〜 45.ラダトーム 〜


 海を見ても、空を見てもそこには暗黒しかなかった。
「それにしても……本当にいただいてよかったのでしょうか?船……。」
「そうだよなぁ……くれるって言ってたけどよ、結構良い船だぜ、これ……。」
 クレアとルウトが困ったように顔を見合わせる。
 今乗っている船は、この世界に下りてきて初めて会った人がくれたものだ。
 どうやらギアガの大穴はその人の家の裏庭につながっているらしく、この世界を『アレフガルド』と呼ぶのだと 教えてくれた。
 そうしてゾーマを倒しにきたのだというと、この船をくれ、ラダトーム城へ行くようにと薦めてくれたのだ。
「ただの人ではないのかもしれないわね。他にも降りてきた人がいたにも関わらず、私たちに くれたことを考えると……もしかしたらもらって消えたとか言う光の玉が何か関係しているのかも しれないわ。」
「ともかくこれで自由に動けるね。とはいえこの大陸を離れたらだめなんだっけ?」
「らしいわね。ここ以外の大陸は全て封印されて消え去ってしまったそうだから。……まさかここまでゾーマが強大だとは 思わなかったわ……。」
 闇に覆われた世界を見ながら、エリンは小さくつぶやいた。


 ラダトーム城下町は、思っていたよりは活気があって、四人はホッとする。もうサマンオサの ようなのは勘弁して欲しい。
「とりあえずラダトーム城へ行きましょうか。得体の知れない旅人を通してくれるかはわからないけれど。」
「そうだな。アリアハンって言ってもわからねぇだろうしな。まぁ、行くだけ言ってみるか。」
 城へ行く道すがら。ちょうど城と向かい合うようにまた別の城が見える。
 それを見ながら、クレアは少し不思議そうな顔をしている。
「どうした?クレア?」
「なんでもないです、ルウト。」
 ルウトはそう言って笑うクレアの顔を持ち上げる。
「そう言うときはなんでもなくないだろ、クレアはいつも。」
「そういうわけでは……気のせいだと思うんですけど、ここに来てから見られているような、呼ばれているような 不思議な感じがして……。」
「なんだと?!」
 ルウトはクレアを抱き、周りを見回す。その腕の中で赤い顔をしながら、クレアはなだめるように微笑んだ。
「でも気のせいです。だから大丈夫、心配してくれてありがとう、ルウト。」


 意外なことに四人はあっさりと城に入ることが出来、国王への謁見を許された。
「そなたらが、異世界から自主的にこちらの世界にやってきたという者か。」
 謁見の間には国王、そしてその側に王子と、二人の兵がいるだけだった。
 重々しい警備を予想していた四人は面食らう。ルウトが頭を下げた。
「はい、お目通りいただいて光栄です。」
「まったくです、父上。このような素性も知れないいかがわしい連中に、父上がわざわざ会う必要もないでしょう。」
 おそらく同じ位の年の頃であろう王子は、美形ではあるがこちらを見下した目線を向けている。
「下がっておれ。国民を守れぬ王になんの意味があろうか。わしにできることは、せめてこうして民の声に 耳を傾けることよ。」
「ですが、父上、この者は国民では……、」
「下がっておれと言ったのが聞こえぬか?」
 父王にじろりとにらまれ、王子はしぶしぶ口を閉じた。
「この国は、いいや、この世界はすでに絶望を目の前にしておる。 ここ以外の大陸は消え去り、精霊神ルビスは封印され、この世から光がなくなった。 一度城を攻められ、伝説の装備すら奪われ、何人もの兵が 死んだ。この国の守りはゾーマにとっては紙のようなものなのだろう。そのような国の王に何のようだね、異世界の御仁よ。」
「……我々は、そのゾーマを倒しに参りました。」
「なんと……!」
「上の世界……私たちの世界で魔王と名乗っていたバラモスは我々が滅ぼしました。その後ゾーマが現れ、我々に宣戦布告を してきました。ですから私たちはそれを打ち滅ぼしに行くつもりです。」
 驚愕する国王に、ルウトは淡々と述べる。それをまるで唾を吐くかのように王子が笑った。
「なるほど、つまりはたかりに来たと言うわけか、下賤の者よ。知らぬと思い法螺を吹き、」
「下がれ!!!」
 国王はほとんど吼えるように王子に怒鳴ると、王子は悔しそうに口をつぐんだ。
「バラモス……その名は聞いたことがある。ゾーマの中でも力ある部下の一人だ。だが、あくまでも部下の一人に過ぎぬ。それを 倒しにいくと?」
「はい、そのつもりです。」
 ルウトがそう答えると、後ろにいたエリンが顔を上げる。
「たかりに来たとおっしゃられましたが、ある意味ではその通りです。我々はご助力を頼みに参りました。つい先日まで このような世界があったことも我々は存じませんでしたので、お力をお貸しいただければ幸いです。」
「……先ほどいったとおり、かつての英雄の武具は奪われ、兵は疲弊しておる。それでも できることがあるならば、言ってみてくれぬか?」
「……父上……。」
 非難の目で見る王子を置いて、エリンは考えていた要求を立て板に水の如く語る。
「まずは一人、上の世界のことも多少知っている人物を一人貸していただきたく思います。我々はこの世界の常識を 知りません。それを教えていただける方に色々教えていただきたいのです。そしてこの城の中で自由に行動することを お許しください。特に資料室や書庫があればその資料を読むことを許していただきたい。そしてもし 必要なものがあればどうかお譲りいただきたいのです。」
 あまりにも厚かましいといえる要求に王子は絶句し、そして怒りに真っ赤になって口を開こうとした。だが、その 前に国王が口を開いていた。
「わかった。むろん、兵の私室などは許可できぬが、そなたらがこの城のどこへ行こうととがめぬように言っておこう。 必要なものと言っても、この城にはもはや何もないが……重要なものがあると言うのならばもっていくが良い。」
「ありがとうございます。国王様の恩情、確かに受け取りました。」
「そうだな、ではまず……アーダ、アーダを呼べ。」
 王の言葉に兵の一人が動き出す。
「アーダはそなたらの世界から落ちてきたものの世話係を任せておるメイドだ。そなたらの要求に答えてくれるだろう。」
 すぐさま、謁見の間に、黒いエプロンドレスを着た若い女性が姿を見せた。突然の召喚に驚いているらしい。
「お呼びでしょうか。」
「ふむ、こちらの方々の相手をして欲しい。今している仕事は別の者に任せてもかまわぬ。」
「かしこまりました。では、こちらへ……。」
 突然の言葉に驚いたのだろうが、アーダはうろたえずルウト達を別の場所へと誘った。


 アーダに、エリンは元々想定していたのだろう、実にスムーズに質問をぶつけていく。アーダもこういった 質問には慣れているのだろう、的確な答えを返してくれた。
 いまこの世界にはアレフガルド大陸ただ一つであること。そしてその中央の孤島にある城に大魔王ゾーマがいること。 世界にある一つの城、三つの街、一つの村の簡単な説明。生活習慣などはそう違いがないようで 四人はホッとする。
「どうです?それほどこちらの世界に違和感はないと思いますよ、他の方々の話を聞いていると。…… 太陽が昇らないのだけはどうしようもありませんけれど……。」
「そうね……そういえば他の方と言う事は、私たちの世界から結構頻繁に落ちてくるの?この世界の人間には どれだけそのことを知っているの?」
「そうですね、以前は数年に一度くらいだったそうなのですが、おそらくバラモスのせいでしょうか、ここ何年かは 結構な数の方がこちらにいらしているそうです。他の地方ではわかりませんが、上の世界があるというのは 皆知っていますよ。今ここには一人、大穴を警備していたと言う兵士の方が 療養していらっしゃいますし、半年前までは、大やけどで記憶を失われた戦士が療養されておられました。 今はゾーマを倒すと旅に出られているのですけれどね。」
「まぁ、記憶を?」
 クレアの言葉に、アーダも同情の笑みを浮かべる。
「ええ、ここに落ちてこられたときは、本当に命さえ危ぶまれたのですが、一命を取り留められまして。何度も 思い出そうとされたのですが、結局アリアハンから来たオルデガという名前だと言うことしか 思い出されませんでした。」

「……おる、でが……?」
 アーダの言葉に、クレアがかすれるような声を出す。エリンも驚いて声をあげる。
「まさか、勇者オルデガが生きていたと言うの?」
「ご存知なのですか?オルデガ様を?」
 アーダの言葉に、クレアはほとんど泣き出しそうな声で答えた。
「……父です……父は、今、……。」
「オルデガ様はゾーマを倒すために旅立たれました。つい半年前のことです。」
 その言葉に、クレアは体を振るわせた。


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