ルウトは、夕暮れの道を鼻歌を歌いながら歩く。 ようやく仕事が決まった。ようやくというか、あんがいとあっさりと決まったのだが。ここ、ドムドーラの自警団の団員だ。 『自警団』という名前ではあるが、一応ラダトーム城の末端組織になるらしく、補助金が出る代わりに時々視察が入ったり、 城の兵士だった人間がこちらに勤めていたりするらしい。 色々テストを受け、目立たない程度にこなしたところ、絶賛されてしまった。なにせ 自分はそこそこ剣が使え、回復が使えるのだ。 自分へのほめ言葉はともかく、最終的に『勇者ロト』の正体がばれなければいいのだが。 (まぁ、そのあたりはエリンがごまかしてくれるようだしな。) 家は、ドムドーラの中央から少し外れたところにあり、以前ここから逃げ出した住人の残していった家らしい。そこそこ荒れていたが、 それもまるで魔法のようにクレアは片付けてくれた。もちろんルウトも手伝ったが。 周りの家のあちこちからいいにおいが漂ってくる中、愛するクレアが夕飯を作ってくれる家へ帰っていくというのは、なんともいえない 幸福感に満ちていた。 (今日の飯はなんだろうな。うまいんだろうな。) うきうきと夕日に照らされながら歩いていると、我が家が見えてきた。 荒れ放題だった庭はすでに、クレアによって綺麗に整えられ、あちこちに野菜や花が芽生えてきている。こんな生活のためだというの なら、自分のやった旅もやったかいがあるものだ。 すでに、家の灯りはともっていて、きっとクレアは忙しく夕飯の支度をしているのだろう。良いにおいがしてきた。どうやら 今日は魚の煮物らしい。 そうして玄関の扉に手を伸ばして、ルウトが止まった。 この扉の向こうには、愛しいクレアがおいしい食事を用意して待っている。それがわかっているのに。 それでもどうして、この手が動かない。扉を開けるのをためらってしまう。 思い切って開ければなんてことはない。いいや、幸せが待っているのに。わかっているのに。 自分の情けなさに歯噛みしながら、ゆっくりと震える手を、ドアノブに伸ばす。 すると、扉が開いた。 「お帰りなさい、ルウト。」 中から扉を開けたクレアが、にっこりと呼びかけた。 「……クレア……?」 「お疲れ様でした。もうご飯できてますけど、どうしますか?」 「なん、で……?オレが、ここに。」 呆けているルウトに、クレアは少し不思議そうにはにかむ。 「そろそろ帰ってくる頃だなって待っていましたから。帰ってきてくださって嬉しいです、ルウト。」 その笑顔が愛しくて、嬉しくて。ルウトはクレアを抱きしめる。 「ただいま、クレア。」 「はい、お帰りなさい、ルウト。」 クレアの手が、ルウトの背に回る。 きっともう、ためらうことはない。 |
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