〜 ムオル 〜


「見てください、ルウト。金色の小鳥です。」
 北の村、ムオルの入り口。おそらく村のシンボルツリーなのだろう、大きな木に小さな小鳥が一匹留まっていた。
「本当だ、可愛いな。」
「ええ、ちょっとラーミアに似ている気がします……なんて言ったらラーミアは気を悪くするでしょうか?」
「そんなことないだろ。」
 そういって、ルウトはクレアの髪に唇を寄せる。
「おや、恋人の旅人さんかい、珍しいな。世界が平和になるって言うし、あんたらみたいなのが増えてくれると 嬉しいんじゃがね。どうやって来なさった?歩いてかい?それともやっぱり船かい?」
 老人に聞かれ二人は顔を見合わせた。まさか神の巨大鳥に乗って来ましたとは言えない。
「えっと、船、で、……かな。」
「ああ、やっぱりそうかい、そうだろうね。そうだろうとおもっとったよ。」
 うんうんと、満足したようにうなずく老人に、ルウトとクレアは小さく笑う。
 そのとき、木に留まっていた金の鳥がすいっと降りてきて、クレアの肩に留まった。
「わぁ、人懐っこいんですね。可愛い。」
「クレアが可愛いからな、鳥にもわかるんだろ。」
「もう、ルウト、恥ずかしいです……。」
 はっと老人の方を見ると、老人は呆然とクレアを見ていた。
「あの……?」
「金の鳥が……留まった……そなたは……ポカパマズ……?」
「へ?」
「おい、なんだそのポカパマズってのは。」
 老人はクレアを目が開くように見ている。
「金の小鳥は世界の象徴であり神の化身じゃ。その小鳥を肩に乗せるということは、すなわち世界すらもその手に乗せることが できるもの。……その世界の救い主となりうるものをこの村ではポカパマズ、と呼ぶのじゃ……。」
「だからなんでポカパマズなんだよ……。」
 ルウトは頭を抱えるが、その言葉も馬鹿にはできない。なにせクレアは正真正銘、魔王バラモスを倒した 勇者なのだから。
「いえ、私はそんなものではありません。あの鳥がたまたま人が好きだっただけなのではないでしょうか?」
 クレアが首を小さく振ると、鳥は空へと消えていく。
「いや、こんなことはもう5年前、アリアハンのオルデガという勇者がこの村に訪れて以来のことじゃ……。」
「お父さんが!?」
「オルデガさんが?!おいちょっと話を聞かせろ!!!」
 食って掛かるルウトに、老人はうろたえながら答える。
「いや、それならわしよりもそうじゃな、ポポタの方が詳しいじゃろ。」

「じゃあ、これ返す。」
 そうして渡されたのは、この村に残していったという父の兜だった。
「でもこれ……。」
「大事なんだろ。俺が泣いたからくれたけどさ。……信じられないけど死んだって言うし持っていけよ。」
 ポポタはぶっきらぼうにそう言って、クレアに兜を押し付けた。父がここに着いたときにはモンスターとの 戦いでぼろぼろになっていたということを証明するかのように、その兜はもはや実用に適さないだろう。
「もう俺だって子供じゃないんだしさ、こんな兜大事に持ってなくってもいいんだよ!」
 ぷいっと無愛想にいうポポタに、クレアは小さく笑って頭を下げる。
「ありがとう、ポポタ。嬉しいです。」
「ごごご、誤解すんなよ?!こういうのは家族が持ってるべきだから渡しただけで、別に俺は……、」
「俺は……なんだって?このガキ?」
 ルウトが目が笑ってない笑顔で、ポポタの頭をつかむ。
「もう、ルウト。どうしたんですか、さっきから。ありがとうポポタ。大切にします。」
「……元気でな。……お前に何かあったらオルデガさんががっかりするからな!」
 ポポタはそういうと、そのまま背を向けて走っていった。
「可愛いですね。」
「……まーな。」
 おそらく淡い初恋を味わったらしき幼い恋敵の背中を、ルウトは若干の同情と、そして優越感と敵意を持って見つめた。


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