〜 49.精霊の祠 〜


 どうやら見つけた刀身は、かの伝説の武器の王者の剣の一部だったらしい。
「なんかさ、ゾーマが三年かけて壊したんだって城の人が言ってたよ。その欠片なんじゃないかな。」
「そうね、カザヤの推測は正しいと思うわ。ほとんど刀身全てが残っているから、もし加工できたら 強力な武器になるかもしれないけれど……。」
 そのあてなどなく、エリンは黙り込む。
「すみません、役に立てなくて……。」
「魔物の手に渡らなかっただけいいじゃねえか。元々集めるのが目的じゃねぇんだから、な。」
 クレアをフォローしながら、ルウトは笑う。それにエリンは同意して仄かに微笑んだ。
「ええ、その通りよ。それにこれを見つけたからエルフが笛の場所を教えてくれたのでしょう? 笛は、もしかしたら妖精の笛かもしれないわ。聖に力を与え、邪を眠らせると言われる、ね。 それならば大きな収穫だわ。」
「でも、オルデガさんのことは分からなかったね、ごめんね、クレアねーちゃん。」
 カザヤの言葉に、クレアはぶんぶんと首を振った。


 大陸の端。毒の沼地の中。人が誰もが避けて通るような場所に、その祠はあった。
「本当に合ったわね。」
「なんかヒントもらえっといいけどな。門前払いだったらどうするよ。あいつら人が嫌いだったじゃ ねえか。」
 ルウトの言葉にエリンは少し考える。
「私はエルフにあったことはないけれど、貴方達がドムドーラであったエルフはヒントをくれたのでしょう? 上と常識が違うと言うことも考えられるわ。悲観的に考えるのはよしましょう。」
「そうだね、駄目だった次に行くだけだからさ。」
 そう気楽に言って、カザヤが扉を開ける。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーー!!人間よ人間よ人間よ!!」
 その途端悲鳴があがり、カザヤは思わず扉を閉めた。
「……閉めてどうするのよ。」
「いやでも、あんな風に言われたらやっぱりびっくりするよ。」
 エリンに言われ、カザヤはすねたように言う。しばらく躊躇っていると、きぃ、と扉が開いた。
「……ごめんなさい。姫様が呼んでいるわ。……貴方勇者なんですってね。」
 先ほど叫んだエルフが、おそるおそる扉の隙間から覗き込んでいた。

「私、人間は嫌い。でもオルデガは好きよ。私を助けてくれたの。お礼にゾーマの城へ渡る方法を教えてあげたから、 きっとゾーマを倒してくれるわ。」
 『姫』へ案内する途中、クレアがオルデガの娘と分かり、先ほどのエルフはそんなことを言い出した。
「城へ渡る方法?それはどんな方法なの?」
「駄目よ、教えてあげないわ。それにこれは貴方達じゃ無理。一人旅してきたオルデガとは違うものね。暁夜の日はもうすぐだから、 きっともうすぐ世界は平和になるわ。」
 くるくると踊りながら、エルフは歩いていく。暁夜とは、一年で一番陽が長い日のことだ。正確な日付はわからないが、 もうすぐだったはずだ。 エリンはそこまで考えて、その後を追った。


 その『姫』なる人物は、その小さな祠の玉座に座り、たおやかに微笑んでいて、確かになにか威厳のようなものがあった。
「私はその昔、ルビス様に仕えていた妖精です。そして、クレア、あの日貴女の誕生日に貴女に夢で呼びかけたのも、 この私です。」
 その言葉に、三人はクレアを見る。クレアは何も言わなかったが、少しこわばった笑みはそれが真実だと告げていた。
「……あの時は随分失礼なことを言ってしまいましたが、クレア、貴方はここまで来てくれました。その想いを込めて、 貴女にこの雨雲の杖を授けましょう。どうか、ルビス様のためにも、この世界をお救いくださいまし。」
 すっと手をかざすと、クレアの手の中に、古風な杖が現れた。
「あの、……。」
「あなたの行く道に、ルビス様のご加護がありますように。」
 にっこり笑うエルフにそれ以上言葉を重ねる気にはなれなくて、クレアは立ち上がって頭を下げた。


 四人が戻った船の上。
「雨雲の杖って事はあれじゃないの?太陽と雨が重なると虹の橋ができるって。その橋でゾーマの城に いけるんじゃない?」
「虹でか?」
 カザヤの言葉に、ルウトは少し呆れながら言う。だがカザヤは引かない。
「太陽だって雨だって、アイテムなんだから、虹だってそのまんま虹じゃないんじゃない?」
「おお、なるほどな。」
 その横で、エリンはクレアを話していた。
「暁夜の日はもうすぐのはずなの。おそらくその日がオルデガさんがゾーマの城に行く日ね。」
「そう……なりますね。……。」
「街で英気を養っているか、それとも時間が余っているから、別のことをしているか、どうかしら?」
 エリンに言われ、クレアはしばらく考える。
「どちらが正しいかわかりませんけれど、その別のことが、街で行われている可能性が ありますから、とりあえず街を巡ってみましょう。」
「わかったわ。……ところで、さっきの人に夢で何を言われたの?」
 クレアは目に見えて分かるほど、青い顔をしていた。夢の話からだ。
「とても、とても怖い、夢を見て……そしていくじなしだと、言われました。その通りだと思います。」
「そんなことないって。クレアはちゃんとオレたちに着いてきてくれてる。大丈夫だよ。」
 ルウトがにっこり微笑むと、クレアはそれに応じて笑うが、見るからに無理している。カザヤは 小さくため息をついて、クレアに言う。
「クレアねーちゃん、本当にそれだけ?なんだかとても悲しそうだよ。クレアねーちゃんが悲しいと皆が 悲しいんだよ。」
「……本当に、たいしたことではないんです。ただ、夢を、怖い夢を見て……ずっと忘れていたんですけれど、 それが余りにリアルで……。」
 人を、殺す夢を。
 気がつけば、自分は化け物で。人に話しかけようとして、口を開けば炎を吐いて。助けて欲しくてまた人を 殺して、結局街を出てしまった、そんな夢を。
「……きっと、勇者がどんな人間か、試すためのものだったのでしょう。……でも、私は……。ただの、 夢です、ただの……。」
「クレア……。」
 そっとルウトが抱きしめようとする直前、クレアは顔を上げた。雨雲の杖を差し出す。
「……でも、おかげでこれが手に入りました。だから……きっと無駄ではなかったんです。あとはまた、ゆっくりと 忘れていきます。」
 少し寂しげな、それでもほんの少しだけ強さをまとった表情のクレアから、エリンは雨雲の杖を受け取った。


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