〜 47.魔王の爪あと 〜


 苦戦しながら、ようやく敵を倒したクレアが、ふうと息をついて鞭を降ろした。
「本当に呪文が使えないんですね。」
「噂どおりね。本当にゾーマの城に通じているかもしれないわ。」
 ここはラダトームから北西の洞窟。通称魔王の爪あとと呼ばれる場所だった。

「これからの行動指針を決めましょう。」
 ラダトームの宿屋。おおむね情報を集めた四人は、膝を突き合わせて話し合う。 エリンの言葉に、クレアは首をかしげる。
「行動、指針、ですか?」
「ええ、特にクレアにお願いしたいの。オルデガさんのことを良く知っているのは貴方だから。」
「でも、私……父はあんまり家にいませんでしたから……。」
 そういうクレアに、ずずっとエリンは迫る。
「オルデガさんの手助けをしたいと言ったのは貴方でしょう?……ここにはいくつかの問題があるわ。 一つ目はゾーマの城にたどり着く手段。二つ目は封印されていると言うルビスの問題。 直接は関係ないけれど、なにか助力が得られるかもしれない。あとは奪われたと言う伝説の武器防具。あと、 おそらく今の私たちではレベル不足だと思うから、これも問題に入れておくとして、 オルデガさんはどれを優先すると思う?私たちはどれを追いかければいいのかしら?」
 その言葉に、クレアは黙り込む。
「……わかりません……でも、おそらく父ならやはり、ゾーマの城へ行く手段を求めると思います。私たちが 同じことをして正しいのかはわかりませんが、レベルが足りなければその手段を見つけた時点で他の 目的を探してもいいと思います。」
「そうね。では一番手近にある場所から当たりましょう。」
 そうしてエリンに案内されたのが、この洞窟だった。


 この洞窟の最大の特徴は、呪文が敵味方とも打ち消されてしまうことだ。それに備えて大量の薬草で しのいでいるが、やはり辛い。主にエリンが道具を使い、クレアは鞭でなぎ払い、ルウトとカザヤが止めを刺す ようにしているが、やはり火力不足は否めない。
「そういえば、クレアねーちゃんがあの稲妻の剣を装備したらいいんじゃないかな?もう 隠す必要ないでしょ?」
 カザヤの提案にエリンがぽん、と手を打つ。ずっと杖や鞭を使っていたが、クレアは剣が使えるのだ。だが クレアは躊躇いを見せる。
「あ、あの……私……剣を持つのが……怖くて……。」
「怖い?どうして?何かあったの?」
 エリンの問いかけに、クレアは申し訳なさそうにうつむく。
「いえ、そんな対したことじゃなくて、私のわがままなんですけど……、父が言っていたんです。『 剣より強い心を持った人間だけが、剣を扱うことを許される』って。……私にはその覚悟が どうしても持てなくて。分かってるんです。剣だって鞭だって、魔法だって危険なことには 変わりないって。父は言ったのはそう言う意味じゃないって。 でも……どうしてだか、駄目なんです。どこかで拒んでいる自分がいるんです。」
 その感情はエリンにはさっぱり理解できなかった。カザヤも不思議そうにしている。 だがルウトがクレアの頭をそっと腕で包み込む。
「でも、オレの為に頑張ってくれたんだよな、ありがとう。オレもその言葉で救われたからな。」
「そうなんですか?」
 きょとんとするクレアに、ルウトは笑う。
「ああ。……まぁ、オレが頑張るさ。行こうぜ。とりあえず本当にここがゾーマの城に続いているのか ちゃんと見ないとな。」
 そう言ってクレアの肩を抱きながら、ルウトは先頭を歩き始めた。


 ほとんど意味の成していない壁と扉の向こう。そこには複数の宝箱と大きな亀裂があった。
「これはあれか。この亀裂の下がゾーマの城につながっているパターンか。」
 もう落ちるのは何度目だろうと思いながら、ルウトは亀裂を眺める。
「一概に決め付けるのは危険よ、ルウト。なにせ呪文が使えないのだから、危機が 迫っても回避する手段がないわ。」
「そうだね、とりあえずここらへんにある宝箱でも開けてみない?」
 カザヤにそう促され、開けてみた宝箱にはたいしたものは入っていなかった。
「あとはあの亀裂の向こう側にあるやつか?しかしこの亀裂も底が見えねーな。」
 ルウトがそう言って亀裂を覗き込み、バランスを崩した。
「ルウト!!!」
 すぐ側にいたクレアがとっさに手を伸ばすが、体重を考えればどうなるかは自明の理だ。 二人はそのまま亀裂へと吸い込まれていく。
「ルウト!!クレア!!」
「ルウトにーちゃん!クレアねーちゃん!!」
 遠くに二人の声がする。ルウトはもう駄目かと腕を引き寄せてクレアを抱きしめた。そのとたんだった。
 視点が変わる。何かが、自分を支えて空中へ放り投げたのだ。
 空中高く放り出されたルウトとクレアは、そのまま亀裂の向こう側に着地する。
 見ると、エリンとカザヤが目を丸くしている。腕の中のクレアも、そしておそらくルウト自身もそうだったに 違いない。
「クレア、無事か?」
「ええ……ごめんなさい、足手まといになってしまって……。」
 しゅんとするクレアを、ルウトは再び抱きしめる。
「そんなことないって。嬉しかった、ありがとうな。」
 抱き合う二人に、エリンは大声をはる。
「無事なの?!!ルウト、クレア!!何があったの!?」
「怪我はねぇよ!よくわからないが、……けど、あれだ。あの悟りの書の時みたいな感じで、 外に押し出されたんだ!」
 かつて、ガルナの塔の上から飛び降りたとき、空中で何かに包まれたのを感じた。おそらく魔術的な ものなのだろうが、それがここにもあったのだろうか。
「無事ならよかったよ!ねぇ、こっちに狭いけど道があるから、ゆっくり帰ってきなよ!!」
 カザヤに言われ、部屋の隅にわずかだが通路があるのを見つける。
「よし、戻るかクレア。」
「ええ、でもせっかくですし、この宝箱、開けていきましょう。」
 クレアが示した宝箱をルウトがあけると、そこには青色の美しい盾が入っていた。


戻る 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送