんが頑張ったからだよね。」
「ばあか、違うだろ。オレはまぁ当然として、エリンとカザヤと、それからクレアがいたからだろ。」
 最後に少し寂しそうにしていたクレアの肩を抱き寄せて、ルウトはにかっと笑った。
「そんな、私は何も……。さっきも私、失敗してしまいましたし……。」
「そんなことないって。オレはクレアがいるから強くなれるんだし……さっきもとても綺麗だった。」
 そうみつめあって二人の世界に入ったルウト達を、カザヤとエリンは苦笑して見ていた。


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