〜 50.メルキド 〜


 城塞都市メルキド。これは60年前、神に忠実かつ信仰篤きメルキドを 魔物から身を守るために作った壁だとされる。当時は 絶賛され、それを計画した市長を偉大なる長とたたえられたのだが……。
「まぁ、60年も立てばこんなものかもしれないわね。」
 まるでサマンオサ並みに絶望した町並みがそこにあった。

「……あんまり長居したくないし、早めに切り上げようよ。」
「おう、多分オルテガさんはここにはいないだろ。あの人がいるならもうちょっと活気がありそうな気がするぜ。」
「どうでしょうか……でもあんまり長居したくないとは、私も思います。」
 三人に口々に言われ、エリンは少し考える。
「そうね、とりあえずここには大きな歴史ある神殿があるの。そこにだけ立ち寄りましょう?もし オルデガさんがいらしてたら、神殿の方も知っているかもしれないし。かまわない?」
 エリンの計画に否を唱えたことなどないし、唱える必要もない。三人は頷き、足早に神殿へと向かった。


 神殿の最奥。メルキドに200年続くと言われる血筋の神官長は、あっさりと四人への面会を許してくれた。
「さて、オルデガという方はいらっしゃいませんでしたが……そなたらはこの魔の海を越え、ゾーマの 城へ渡りたいとおっしゃるか?」
「はい、その通りです。」
「魔王の島に渡るには、太陽の石、雨雲の杖、そして聖なる守り。この三つを携え、聖なる祠へ向かうが良い。そう伝えられている。」
 エリンはその言葉に、思わす声をあげる。
「ちょっと待ってください。私は太陽と雨が重なるとき、虹の橋が架かると聞いております。では聖なる守り、とは なんですか?」
「……虹を見るためには、太陽と雨だけでは足りますまい。」
 そう言われ、四人とも分からずにきょとん、とする。神官長はにっこりと笑った。
「それを見るための大地が必要だと言うことですよ。」
 神官長はにっこりと笑った。
「大地、ですか……。」
「大魔王は絶望と憎悪を糧にし、希望と癒しを嫌うもの。どうかこの世界に光をもたらしてくだされ。」


 神殿を出て、四人はメルキドを出るために歩いていく。
「大地とはつまり大地の精霊ルビスを意味しているのでしょうね。結局は精霊ルビスを助けなければならないのね。」
 エリンの言葉に、クレアは心配そうに言う。
「それは良いことだと思いますけど……お父さんに追いつけますでしょうか……。」
 エリンの計算によると暁夜の日まで、あと7日だということだった。
「わからないけどさ、クレアねーちゃん。僕たちは地道にやるしかないんだし、仕方ないよ。」
「そうだな、ま、ゾーマの城で追いついてもいいだろうし。頑張ろうぜ。」
 ルウトがそう言って後ろを向いたとき、クレアとエリンの姿はどこにもなかった。


「クレア?!」
「エリンねーちゃん?!」
 周りを見渡しても、そこには何もない。つい、今さっきまでいたはずのクレアとエリンの影さえも見つけられない。 だが、その地面が若干乱れていることに気がつき、二人はすぐ近くの裏路地に走る。
 薄暗い裏路地の地面を見ても、目立った痕跡はなかった。
「クレア、返事してくれ!!」
「ルウトにーちゃん、黙って!!!」
 ルウトの叫びに一喝し、カザヤはなにやら目を閉じて集中している。そして、路地の入り口から三軒奥の建物の 壁を、力いっぱい殴った。
 がらがらと落ちる瓦礫と粉塵の向こう側には、たくさんの男達と、二人の女がいた。
「おめーら、なんだ?!」
「何しやがる!!」
 がらの悪そうな男達など、ルウトたちの目には入らない。ルウトたちの目に入っているのは、男たちに組み敷かれ、 口をふさがれ、そして服をはだけさせられているクレアとエリンの姿。その姿を見れば、何をたくらんでいたのかは 明らかだった。
 呪文の苦手なルウトは、いまだかつてないほど完璧かつ一瞬にして、術式を組み立てる。
「マヒャド」
 部屋中を吹雪と氷柱が走り、男達の体に突き刺さっていく。容赦なくカザヤはクレアたちを組み敷いていた男達を、 まるで花火のように弾き飛ばした。
 できることならば、この家、いいやメルキド全てを滅ぼしたいとさえ思ったが、今重要なのはそれではない。
 男達の屍を踏み越え、ルウトとカザヤはクレアとエリンを抱き上げ、そして足早に町を去った。


 クレアはなにも言わず、ルウトの腕の中でずっと震えていた。その白を通り越して青い顔が悲しく、 ルウトは何も言わずただ、抱きしめる。
「……ありがとう、カザヤ、ルウト。」
 エリンはカザヤの腕の中で、いつもの声音でそう言った。が、体の震えは隠しきれていない。
「ごめん、エリンねーちゃん。」
「……謝ることなんて、なにもないわ。私もクレアも未遂で済んだもの。こういう活気のない町でこそ、 元気になるやからって言うのはいるのよね。」
「ごめんね、エリンねーちゃん。」
 少し震えながら、そう冷静に言うエリンの態度が強がりだと分かっていて、カザヤはただ壊れ物を扱うように、エリンを船まで運んだ。


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