クレアは子供の様に泣いて泣いて泣きじゃくり、そしてゆっくりと、学校から帰った子供が親に話を するように、これまでのことを語り始めた。 「……勇者?」 クレアが勇者に選ばれた、ということを話すと、オルデガは呆然とクレアを見返した。 クレアは頷くと、そのまま話を進める。母の事、ルウトが冒険に誘ってくれたこと、エリンや カザヤとの出会い、そしてバラモスを倒してこの世界に来たこと……ゆっくりと全てを語った。 「そうか……頑張ったんだな、クレアは。」 オルデガはクレアの頭を大きな手で撫でる。 「……私は何も……皆が頑張ってくれたから、お父さんに会えたの。」 「そうか……じゃあ、もう帰りなさい、クレア。」 少しだけぴりりとした厳しい声音。クレアは体を話し、父の顔を見た。 「ゾーマを倒すとこの世界から出られなくなるのだろう?後の事はお父さんに任せて、クレア、お前は 母さんの所に戻りなさい。」 「馬鹿なことを言わないで頂戴。」 それを止めたのは、ずっと見守ってきたエリンだった。 「貴方も分かっているのでしょう?貴方の体はもう戦えない。」 「エリン?」 その言葉に、クレアは目を丸くする。オルデガは苦く笑う。カザヤが じっとオルデガを見た。 「たしかに一見傷はふさがっているし、日常生活くらいなら大丈夫だと思うよ。オルデガさんは強いから 普通の相手なら大丈夫かもね。でもゾーマには勝てないよ。」 「どうして……!」 「ザオリクは老衰は治せない。それと同じ。長年の戦いで磨耗した体を完全に元に戻すのは呪文でも無理よ。勇者として、 貴方は死んだ。」 エリンの言葉に、オルデガは優しい顔で答える。 「……分かってはいるよ。もう思うとおりに体が動かないこともね。……けれど、それでも私は行かなければならないよ。 娘を、自分の子供を大魔王と戦わせるなんて、そんなことさせたくないからね。」 「お父さん!!」 「私は、お前にそんなことをさせないために戦ってきたんだ。お前が誰よりも幸せであるように。あと少しだ。 必ずお前に平和な世界を贈る。だから母さんの側で待っていておくれ。」 優しく微笑むオルデガに、クレアは返す言葉がなかった。 「オルデガさん。」 ルウトがすっとクレアの肩を持って引いた。それに導かれるように、クレアはオルデガの側を少し離れる。 そしてルウトはオルデガの真正面に足を少し広げて正座した。 「オレは、ルウト・フォースターと言います。フォースター教会の次男です。」 「ああ、覚えているよ。君の父上とは何度か話したことがある。」 少し不思議そうに、それでもそう言ったオルデガに、ルウトは深く頭を下げた。 「オルデガさん、娘さんをオレに下さい。」 ルウト以外の全員が、目を丸くした。ルウトは頭を上げて、まっすぐオルデガの目を見た。 「オレはクレア、さんが好きです。愛しています。この世の誰よりも。必ず幸せにします。だから、クレアさんを オレに下さい。お願いします。」 もう一度深く頭を下げる。そしてじっと答えを待った。 「……驚いたね。まさかこんなところでそんなことを言われるなんて、思ってもみなかった。私もそんな年に なっていたんだね。……クレアは、彼が、好きなのかい?」 オルデガは笑って、そしてクレアには真剣な顔でそう尋ねる。一瞬呆けていたクレアだが、急いで頷いた。 「はい、お父さん。私、ルウトが好きです。ずっとずっと助けてくれた。私、ずっとルウトと一緒にいたいんです。」 「なら、駄目とは言えないな。ずっとほったらかしだった父親だ。偉そうに言える資格はないよ。ルウト君、 クレアをよろしく頼むよ。必ず幸せにしてやってくれ。」 深々と頭を下げるオルデガ。その言葉に、ルウトは一度顔を上げる。 「はい、必ず幸せにします……お義父さん。」 そう言いながら頭を下げた。そして言葉を続けたのだ。 「だから、お義父さんもお義父さんがなすべきことをやってください。」 「ルウト?」 「クレアが背負っているものも、全部オレがもらいます。全部、 オレが背負います。そしてその後クレアはオレが幸せにします。必ず守ります。」 「ルウト君?」 父娘そろって、ルウトが何が言いたいか分からず、首をかしげる。 「お義父さんも誓ったはずです。昔、オレと同じように、 必ず幸せにすると誓った人がいるはずです。世界の平和はオレたちにも守れますが、 その人を幸せにするのは、貴方にしかできません。」 ルウトはあえて豪語した。まっすぐに強い目で、かつて旅立ちの時に、王に怒鳴りつけたのと同じ目で。 「それがクレアの幸せにもつながるんです、お義父さん。貴方は貴方のなすべきことをやってください。 オレも、オレがなすべきことを必ずやり遂げます。約束します。だから、さようなら……バシルーラ。」 ルウトの呪文に、オルデガの体が空へと引きずられる。そして、時空の向こうへと消えていった。 クレアはずっとオルデガが消えていった方を見ていた。 「……ごめん、クレア。」 ルウトがそう言うと、クレアは首を振る。 「ありがとう、ルウト。嬉しかった。お父さんに言ってくれた言葉も、今の、呪文も。」 その言葉に、ルウトはクレアを抱きしめた。 「ごめん、勝手なことして。でもオレはそうするのが一番だと思った。」 「私も、そう思います、ルウト。……必ず世界を平和にしましょう。幸せになりましょう。 お父さんに、そう誓いましたから。それに……。」 クレアはそう言ってルウトから体を離すと、袋を開けた。 中から出てきたのは、勇者の盾、光の鎧、王者の剣、そして父の残した兜。 それをゆっくり付け始めた。 もう、誰もいないのだ。この世界に勇者は、ただ一人。 『剣を持つ強さ』強く、強く。その強さを。持っているのは、持っていたのは。そして、これから持たなければ ならないのは。 ずっと使っていた鞭を手放し、伝説の武具を装備したクレアは、驚くほど勇者だった。剣を握る その姿は妙にしっくりきていて、勇ましくさえ感じる。 「行きましょう、魔王ゾーマの元へ。」 勇者はまっすぐ先を見据えて、そう宣言した。 |
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