〜 29.ネクロゴンドの洞窟 〜


 山が震え、火が巻き起こる。徐々に流れ来る溶岩。それは世界の終わりとも言える光景だった。
「大丈夫よ。この火は私たちに危害を及ぼす事はないはず……クレア?」
 クレアは何も言わずに泣いていた。火を見ながら。
「大丈夫、クレアねーちゃん?」
「どうしたんだ?クレア?」
「……世界が、怒っているように、見えたの。」
 ただ静かに泣きながら、クレアは赤く染まる空を見つめる。
「怒っていないわ。世界は勇者に新たな道を示している。」
「ええ、そう……ですね。すごいです。」
 クレアはそう言って、ルウトに向かって微笑んだ。

 やがて溶岩が収まり、岩に橋のように道を作った。
「……この先に、おそらくネクロゴンドの中枢部につながる道があるはずよ。かなり 長い洞窟だそうだから気をつけて。」
 そこに歩き出そうとするエリンにルウトは後ろから言う。
「悪いができるだけ呪文は節約してくれ。」
「……いきなりね、どうして?」
「オレも、クレアもあんまり攻撃呪文得意じゃなくて悪いと思うが、エリンも転職して魔力が減ってるだろ。」
「まぁそうね。」
 そう同意したエリンの耳にルウトは小さな声でささやく。
「……親父はここで死んでる。ただ足を滑らせた可能性より、敵に襲われた可能性の方が高いだろ。」
「……そうだったわね。またボス級のモンスターが待っている可能性はあるわ。わかったわ。……貴方達を 頼りにしているわよ。」
 無表情でそう言うと、エリンは再び先陣を切りながら歩いていった。


 一匹一匹なんとか打撃を与えていく。ルウトやカザヤはもちろんだが、賢者になったクレアも、冒険 の始まりの頃にレベル上げしたときとは比べ物にならないほど、腕が上がっている。最初は自分の 呪文なくしては進めなかったのに。
(嬉しいような、寂しいような複雑な気分ね……。)
「エリンねーちゃん?」
「あ、カザヤ、どうしたの?」
 ぱっと顔をあげると、目の前にカザヤの丸い目があった。
「戦闘終わったよ?僕怪我したから治して欲しいんだけど。」
 と、血が流れる腕をエリンに前に差し出した。その傷を癒しながら、エリンはカザヤに笑いかける。
「あら、ごめんなさい。……それでもカザヤも強くなったわね。」
「え?ほんと?えへへへへ。僕もっと強くなって、エリンねーちゃんを守れるようになるよ。」
「はいはい、よろしく頼むわね。はい、治ったわよ。」
 ぽん、と治った傷を叩いて、カザヤをいなす。カザヤは少し頬を膨らました。
「ちぇー。……あれ、これ何?ルウトにーちゃん、クレアねーちゃん!」
 ちょうどエリンの後ろ側にあった宝箱の側へ近寄る。そうして傷を治していた二人を呼んだ。
 警戒しながら開けてみると、不思議な形をした剣だった。
「……これは稲妻の剣ね。多分、ルウトなら装備できるんじゃないかしら。」
「そうか?結構ごついけどな、これ。変な形だし。」
 ルウトはそういいながら、黄金に輝く剣をもてあそぶ。
「ええ。稲妻は勇者の象徴。天から降りて悪を討つという意味でね。そして、勇者にだけ使える特別な呪文…… それは聖なる稲妻を操り、悪しき者のみを焼き尽くす呪文だわ。まぁこれは、多分勇者専用の 武器ではなさそうだけれどね。」
「オレは呪文はなぁ……どうも苦手なんだよな。」
 ルウトはしばらく剣を見たあと、それを降ろした。
「オレ良いや、これ。草薙の剣もあるしな。」
「ルウト?でもこれ、強いわよ?」
「そうだよ、ルウトにーちゃん。気にしなくて良いよ。無理する必要、ないんだから。」
 口々にいうエリンとカザヤに、ルウトは笑う。
「無理してねぇよ。オレは草薙の剣が気に入ってるし……この剣にふさわしいとは思えないしな。オレは偽者だし。」
「ルウト……。え、あの?」
 心配そうに見上げるクレアに、ルウトはその剣を渡す。
「クレア。オレがさ、それにふさわしいと思えたときに、またこれを渡してくれないか?」
「……ルウト、私は……。」
「お願いだ、クレア。」
 ルウトは剣の柄を持つクレアの手を、その上から握りこむ。熱のあるその言葉に、クレアは小さく頷いた。


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