「や!!」 クレアは焦げかけたポイズントードに鉄の槍を振り下ろす。 その横では、ルウトが同じく焦げかけたキャタピラーの関節に、鉄の槍を差し込んでそのまま力ずくで切り落とした。 ロマリアから、シャンパーニの塔の中継地、カザーブへ行く最中に初めて戦闘をした二人だが、エリンが 最初に手加減した魔法で弱らせてくれるので、あまり問題は起こらなかった。 「ルウト、怪我しているわ。回復させて?」 「ありがとう、クレア。」 擦り傷を治してもらい、ルウトは両手を振り回す。エリンはそれを無表情で見守りながら声をかけた。 「どうかしら?大分慣れた?」 「ああ、大分レベルも上がったしな。とはいえ多分、普通ならやられてるだろうけどな。」 「でも、あの……そろそろ魔力がなくなってしまって……。」 「そうね、いい頃合ね。カザーブで休んで、そろそろ盗賊を倒しましょう。」 そろそろ夜になろうとしている。三人は山間の村、カザーブへと移動した。 カザーブは、田舎の村、というイメージを現実にすればこうなるだろうという、朴訥とした村だった。 「ロマリアの後だと、ずいぶん田舎に感じるな。」 「でも、空気が澄んでいて、暖かくて私は好きよ。」 クレアが少し嬉しそうに言うのを聞いて、ルウトは周りを見渡す。 「二人で住むならこういうところがいいか?」 「え、あ、あの、ルウト…??」 顔を真っ赤にするクレアに、エリンはすでに慣れた様子で周りを見渡して、固まる。 「……あ……。」 「ん?どうした?エリン。」 「……早く宿へ行きましょう。」 すっ、と早足で二人を抜かし、宿へと急ぐ。 「……何を見たんだ?」 とルウトとクレアが先ほどのエリンの視線を追うと、教会の墓地に白い人影が姿を見せた。 「幽霊……?!」 ルウトが驚いて言葉にすると、クレアは恐怖でルウトにしがみつく。 「きゃあああああああああ、ゆ、幽霊、?いや、何……そ、そんなの……。」 「大丈夫だ、行こう。オレが守るから。」 ルウトはクレアを抱き上げ、駆け足でエリンに追いつく。クレアはルウトにしがみついた。 「エリンも苦手なのか?」 「……ええ、ああいう類のものは大嫌いなのよ。モンスターだと平気なのだけれど。現世に執着している 魂ほど性質の悪いものはないわ。あまり関わりあいたくないわね。」 その割には表情が変わっていないが、よく見ると顔色が悪い。 一方クレアはすでに体が震え、半泣きになりながらひたすらルウトを抱きしめている。 「まぁ、クレアよりはましだけれど。……行きましょう。朝になればいなくなっているはずよ。」 エリンは泣きそうな顔でそう言って、宿へと走り出した。ルウトはクレアを胸に押し付けてエリンの後を追って 宿屋へと走っていった。 朝起きて窓から教会を見ると、幽霊の姿はすでになかった。 「あー、幽霊を見たのかい?あれね、毎晩出るんだけど害はないからさ、気にしなくてもいいよ。」 ルウトが朝食の席で幽霊について宿の女将に尋ねると、女将は明るく笑い飛ばした。 「そういうもんなのか……?」 「ああ、ここの神父は生臭でねぇ、むしろあの幽霊と差し向かいで飲んでるくらいだよ。意外と気のいい 幽霊だってさ。そこの女の子は僧侶なのかい?なんなら払っていくかい?」 「い、いえ、私は、その、……無理です……。」 クレアがびくついてそう言うと、女将は笑って厨房の方へと歩いていった。 かたん、と椅子が鳴り、エリンが椅子に座る。 「おはようございます、エリン。」 「よぉ、おはよう。」 意外なことにエリンは朝に弱いらしく、三人の中で一番遅くに起きる。そして起き抜けはぼーっとしていて反応が鈍く、 いつにもまして無表情だった。 「……おは、よう。」 「飯はいるか?」 「……スープ。」 エリンの言葉に、クレアは女将にジャガイモのポタージュとパンを注文して気遣う。 「よく眠れました?エリン。」 「……今日は、そこそこね……。」 こく、と一瞬船をこいで、エリンは答える。自分でもまずいと思ってか、置いてあるミルクを注ぎ、 体に入れた。 「ちょっと夢見が悪かったのよ。あと1時間頂戴。目を覚ますから。」 「気にするな。ゆっくりでいい。補給に買い物に行っとくよ。」 「そう……。」 エリンの目の前にスープとパンが置かれる。エリンはなんとか眠気を振り払い、ゆっくりとスープを口にした。 |
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