〜 6.シャンパーニの塔 〜


「えい!!」
 最後にクレアがこうもり男の頭に止めを刺して息をつく。
 しょっぱなにマホトーンをされ、エリンの呪文が止められてしまったのだ。なんとか勝利したものの、 レベル上げをしておいたのは幸福だったと言える。
「ふがいないわ、ごめんなさい。」
「謝らないでください、エリン。私たち、……仲間、でしょう?」
 クレアが上目遣いにそういうと、エリンは微笑んだ。申し訳ないと 言うエリンだが、実のところたとえ魔法使いでもアリアハンの宝物庫で手に入れた ルーンスタッフをもったエリンが、ダントツに強いのだが。
「いや、俺も油断した。これが役にたって何よりだ。」
 ロマリアで手に入れたふうじんの盾を振り回し、ルウトはにこっと笑う。
「カンダタの手下に魔法使い崩れがいないといいのだけれど。これは計画からもう少しレベル上げの期間を 考慮するべきね。」
 エリンはぶつぶつといいながら階段を上がっていく。
「悪いな。エリン。大丈夫か?」
「平気よ。行きましょう。そろそろ頂上に着くわ。」
 エリンは目の前にあった扉に手を開けて、カギを開けると、そのままずけずけと入っていく。
「……ルウト、あの、勝手に入っても、いいのかしら……あの、魔法の玉のおうちでも思ったのですけど。」
「あっちはともかく、こっちは盗賊だからいいと思うぜ。クレアは優しいな。行こう。」
 ルウトはクレアを促して、中へと急ぐ。あった階段を登ってエリンと合流すると、その向こう側の男達が仰天していた。
「お前ら、どっから来た?!」
「変な奴らだ、御頭に報告するぞ!!」
 そう言って去っていく男達を追いかけて最上階へとあがると、そこにはごつい男達がいた。 一番ごつい男が、目を丸くする。
「なんだ?お前らは?女の行商か?……そこの赤毛の色っぽいねーちゃんなら俺様の相手をしてもらってもいいぜ?」
 にやりと笑うカンダタに、エリンは真顔で返す。
「何?貴方がカンダタ?かまわないわよ。……戦闘的な意味でならね。」
「……俺様を捕まえに来たのか?だが俺様を捕まえる事は誰にもできん!!はっはっはっは!!」
 カンダタがそう言うと、手元の綱を引いた。とたんに足元の床がぱかん、と開く。
「きゃああああああああああああああああああ!!」
「クレア!!」
 ルウトがクレアに手を伸ばすが、空中で体勢を変える事も出来ずに落ちていく。そして、一階下の地面に落ちた。
 ふわりとスカートを翻し、綺麗に着地したエリンが、服の埃を払う。
「怪我はない?」
「へ、平気です。」
 そういいながらも、クレアは腰を抑えている。少しだけ打ったらしい。
「……オレのクレアによくも……。いくぞ!!」
 ルウトが立ち上がり走り出す。
「あの、大丈夫だから……ルウト……。」
 クレアがそう言って止めようとするが、ルウトはすでに階段を駆け上がっている。
「……行きましょう。」
 エリンとクレアがその後を追うと、最上階の部屋はもぬけの殻だった。
「下か?」
 大きく開かれた窓に、ルウトは飛び乗り、クレアに手を伸ばす。クレアはそれにつかまり一緒に飛び降りる。
「……逆に着地しづらい気もするんだけれど。」
 あまりに自然な動きだったので突っ込み遅れたエリンが、それに続いた。


 タイミングが良かったのか、荷物をまとめたカンダタの前に三人は着地する。
「しつこいやつらめ!!やっつけてやる!!」
 おそらく先鋭の部下達がとびかかってくるが、大きな鎧を着けている盗賊より、エリンの方が数倍早い。
「じっくり相手してもらえるかしら?最強の呪文、見せてあげるわ。イオナズン!!」
 巨大な爆発が塔を揺るがす。だが、
「や、やるな……だが、これで倒れるほど俺は甘くねぇ!!」
 倒れた部下達の体を踏みつけ、カンダタはルウトに斧を振るう。それをまともに食らい、ルウトは吹っ飛んだ。
「ぐあぁ!!」
「ルウトを、傷、つけないで!!」
 クレアが槍をカンダタに突くが、カンダタの皮膚は槍を弾く。ルウトは起き上がりながら、カンダタに悪態をつく。
「くそ、オレにとって、これっくらいかすり傷なんだよ!!」
 その横からルウトが槍を投げると、それは背中に当たり、わずかな傷をつけて弾いた。
「……これくらい、かすり傷ともいわねぇぜ?」
 カンダタがにやりと笑うが、エリンはいつもの冷静な表情で告げる。
「これを食らってからもそう言えるのならば、素晴らしいわね。……メラゾーマ!!」
 特大の火球がカンダタを埋め尽くした。


「まいった!金の冠を返すから許してくれよ!な!な!」
 あちこちこげたカンダタは、部下達と全員でルウトたちに土下座を始める。
「……どうするの?頼まれたのは貴方達だからそっちで決めて。」
「と言われてもなぁ……。こういう奴らはどうせまた繰り返すだろうしなぁ……。」
 ルウトがそう言って頭を掻くと、クレアが躊躇いながらルウトに言う。
「あの、反省してるようですし……許してあげられないですか……?」
「もうこの地方で悪さをしないなら、まぁ……。」
 けろっと意見を変え、ルウトがそう言うとカンダタが希望の目で頭をあげた。
「ありがてぇ!!あんたのことは忘れないよ!!じゃあな!!」
 いそいそと金の冠を置き、そのままカンダタはなだれるように塔から降りていく。
「いいのかしら?」
「まぁ、返せば良いだろ。殺せとは言われてないしな。」
「そう、けど、面倒なことになりそうだから、私はまた宿で待っているわ。」
「わ、私が言ったんですから、私が行きます……。」
「いいよ、俺が許したんだからさ。クレア、二人で行こう。」
 ルウトは金の冠を手に取りながら、クレアを安心させるために小さく微笑みかけた。


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