〜 32.バラモス城 〜


「えいっ!」
「や!!」
 クレアが杖を、ルウトが剣を振り下ろすと、動く石像は粉々に砕け散る。その横でカザヤはモンスターを蹴り倒し、埃を払い落とした。
「まったく……でも思ったよりは強くないね。」
「そうだな。ヤマタノオロチあたりの敵がじゃかじゃか出てきたらどうしようかと思ったがな。」
「皆、怪我はないですか?」
 三人がそういい合う中、エリンは今までの道筋をノートに書き写していた。
「こちらの建物はほぼ行きつくしたのではないかしら。そうするとこっちの扉はこの奥につながっていて……わかったわ。 おそらくここか……こちらね。」
「エリンねーちゃんは大丈夫?」
 ぱたん、とノートを閉じたエリンに、カザヤは問いかける。エリンは小さく微笑んだ。
「大丈夫よ。魔力も節約しているしね。バラモスがいる場所が分かってきたわ。こちらよ。」
 エリンが導いた場所には、広い部屋とその中央に、骸骨の乗っている玉座があった。
「……こいつがバラモスか?」
 緊張していたルウトが思わず脱力する。だがエリンは首を振る。
「さぁ、何かの罠かわからないけれど、ここでなければ、バルコニーから見えていたこちらの地下になりそうね。」
 エリンは警戒しながらも、玉座の正面にある扉を開ける。そのまま東へ向かうと、バリアの向こう側にぽっかりと 階段が開いていた。
「おそらく行っていないのはここだけよ。」
「……こわい、です。」
 クレアがルウトの腕をつかんだ。ルウトはそっと手を腰に回す。
「あと少しだ。クレア、オレが必ず守るから。」
「はい。ついて、行きます。それがルウト、貴方との約束でした。」
 クレアの言葉を聞くと、ルウトは先頭を切って階段を下りる。クレアはその後ろにぴったりとついて歩いた。
「エリンねーちゃん、行こうよ。」
 それに見とれていたエリンの背中を、カザヤはぽん、と叩く。
「ねぇ、エリンねーちゃん。全部終わって落ち着いたら、付き合ってくれない?見せたいものがあるんだよ。」
「……そうね。カザヤ、心配しなくても、私はもうあんな風には考えていないわよ?」
 泣いた日のことを思い出し、エリンは苦笑する。カザヤはエリンの手を引いた。
「わかってるよ。それでも……ずっと思ってたんだよ。エリンねーちゃんは僕が守るってさ。」


 魔力あふれる広大な地下室。その中央に異形のものが待ち構えていた。
「ついにここまで来たか。ルウトよ。」
 人間離れしたフォルムの魔物は、四人をにらみつける。
「愚かなことじゃな。勇者などと言う幻想に惑わされ、この大魔王バラモス様に逆らおうなど、身の程をわきまえぬにも ほどがあるわ。」
 バラモスはにたりと笑う。それは人ではなしえぬ邪悪な笑顔に、エリンとクレアは一瞬身を引いた。それを 楽しむように、バラモスを声を低くしてなぶるように笑う。
「ここに来たことを悔やむがよい。再び生き返らぬよう、そなたらのはらわたを食い尽くしてくれるわ!!」
「あっはっはっはっは、あははははははははは!」
 その緊迫した雰囲気を打ち砕き、腹を抱えて笑っているのは、ルウトだった。
「ルウト?」
 そのあまりのことに、頭がおかしくなってしまったのかと、エリンは心配そうに顔を上げる。だがルウトは嬉しそうに 言葉を返す。
「心配するな。こんな四流に負けるかっての。で、お前は何だ?本物なのか?それとも影武者ってやつか?悪いが オレたちの用は本物の魔王バラモスなんだが。雑魚にかまっている暇はないんだがな。」
「な、なんじゃと、この大魔王バラモス様が雑魚と申すか?!」
「気がついてないならそれこそ雑魚以下の道化だな。お前が魔王の器じゃねえってこと、すでに露呈してるんだぜ?」
 ルウトの言葉に、バラモスの体が怒りのオーラに包まれる。
「このわしを道化と申すか……許さぬ。そなたはたとえ死すとも永遠の苦しみを味わうようにしてくれるわ!!!」
 バラモスはそういうと、巨大な炎の塊を吐き出した。


 吐き出す炎も、呪文も、そして攻撃も、どれをとっても魔王の名に恥じない苛烈なものだった。
 そして、エリンの呪文はその厚い皮膚に阻まれ、効いた様子がない。エリンは悔しい思いを しながらも、補助に徹していた。
(……僧侶になっていて良かったわ。ここまで来て何もできなかったなら、それこそ悔やんでも悔やみきれない もの。)
 カザヤにべホイミをかけながら、バラモスの動向を探る。
 完全に血が上っている、というわけではないらしく、全体攻撃を主にかけてくる。だが、それでも やはり狙いはルウトらしい。おかげでクレアが回復魔法に取られ、あまり攻撃する隙がないようだった。
「こっちだ!!!」
 逆にカザヤやルウトの攻撃は比較的ダメージを与えているようで、二人は攻撃の隙を縫ってバラモスに近づき、武器で バラモスを切り裂いていく。
 蹴りを入れたカザヤの裏側から、ルウトは剣を突き入れる。
「おのれ……おのれ……。」
 今の打撃は効いたようで、バラモスはルウトに突かれたところを抑えてうめいた。
「こうなったら、せめてそちらの娘だけでも……!」
 バラモスがクレア目掛けて爪を伸ばす。クレアはそれに立ち向かおうと杖を持ち直すが、バラモスの爪がそれを叩き落す。そうして、 その体をつかもうと広げられた手に、クレアを突き飛ばしたルウトが割り込んだ。

 ルウトの血が噴出す。肩、足、わき腹。爪で三箇所を貫かれ、まるではやにえのように、ルウトは空中にぶら下げられる。
「思うた通りよ!そなた自身を捕らえるより、女を狙った方が隙ができるとな!!さぁ、 嬲り殺しにしてくれようぞ!!!」
 バラモスの高笑いが、エリンの、クレアの、カザヤの心に絶望をもたらした。

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