死してなお、英雄サイモンに守られていた宝剣ガイアの剣は、優美な曲線を描いた美しい剣だった。 「これを、ネクロゴンド近くの火口に投げ込めば、新たな道が開けるはず。そうすれば、 おそらくネクロゴンドへの洞窟へつながるはずよ。その先にシルバーオーブはあるわ。」 エリンの言葉に頷いては見たものの、ルウトはなんとなく甲板の上でガイアの剣を抜いては眺めていた。 「ルウトにーちゃん、なにやってるのさ。」 「おう、カザヤ。いや、もったいないなと思ってな。クレアとエリンは?」 「ん、二人ともご飯作ってる。今日グラタンだって。」 カザヤはそう言うと、ルウトの隣に座った。 「投げちゃうんだっけ?確かにもったいないよね。あの勇者さんだっけ?、ずっと守ってたんだろうしね。」 すでに人格はほぼなく、ひたすら剣のことだけを口にしていた魂を思い出す。 「……まぁ、そのために守ってたんだろうな。勇者ってのはそういうもんらしい。世界のために自分の 命を捧げられる、そういうやつなんだろう。」 「ルウトにーちゃんも勇者なんでしょう?」 穏やかに笑うカザヤに、ルウトは自嘲しながら答える。 「オレは偽者だよ。世界なんかどうでもいい。オレが命をかけるのは、クレアの為だけだって決めてるんだからな。」 「でも、クレアねーちゃんは、そんなこと望んでないと思うよ。」 カザヤの言葉に、ルウトはガイアの剣を鞘に収める。 「……わかってるよ。クレアが望んでないことくらい。……オレのわがままだ。オレがどうしてもやりたいからやってんだ。」 ガイアの剣を握り締める。あの勇者には及ばない。自分を勇者とも呼べない。それでも、それでも、 どうしても。 「わかるよ。……なんとなくだけど。」 カザヤがにっこりと微笑む。ルウトの手の中でガイアの剣がかちゃりとなる。 「でもさ、ルウトにーちゃん。まずは生きる努力をしてよね。」 「当たり前だ。……ありがとうな。」 そうして二人は笑いあった。 立ち並ぶ巨大な劇場に宿屋、それに立派な店舗。それはアリアハンと同じ、いやそれより上かもしれない。それくらい 発展した町並みに、エリン、ルウト、クレアは目をまん丸にした。 「どうしたの?」 街の入り口でぼんやりとしている三人に、カザヤは目を丸くする。 「……ここ、ドーゴを置いてきた場所で間違いないよな……?」 「ええ、そのはずなんだけれど……でも、まだ半年と経っていないわ。どうなっているの?」 「すごいんですね……ドーゴさん……。」 「……よくわかんないけどさ、とりあえずそこらへんの人に聞いてみたら?」 カザヤは三人を落ち着かせ、そのあたりを歩いていた人に声をかける。 「あのーすみませんー。ここ、なんて街ですか?」 「旅の子供か?ここは一応ドーゴバーク、という名前になっているが……改名するかも知れんな。」 カザヤが声をかけた男が奇妙なことをいう。 「え?どうして?」 「ここは創始者ドーゴだけの街ではないからな。創始者……いや、独裁者ドーゴは革命による牢に入れられた。この街に 平和が訪れたのだ。」 「なんだって?!!」 ルウトが男につかみかかる。 「ドーゴが独裁者?そんな嘘だろ?!」 「う、嘘なもんか。ドーゴは重税を敷き、自らの欲望のために、我らを酷使した。今は牢に入れられている!嘘だと 思うなら見て来い!」 男はルウトを振り払い、憤慨して去っていく。三人は顔を見合わせた。 男が語ったドーゴの行動は、とても自分の認識とは一致しない。付き合いが薄いエリンもそう思うが、ルウトが昔の記憶を 掘り起こしても、温和で内気でお人よしな印象しかない。 「そんな、ドーゴさんがそんなことするなんて……信じられません。」 「とにかく、それが事実か確認するために、牢へと行ってみましょう。イエローオーブも気にかかるしね。」 四人は急いで牢へと向かった。すると、まだ新しい牢の一室に、確かにドーゴは大きな体を小さくしながら 収まっていた。 「ドーゴ?!」 「ドーゴさん?」 ルウトとクレアが声をかけると、うつむいていたドーゴが牢の中から顔を上げた。 「クレアさん……来て、しまったんですね。よりにもよって、こんな最悪なときに……いえ、今がいいのかな。」 「ドーゴさん、どうして牢屋になんて……。」 牢屋の外で、クレアはドーゴと目線を合わせるために膝を突く。ドーゴは小さく笑った。 「街の人たちに……聞きませんでしたか?」 「独裁者だって……でも、ドーゴさんはとても優しい方です。学校でも、良くして下さいました。お花にお水やるのを手伝って 下さったドーゴさんが、そんなことしません。」 鈴の鳴るような声で、それでも力強く言うクレアに、ドーゴは小さく微笑む。 「……最初は、楽しかったんだ……。力をあわせて小さな店を作って……でもここはポルトガやアリアハンとの位置関係が良くて、 いろんな人が来て、僕もびっくりするくらい発展していった……。」 「ああ、お前凄いぜ。この街きてびっくりしたもんな。」 ルウトの言葉に、ドーゴは首を振る。 「……ボクは何もしてません。……皆が凄かったんです。そう、あとから、アッサラームでお世話になっていた親方 が、人を送ってくれたんです。ボクや長老の指示を良く聞いてくれて、色んな提案をしてくれて……軌道にのって、 更に街は発展して行った、そんな時でした。」 ドーゴはうつむく。少し悔しそうに手を握り締めた。 「……でもいつのまにか彼らはボクの名前を使って、人を働かせ、お金を手に入れるように なって来ていたようです……ある日、革命が起こりました。そのときには、その人達は一人もいませんでした。」 「じゃあ、お前、いいように利用されてたんじゃないか!!お前、何にも悪くないだろ?!」 ルウトが怒りに任せて叫び、クレアは少し涙ぐむ。 「そうですよ、ドーゴさんは来てくれた人を信用していたのでしょう?なのに、こんなのって、ひどいです……。」 「ありがとう。クレアさん……。」 涙を拭くクレアの背中をルウトは優しく撫でる。そしてドーゴを見た。 「なぁ、ドーゴ、オレたちと一緒に来ないか?」 「え?」 ルウトの言葉にドーゴは驚く。 「元々オレたちが、イエローオーブを手に入れるためにやったんだし、ここで罪人になるのはあんまりだぜ。 まぁ、魔王退治に一緒に来いって言うんじゃなくて、どっか落ち着く場所まで一緒に」 ルウトの言葉を遮って、ドーゴは首をふる。 「……やめてください。いいんです。……本当はうすうす分かってたんです。皆のたくらみも、街の人達が 苦しんでいるかもしれないことも……分かってたんです。妙に立派な屋敷を建てさせて、名前にボクの名前を使ったときも、 税金の書類にはんこを押させたときも……気がついていたけれど……それでもやめさせられなかった……。嬉しかったから。 こんな地味なボクを皆が褒めてくれて、あがめてくれて、凄く偉くなった気がして嬉しかったから!……だから、 ボクのせいなんです。ボクの責任なんです……。」 ドーゴはそう言うと、自分の膝を抱きしめて小さくなりながら座り込む。その姿は、とても寂しく、そして自虐的に 見えた。 「……でも、ドーゴさんは一生懸命頑張っていたんでしょう?私、そんなのって……とても、寂しいです。 ルウトの言うとおりだと思います。良かったら私たちと一緒に行きましょう?」 そう言ってクレアは最後の鍵で扉を開け、ドーゴに手を差し伸べる。だが、ドーゴはその手を取らなかった。 「ありがとう。気持ちは、嬉しいです、クレアさん。でも、できません。気持ちは、凄くありがたいですけど……。」 「どうして、ですか?」 そう少し悲しそうにするクレアが差し伸べる手を、ドーゴはつかんで牢の中に引き寄せ、 そして強引にその唇にキスをした。 |
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