〜 海賊と酒盛り 〜


 どこから出てきたのか。海賊のアジトの中央、広間には高々と樽が積まれ、瓶が並んでいる。その中身は 全て酒だ。
「今日は祝いだ!!勇者ルウトの前途にかんぱーい!!」
「「「「「かんぱーい!!」」」」
 そう言いながら盗賊たちは酒を煽る。ルウトは苦笑したが、自分の事はどうせ口実だろう。それでも 次々注がれる酒に閉口しながら、ルウトは酒を飲んでいた。
「大丈夫?ルウト?」
 その隣ではクレアが心配そうにこちらを見ている。おそらくごつい海賊達が少し怖いのだろう。クレアは ルウトにぴたっとくっついている。悪い気分ではなかった。
「大丈夫だ。オレ結構酒強かったんだな。」
「でも、ちゃんと酒菜も食べないと駄目です。……本当は私が作りたかったのですけど。
 並べられている焼かれた肉や魚、転がっている野菜を見ながらクレアは残念そうにつぶやく。
「何言ってるんだ、クレアさんよ。御頭のお客人、勇者の女にそんなことさせちゃ、罰があたらぁ!」
 うんうん、と周りの海賊が頷く。クレアは両手を振る。
「いえ、私はそんな……。」
「いいんだよ。……果実酒飲むか?」
 そう赤い瓶を勧めてきたのは、ルウトより二つくらい年上だろう、茶色の髪の青年だった。ここでは下っ端の 方なのだろう、あっちこっちに用事を言いつけられ、ようやくここに腰を据えたらしい。
「え、あの……私が……」
 瓶を取ろうとしたクレアを、青年は人の良い笑顔で押し留める。
「ここで酌してるってことにしておいてくれないかな?落ち着いて飲めないからね。勇者さんは強い酒のほうがいいですか?」
「ああ、オレは甘いのはあんまり。クレアは?」
「え、じゃあ、いただきます……。」
 注がれたのは、イチゴの酒らしい甘い匂いが漂ってくる。ゆっくり舌へと流すと、その 匂いに恥じない甘くおいしい香りだった。
「クレアさんだったか?俺はダット。料理がすきなのかい?得意料理は?」
 茶髪の青年にそう聞かれ、クレアは少し考えて答える。
「作るのはケーキが好きなんですけど、ルウトがお肉が好きなので、最近はお肉の煮込みを良く作ります。」
「へー。俺は今料理当番なんだけどさ、魚に一番合うハーブって何かな?」
「それは……」
 そんなことを話している横で、宴会は大いに盛り上がる。
「勇者さん、いける口だねぇ!よし!これはとっておきだぜ!!」
「おっと、こいつを忘れちゃいけねーよ。これはな黄金の魚を漬け込んだ幻の酒だ!」
「ちょっとまてよ、その前にルウトはまだ飲みなれてないなら、基本を抑えておくべきだろ、こっちだこっち!」
 クレアの横で、ルウトは海賊達に様々なお酒を勧められている。
「おう、男なら一気に行けよ!女にいいとこ見せてやれ!!」
「酒になれた男こそが真の男だからな!!」
 そう煽られ、ルウトはその強引さに困りながらも、男達の言うままに酒を煽った。


「らからだな、クレア。オレは、ふあんなんらいお……おれはよわくなっちまったから……。」
 顔を真っ赤にしながら、クレアにもたれかかるルウトの背を、クレアは必死にさする。
「大丈夫?ルウト?飲みすぎてしまった?」
「らーじょーぶら、クレアが……うう……。」
 口に手を押さえて苦しむルウト。焦っていると、今まで飲ませていた海賊達がルウトを抱えあげた。
「さすがに飲ませすぎたな。ちょっと外で吐いて来い。おい、水持っていけ水。」
「あ、ルウト……。」
 立ち上がって着いていこうとするクレアを、ルウトを抱えていた男が押し留める。
「ちょっと遠慮してやってくれ。みっともないところは見せたくないだろうからな。俺達にまかせとけ。」
「は、はい……。」
 クレアはそう言って座る。すると、ダットがそれを見送りながら笑う。
「なんだか兄においていかれた妹って感じだな。不安で仕方ないって顔してるぜ。」
「そ、そうでしょうか……。」
「なぁ、クレアさんはそれだけ家事が好きなのに、旅をするのは辛くないか?」
 ダットの言葉に、クレアは少し寂しそうに笑みを浮かべる。
「……でも、私は旅をしなければならないですから……どうしても……。」
「それは、ルウトさんの側にいたいからか……?」
「それもですけど、私は……、」
 そう答えようとすると、ダットに肩をつかまれた。
「なぁ、あんたここに残ったらどうだ?これだけの人数、料理するの大変だしさ。クレアさんが手伝ってくれたら助かるし……。」
「え、あ、あの……。」
 ダットは少し目線をそらしている。その頬が赤らんでいるのは酒のせいではないのだが、クレアは気がついていない。
「でも、私は海賊なんてできませんし……。」
「別に略奪なんてしてないし……それでも、どうしても嫌ならさ……俺が……俺と一緒に……。」
「??」
 何が言いたいのか、よく分からずクレアは首をかしげた。


 庭にあった木にもたれかかり、胃の中の物を吐き出すと、ルウトは幾分すっきりとした。
「おい、水飲んでおけ。ゆっくり休んでから戻れよ。すぐ動くと回るからな。」
 ここまで連れてきた盗賊は、ルウトに水筒を渡してその場を去った。
(みっともねー。)
 今までそこそこ口にしてきたが、ここまで飲んだのは初めてだった。クレアにどんな醜態を見せたのかと思うと恥ずかしい。
 急いで水筒をあけて水を口に注ぐ。空を仰いだ形になったルウトの目に、美しい月映った。
「……綺麗だな。あとでクレアと一緒に見るのもいいかな。」
 そうつぶやくと、もう一度口に水を入れ、そのまま吐き出した。そしてアジトへと戻る。
 大広間に向かう廊下では、あちこちで酔っ払った海賊が酔いつぶれている。
(エリンは、……まぁレットがなんとかしてくれるかね)
 そう思いながら、身長に男達をよけて廊下を戻る。すると、大広間への扉に、何人もの男が張り付いていた。
「よし、行け!」
「なんだよ、意気地がないな、もっとちゃんと言えよ、ダット。」
「せっかく二人きりにしてやったのによぅ……押し倒せ!!」
「行けよ、今がチャンスだぞ!!」
 そう小声でつぶやいている海賊の頭を、ルウトはがしっとつかむ。
「……どういうことだ?!」
 そのドスの聞いた声に、海賊達の肩が揺れた。
「ゆ、勇者さん?」
「いえ、違うんですよ、これは……。」
「まぁ兄心っていうか……。」
「お、お遊びですよ、お遊び。」
 そういう男の肩を踏みつけ、ルウトは凶悪に笑った。
「つまりお前らはお遊びでオレのクレアを口説かせたってことだな?!!!ふざけるな!!!そこに直れ!!」
 ルウトの手に、魔法の力が宿る。
「か、勘弁してください!!」
 爆風がドアを突き破り、壁に黒い跡をつける。

 そうしてルウトはクレアが止めるまで、海賊のアジトを荒らして荒らして荒らしまくったのだった。

目次へ トップへ HPトップへ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送