〜 37.大魔王降臨 〜


 仰々しいアリアハン王の口上に、皆聞き入っていた。
「世界は今、真の平和と平穏に包まれた。人々は生まれて喜びの声に満ち溢れている!ようやく人々は モンスターに怯えることなく、大地を歩ける。哀れな虜囚から解放された!!そうだ、今こそ我らの新たな時代が 築かれるのだ!!」
 王がさっと手をクレアに向ける。
「それも全て、この偉大なるアリアハンの勇者!クレア・トーヴィーの尽力あってこそだ!!さぁ、クレア、 こちらに来るが良い。」
 促され、周りの視線もあいまってクレアは怯えながらも前に進む。ルウトに側にいて欲しかったが、 ルウトはカザヤとなにやら話をしている。
 いつまでも頼り切ってばかりではいけないだろう、とクレアはなんとか胸を張りながら王の前へと歩み、跪いた。
「クレア・トーヴィー、参りました。」
「面をあげるがよい、勇者クレアよ!そなたの偉業はこの先何百年、何千年と語り継がれようぞ。わしは アリアハンの王としてそなたを誇りに思う。そなたは偉大と言われた父、勇者オルデガにも成し遂げられなかった勇者の 真の役目、世界を魔から救い平和を取り戻すことに成功したのだ!」
「お褒めいただき、光栄です。……しかしお言葉ですが、私は何もしていないのです。」
 クレアの胸の鼓動が早くなる。だがこれだけはどうしても言わなくてはならない。
「旅立ちの時、ルウトが言ってくださった事は、真実です。勇者として勇気を持って道を切り開いてくださったのはルウトです。 そしてエリンとカザヤは知恵、活力、その全てを持って魔王討伐に赴きました。私は何もしていません。ただその 後を着いて行っただけなのです。」
「分かっておる。そなたの仲間たちが、そなたの為に全力を尽くしたのだということなのだな。 他人を思いやり謙虚な心を持つクレア、そなたはこの世界が誇る勇者であろうぞ!!さぁ、皆のもの、誇るが良い!讃えるが良い! この時、我らは時代の生き証人になったのだ!!偉大なる勇者、クレアの偉業の生き証人にな!!」
 だめだ、この人たちは相変わらず『勇者』しか見えていない。
 何もしていないのに。どうして私だけを褒めるのだろう。クレアは泣きそうになりながらうつむく。
 だが、王はそのクレアの様子には気がつかない。
「さぁ、皆のもの、宴の準備だ!!」
 そう言って王が王座から立ち上がったときだった。

 ……なぜ、そんなことをしたのか、どうしてそんなことが出来たのか。後から思い返してもわからない。
 だがクレアは王の腕をつかみ、力いっぱい引き寄せた。
 人々の顔が驚きに包まれる。王が何事だと抗議するために声をあげようとした時。
 部屋は真っ白に染まり、その玉座に、闇の雷が堕ちた。


「クレア!!!」
 雷はなおも、降り注ぐ。宴の宣言に合わせて楽器を奏でようとした兵士一人一人を、いたぶるように雷は降りる。
 誰もが、クレア、カザヤ、エリンさえも怯えて身動きさえ取れない中、ルウトはバルコニーから走る。 震える大地も雷も無視して、一直線にクレアの元へと。
 そして、最後の雷が兵士に落ちるその時に、ルウトはクレアの元にたどり着き、抱きしめた。
 腕の中で、クレアは震えていた。目を見開き一点を見据え、顔を真っ白にしてただ恐怖におののいていた。
 ルウトはぎゅっとクレアを抱きしめ、その体温だけで安心させようと包み込む。
 そのクレアが見据えていた一点の空間に、闇が現れた。おどろおどろしいその姿は幻影なのだろう、透けて後ろが見えていた。
「喜びの一時に少し驚かせたようだな。我が名はゾーマ。闇の世界を支配する者。このわしがいる限り、やがてこの世界も 闇に閉ざされるであろう。さあ、苦しみ、悩むがよい。そなたらの苦しみはわしの喜び 。命あるもの全てを我が生贄とし、絶望で世界を覆いつくしてやろう。」
 邪な哄笑とそして、呪いの言葉。
「我が名はゾーマ。全てを滅ぼす者。そなたらが我が生贄となる日を楽しみにしておるぞ。」
 まるで詩をさえずるようにそう言うと、闇はなかったかのように消えて行った。


「ルウト、クレア!」
「クレアねーちゃん、ルウトにーちゃん大丈夫?」
 ぱたぱたとエリンとカザヤが声をあげて近寄ってきた。
「……だい、じょうぶ、です。」
「今のはなんだったんだ?ゾーマ、とか言ってたが……。」
 クレアの顔に、ようやく血の気がめぐり始める。ルウトもやはり恐ろしかったのだろう、声の調子がおかしかった。
「知らないわ……聞いたことも、ないわ。ゾーマ、なんて……。」
「分からないけど……バラモスが四流だったなら、……あれは一流の魔王なのかも。」
 首を振るエリンに、カザヤは少し震える声で答えた。
 恐怖で身動きすら取れなかった他の人々がようやく動いても安全だと、我に返った。
「あれはなんだったんだ?」
「魔王は倒されたのではなかったのか?」
「世界は平和になったと神託が下ったと聞いたぞ?」
 そんな疑問の声は、やがて恐怖をごまかすための怒りへと変わる。
「勇者は一体何をしているのだ?」
「勇者が全てを終わらせたのではなかったのか?」
「世界を平和にしたと言ったではないか、無責任な!」
「ちゃんと勇者の役目を果たしてもらわないと困るではないか!」
「おかげで人が死んだのだぞ、どう責任を取るつもりなのだ!!」
 全ての人々の攻撃的なざわめき。クレアは身をびくっと震わすが、ルウトはクレアをしっかりと抱きしめ、思いっきり叫んだ。
「ふざけんなよ!!そんなもん知るか!!オレらはなぁ、アリアハン王に『魔王バラモスを倒せ』って命令されて 倒してきただけなんだよ!!あんな奴知るか!!何が責任だ!責任を取らせたきゃ、さっきの奴を倒せって命令しなかった 国王に言えよ!!!!」
「な、何を無礼なことを言っている!!わが国の王になんという口を利くのだ!!」
 そのルウトに怒鳴りつけたのは、見るからに地位のある神父、ルウトの父だ。ルウトはかまわず怒鳴り返す。
「だったら苦労して旅をしてきたクレアに対して、知りもしない魔王の責任を押し付けるお前らは無礼じゃないって言うのか ?!不安と苦労を押し付けてお前らは文句つけてりゃいいんだから、気楽なもんだよな!!」
「……もう、良い……その通りじゃ……。」
 すぐ側にいた国王が、力なく立ち上がる。それは改心したのではない、ただもう何も考えたくないだけなのだろう。
「……たしかにわしは、そう言った。そうじゃ、わしの責任じゃよ……闇の世界が来るなど皆にどうして言えよう…… このわしの名に置いて大魔王ゾーマの事、口外することまかりならぬ。……もう下がるが良い……。」
 力を落としその言葉を口にすると、国王はそのまま広間を去っていった。


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