〜 33.魔王バラモス 〜


 ルウトはバラモスの爪につるされながらも、死んではいなかった。急所をはずされているのだ。
 だが、それは何になるというのだろうか。エリンは状況を判断して、更に絶望を深める。
 バラモスに呪文はほとんど効かない。仮に効いたとしても、ルウトが巻き込まれるだろう。
 クレアの打撃も考えるが、今のクレアにバラモスの間を縫って攻撃できるかと言われると、否だろう。装備 しているのが杖だというのが痛い。それではしとめられないし、 下手をするとルウトが殺されてしまうのだから動けないだろう。そうなるとカザヤの速さにかけるしかないが……。
 エリンがちらりとカザヤを見ると、カザヤも同じことを考えていたのだろう。渋い顔をした。
 攻撃する事は出来るだろう。だがそれは、分の悪い賭けなのだ。
「さぁ、勇者よ。滅びるのはどんな気分だ?そなたが滅び、世界は終わる。愚かじゃ、実に愚かじゃな。 泣き叫ぶがよい、苦しむがよい!」
 バラモスが嬉しそうにルウトを鼻先につるすと、ルウトはにやりと笑った。それは苦痛を感じないような 喜びの笑み。
「なんじゃ?なぜ笑っておる?そなたは死ぬのじゃ、わかっておるのか?!」
「わかってるさ……それでも……オレは嬉しいね!オレはこのために、ずっと……ここまで来たんだからな!」
 ルウトの、快活な言葉に、バラモスは狼狽する。
「何を言っておるのだ?そなたはわしに殺されに来たと言うのか?!」
「違う……ね、だが、お前に……はわからないだろうぜ。……けどな、一つ……言っておくぜ。オレを、殺したからって 勇者……を滅ぼしたと思うなよ?」
 苦しげに言う言葉に、バラモスはおろか、横で聞いていたエリンたちも首をかしげる。
「予言す……るぜ、オレが、死んで……もお前は……勇者に滅ぼされる。……必ずだ。」
「オルデガが死んだ後、お前がここまでたどり着いたようにか?心配せずとも良い、それもまたまた片付けるまで。 そなたのようにな。」
 バラモスがそう言うと、ルウトは貫かれたまま、大声で笑った。
「ルウトにーちゃん、しゃべっちゃだめだ!!」
「ルウト?やめなさい!本当に死んでしまうわ!」
 カザヤとエリンは叫ぶが、ルウトは体中、どこにあるかもう分からない痛みに負けず、血を噴出しながらもバラモスに叫ぶ。
「無理だね。お前のような四流魔王には。必ず倒される、オレにはそれが分かるのさ。オレのような偽者の勇者じゃない、 本物の勇者にな!!」
「ならばわしが世界を滅ぼす様を死霊になって見届けるが良いわ!そのいらぬ言葉をさえずるその喉、貫いてくれようぞ!!」
 バラモスがルウトを高く持ち上げ、その爪をルウトの喉元目掛けて振り上げる。
「ライデイン!!!」
 勇者の聖なる雷が、バラモスの背に落ちた。


 バラモスの体が、ゆらりと揺れる。その隙を狙って、カザヤがルウトを突き刺しているバラモスの爪を 蹴り折る。ルウトの体が放り出され、地に落ちた。
「ルウト!」
 驚きも何もかも置き去りにして、エリンは地に落ちたルウトを回復せんと側に座った。だが、 それより早く、ルウトは呪文を完成させていた。
 自らの体から血を噴出しながら、それでも完成させたその呪文は。


 自らが受けた呪文が、勇者の呪文だと言う事はわかっていた。
 だが、それを打った相手は、間違いなく先ほどまで貫いていた男ではない。それならば魔の気配で分かるだろう。
 その呪に打たれ、小僧に爪を折られながらバラモスはその呪文の声が聞こえた先、自分の背後を見る。
 手には、黄金に輝く稲妻を模した剣を持ち、赤い目には涙を浮かべ。
 青く長い髪をたなびかせながら、『勇者』は駆けてきた。
「まさか、そなたが……ゆう……」
「魔王、バラモス!!!」
 涙声で言うその高く可憐な声は、あの呪文を放った声と同じだった。
「バイキルト!!!」
 聞こえた呪文を受け、勇者は黄金の剣を振った。

「ぐぅ……おのれ、……わ、わしは……あきらめぬぞ……。」
 消え去るバラモスの言葉など意にも介さず、クレアはバラモスの血に染まりながらも、泣きながらルウトの側 まで駆け寄った。
「ルウト……。」
「クレ……ア……。」
 バラモスの爪はすでに消滅し、エリンの呪文で徐々に回復しつつあるルウトだが、あまりに重症なため、いまだに体のあちこちに傷が 残って動けない状態だった。
 クレアは抱き寄ろうとして、止まる。全身血にまみれた醜いその姿をルウトの側に寄せたくない、そう思ったのだ。
 だが、ルウトはよろよろと上半身だけ起こし、手を差し出す。
「オレ、側に寄れねぇんだ……来て、くれないか……?」
「でも、私、汚くて……。」
「クレアは綺麗だよ。オレの恋人で、オレの、…勇者だから。」
 ルウトの言葉に、クレアは大粒の涙をこぼしながら座り込み、ルウトをそっといたわるように抱きしめた。
「ルウト、ルウト……。」
 泣き出したクレアを、いや、クレアたちを光が包み込む。見る間に四人に傷と魔力が癒えていく。そして声が 響いた。
「クレア、クレア……私の声が聞こえますね?貴方達は本当に良く頑張りました。さあお帰りなさい。貴方達を 待っている人たちのところへ……。」
 その優しい女性の声と共に、周りの風景が変わる。
「うわ、なに、ここ?!森の中?っていうか、さっきの声は何?どうして僕たち傷が治ったの?!」
「……あちらにナジミの塔が見えるわ。ここは……アリアハン大陸ね。おそらく城の近くだわ。」
 混乱するカザヤと、驚愕しながらもそういうエリンの横で、クレアとルウトは先ほどの 姿勢のまま、ずっと抱き合っていた。
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