(意外と地味だなぁ……。) 魔法の玉により壁が爆発しても、ルウトはそんなことを思ってしまった。というのも、 それ以上にエリンの呪文がすさまじいからなのだ。 洞窟に入り、敵は強くなっているはずなのだ。はずなのだが……どれもこれもエリンの呪文で一撃されるせいで、 強さが良く分からないくらいだった。 さすがに手持ち無沙汰で、クレアは恐る恐る話しかける。 「……入り組んでますね。」 「そうね。もうずいぶん使われていないのでしょう?本来ならもう少し楽に行き来できると思うけれど。 オルデガはここを通らなかったのよね?」 「……らしいな。よく知らないけど。」 ルウトのその言葉に、なにかあるのだろうかと思ったが、エリンは何も聞く気はなかった。 コツコツコツ、と洞窟に足音が響く。裂け目と細い通路で構成されている洞窟はどこか落ちつかなった。 「……三叉の通路だな。どっちに行くんだ?わかるか?」 ルウトの言葉にエリンは首を振る。 「分からないわ。適当に選んで。」 「……じゃあ真ん中行くか。」 ルウトがそう言うと、エリンは迷わず真ん中に進む。するとそこにカギがかかっている扉があった。 「いきなりビンゴか?」 そう笑うルウトの前で、エリンが再び開錠の呪文を唱え、扉を開けた。 その途端、待ち伏せをしていたお化けアリクイ達が、鞭のように舌をしならせた。 「クレア!!」 とっさに襲われ、ルウトもエリンも、そしてクレアも対応できず、背中にその舌が振り下ろされる。 「あぅ!!」 「ベギラマ!!!」 エリンが巨大な炎をぶつけ、お化けアリクイはそのまま消え去った。 「クレア、クレア!ごめん、守れなかった、怪我はどうだ?」 ルウトがうずくまっていたクレアを抱き上げる。クレアは首を振る。 「へ、平気よ。すぐエリンが倒してくれたもの。」 「でもダメージを受けたなら、回復したほうがいいわ。」 エリンの言葉に、クレアが首を振る。 「……まだ平気です。私はエリンのように魔力がないから……。」 「駄目だ、ほら、回復してくれ。守るって言ったのに、ごめん、クレア……。」 ルウトがそういいながら、強引に薬草を手渡してくる。そこまで言われては、とクレアはその薬草を使い、 傷を回復した。 「……油断していて悪かったとは思うけれど、怪我をせずに魔王は倒せないと 思うわ。そこまで守りたいのだったら、クレアはアリアハンにいたほうがいいと思うわよ。」 「いえ、……私は、私は、旅に出ないと……出ないと……。」 クレアの息が荒くなり、そしてそのまま苦しそうにもがき始める。 「クレア!!!」 ルウトが荷物から袋を出し、クレアの頭にかぶせる。そしてその体を抱きしめた。 「大丈夫だ、落ち着けクレア。ゆっくりでいいから。」 ルウトがゆっくりと体をさする。エリンは驚きの余り目を丸くした。 「だ、大丈夫?……持病?」 「いや、心因性だ。気にしないでくれ。……クレアは、母親に虐待されていたんだ。」 ポン、ポン、と愛情を込めて背中をゆっくり叩きながら、ルウトは言う。 「クレアのうちは……ずっとクレアにはいい嫁になるようにって礼儀作法を教えていたんだ。 けど、クレアの父親が死んでから、母親は狂っちまったんだ。」 「……狂った?」 「そうだ。突然クレアが家を継ぐようにって言って、スパルタの教育を始めた。母親はクレアのためだ、 死んだ父親に満足してもらうためだと言い張るが、あれはただの不安だのなんだのをぶつけてるだけだな。」 その言葉にクレアはまだ荒い息をしながら、首を振る。それを見て、ルウトは複雑な笑みを浮かべた。 「……クレアは自分の為だって、自分がいたらないからだって言うけど、俺はそうは思わない。突然半日ぶっ通しで 水も飲ませず走らせたり、 読んだことのない魔術書を、暗記できるようになるまで飯抜きなんてのは、ただの虐待だ。オレは許せない。」 クレアは袋をはずす。そして潤んだ目で、ルウトを見た。 「でも、私はお母さんが好きなの……ルウト、お願い……。お母さんを悪く言わないで……。」 「……ごめん。……とにかくそんなわけで、一度離れた方がお互いのためだと思った。けど、相当な理由がないと クレアの母親はクレアを手放そうとしなかったんだ。だからオレが、魔王討伐という名目で連れ出した。」 一通り聞いて、エリンは小さくため息をつく。 「……だから、クレアを守りたいなわけね。……まぁ、名目でも魔王の元へ進む気は二人ともあるのよね?」 エリンの言葉に、ルウトもクレアも頷く。 「なら理由はどうでもかまわないわ。……クレア、無神経なことを言って傷つけてしまったことをお詫びするわ。」 「いえ、エリンにはとっても助けてもらってます。……私も頑張らないと駄目ですから……。」 「気にする事はないわ。……行きましょう、こっちは行き止まりみたいよ。」 そう言って、エリンは元来た道を引き返し始める。二人も立ち上がりその後を追う。 「……クレア、ごめん。」 ルウトの言葉にクレアは首を振る。 「……ルウト、ごめんなさい。ありがとう……大好き。」 「うん、オレも。大丈夫……クレアのためなら魔王を倒すことも、神様を欺くことだって怖くないから。」 |
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