あさぎ色の空の下に、大きな町が広がっていた。潮風がクレアの青い髪をふわりと揺らす。 「港町なのね。海の音と匂いがするわ。」 潮、というより並べられた魚介類の匂いだろうか。アリアハンの市場を思い出す匂いだが、それよりももっと 強い。 「そう、ここで船を手に入れられればいのだけれど。おそらく今、世界で私たちのような 少人数の人間で運行できる船が手に入るのはここだけ。だからぜひとも手に入れなければならないのだけれど。」 珍しくエリンは、小さな古びたノートのようなものを見ながらぶつぶつとつぶやいている。 「船ねぇ。売っているのか?」 「ええ。行きましょう。どうしても必要なものだから。」 エリンは船場の奥まで歩いていく。適当な男を捕まえて問いかけた。 「船を売って欲しいのだけれど、どこに言えばいいのかしら?」 「船ねぇ。まぁ、売ってるといえば売ってるが、今は在庫がないよ。」 「どうして?ここの主要産業でしょう?」 エリンの言葉に、男はため息をついた。 「このモンスターだらけの海で、船で遠出しようなんて物好きはめったにいないのさ。だから売れない。作っても 材木が無駄になるだけ赤字になる。……そんなわけで、今じゃあ誰も作ろうとしない。それでもどうしても欲しいのかい?」 「ええ、必要なのよ。」 エリンが頷くと、男はにたりと笑った。 「んー、姉ちゃんいい女だから、今晩付き合ってくれるなら、俺が話をつけるぜ。」 エリンはその言葉に眉にしわを寄せる。だが、横からルウトが割り込んだ。 「……悪いが今晩相手するのは、俺になると思うが、それでもいいか?」 新しく買ったばかりの剣を、あえて見せ付けながらすごむと、男は顔を引きつらせた。 「じょ、冗談だよ、冗談。あのな、王様が何個か船を持ってる。王様に会ってきな!!」 男はそういい捨てると、そのまま走り去っていった。 「…………。」 クレアは何も言わず、エリンの背中をじっと見つめるしかできなかった。まさか本当に引き受けようと 思っていたのか?そんな疑惑が頭をもたげる。 エリンはその視線に気づき、ふっと笑う。 「心配しなくても、聞くだけ聞き出して逃げるつもりだったわよ。」 「……そ、それでも、そんな……あの……。」 「なんだよ、それ、美人局か?」 戸惑うクレアの横で、ルウトは笑う。 「必要ならば仕方ないでしょう?」 「今回は必要じゃなかったわけだしな。エリンが急いでいるのは分かるが、急いてはことを仕損じる可能性も あるぜ。」 ルウトの言葉にエリンは少し目線をそらす。 「そうね。心がけるわ。ありがとう。」 小さな城の主は背丈が小さく、大きな玉座にちょこんと座り、ルウト達にこう告げた。 「はるか東の国では、くろこしょうが多く取れるという。東に旅立ち、東で見聞したことをわしに報告せよ。 そなたらを勇者と認め、わしの船を与えよう!!」 そう言って、ポルトガ王はエリンに抜け道の番人への地図を手渡した。 城を去って、クレアが深い安堵の息をつく。目は涙目になっていた。 「そんなにお城が怖いの?」 エリンがそれを見て言うと、クレアは目線を下にそらして言う。 「あの……私は……、何度か行っていますけれど……慣れません。ごめんなさい……。」 「ちゃんと空気が読めてるってことだって。な。」 ルウトがクレアの肩をぽんぽん、と叩く。クレアはじっとルウトの目を見ると、ルウトはにっこりと微笑んだ。 「謝ることではないわよ。それよりも東……一度ロマリアに飛んで、東に進んでアッサラームで休憩して進むのが良さそうね。」 エリンの言葉に、ルウトは地図を広げる。 「結構長旅だな。」 「そうね、バハラタとその山奥にあるダーマは神聖な地だからこんな辺鄙な場所にあるのよ。」 「こしょうはバハラタでいいのか?ダーマまで行くのか?」 「行かないわ。ダーマは職業転職の神殿だから、こういう仕入れには不向きよ。 周りには賢者になれるガルナの塔くらいしかないし。」 エリンの言葉に、ルウトは少し考え込む。 「賢者って……あの、魔法使いと僧侶の両方の呪文が使える奴だよな。」 「そうよ。と言っても、ルウト、貴方は転職できないわよ。勇者なんだから。」 「あ、ああ……エリンは?」 ルウトの言葉に、エリンはくすりと笑う。 「私がなる意味はないわ。魔法使いの呪文はすでに習得しているもの。なるなら僧侶ね。なる気はないけれど。」 「なんでだ?」 「神様なんて、嫌いだもの。クレアが行くなら寄ってもいいけれど。」 さらりとそう言われ、ルウトは苦笑する。 「正直だな。まぁ、俺もそうだが。」 「あら意外ね。勇者なのに。」 「だからこそだよ。」 ルウトが笑うと、その横で、搾り出すような声でクレアがつぶやいた。 「……私も……嫌いです。」 |
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