第五階層に四人は降り立つ。
「…光はこの森の中を指しておったな。」
「うん。きっとこのあたりだと思うよ。」
「とっとと行こうぜ!ワタル!!ヒミコ、終わったらドーナツを食べさせてやるぞ!全部食べろよ!!」
「全部食べるのだ!!」
 そう言って二人は前も見ずに走り出した。ものすごい砂埃をあげて、2人は森を走っていく。
「おーい、虎王!ヒミコーー!!」
 呼んでも無駄だとわかっているが、呼ばずにはいられない。
「まぁ、すぐ戻ってくるじゃろう。」
「まったくわかってるのかな、あの2人…」
 いつものことながら、ため息をつく。それでもそんな時間が嬉しくて、顔が微笑むのは抑えられなかったが。
 森は静かに見えた。平和そのものだ。考えてみれば、平和な創界山など歩くことがなかったのだ。貴重な時間だった。
「気持ちいいね、先生。」
「ああ、平和そのものじゃ」
 シバラクがそう言った時だった。まるでタイミングを計っていたかの様に、『キーーーー』という奇妙な音がした。
「な、なに?」
 ワタルが振り向くと、そこには黒い毛玉の集団がいた。

「これなに?」
 きょろきょろとした目玉がむしろ可愛らしい。だが、どうやらこちらに敵意があるらしく、じろじろとにらんでくる。
「いかん、これは魔の毛虫じゃ!」
 そう言うと、シバラクが剣を抜く。
「野牛シバラク流×の字切りーーーーーーーー!!」
「え、ええ、これ魔界の虫なの?」
 なんの被害もなさそうなのだと、ワタルは思った。だがしばらく見ていると、ふよふよとワタルの頭に寄ってきて、そのまま髪を 引っ張った。
「いていてててててて…」
「あまり被害がないが、ほっておくと痛い目を見るのじゃ!」
「早く言ってよ!!」
 ワタルは髪の虫を振り払うと、龍角剣を抜く。そのまま水平に薙ぎ、何匹かの毛虫をしとめる。
 シバラクもかなりの数をしとめた。だが、どこから沸いてくるのか次から次へと毛虫がわいてくる。
「もう、うっとうしいな!!」
 切っても切っても新しい虫がわく。
「先生!これ、やっぱり魔界の者がこっちに来てるってことなのかな?」
「そうかもしれん。だが、この程度の虫しかこっちに来れんのじゃろう。」
「とにかく、こいつらを何とかしなきゃ…」
 気がつくと、まっ黒の塊が目の前にある。どんどん数が増えてきているようだった。
「あーもう、どうしようーーーーー」
 そして、助けは遅れてやってくる。
「しゅっぴしゅっぴしゅっぴしゅっぱ!!」
 可愛らしい声がひびいた。緑色の手裏剣が一つ一つに張り付き、毛虫はへにょへにょと地面に落ちていく。
「ヒミコ!!」
「忍法仲良し動物の術なのだ!!しゅっぴしゅっぴ!!」
「俺様もいるぞ!!それ!」
 虎王が剣を振るい、毛虫を討つ。
「よーし!先生!あと一息だよ!!」
「おう!!」
 そうして、ほどなくして、毛虫は全て地面に落ちた。

「ありがとう、ヒミコ、虎王。」
「やっぱり俺様がいないと駄目だな!!」
「だめだな!!」
 2人で胸を張って言う。ワタルは苦笑した。
「はいはい、とりあえず、これからはどこかに行かないでよね。」
 ワタルの言葉に、とりあえず素直に頷く虎王。だが、どこまで聞いてくれるか疑問だとワタルは思った。
「まったく…」
「ところで、俺様たちは一体どこへ行くんだ?」
 虎王の言葉に、ワタルは言葉が詰まる。ぎぎ、とシバラクの方を向き、
「先生、どうしよう。」
「まったく…とりあえず近くの人に聞いてみるというのはどうだ?」
「でも先生。森の中を歩いてる人なんてそうそう…」
 そういったとたん、すぐ横で足音が聞こえた。ぱたぱたぱた、と走る音だ。みると、6歳くらいの男の子が 両手に袋を抱えたまま、必死に走っている。
「あの、すみませーん。」
 ワタルが声をかけると、男の子が立ち止まり…おびえるように逃げた。
「ぬし、ちょっと待たんか!!」
 シバラクの言葉に、男の子は更に速度を上げる。
「カバを見て、おびえちゃったのかな。」
「こりゃ、誰がカバだ!!」
 ワタルの言葉にシバラクが声を上げる。そして。
「追いかけっこ追いかけっこ!!」
「まて、ヒミコ!どっちがあれを捕まえられるか勝負だ!!」
 そう言って、2人は一気に駆け出した。
「2人とも、さっき言ったこともう忘れたのーーーーーーー!!」
 ワタルが叫ぶが、当然ならが2人は聞いていない。
「…まぁ、あれならすぐ事情が聞けるよね、先生。」
「…そうじゃな。」
 不幸な少年をなだめるために、ワタルとシバラクは足を速めた。


 ヒミコに頭からのしかかられ、虎王に腕を掴まれた少年は、泣きながら地面に伏せた。
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
 謝る少年の腕を自慢げに掴む虎王。
「俺様が早かったぞ!俺様の勝ちだ!!」
「あちしの方が早かったのだ!!」
「はいはい、虎王、ヒミコ、ご苦労様。ごめんね、君。ちょっと聞きたいんだけど…」
 ワタルが優しく言うが、少年は泣きっぱなしだった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。どうしても僕、お父さんを生き返らせたかったんです!!」
 そう言うと、少年はずっと手に持っていた袋を差し出す。そこには鏡と丸い珠が入っていた。
「き、君が犯人だったのぉ!!」
 ワタルが思わず声を上げる。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!!!」
「こりゃ、どういうことじゃ!少年!!」
「よし、こいつが犯人だな!聖龍殿に連れて行こう!!」
「行こう行こう!!」
 三人で少年を引っ立てようとする。ワタルはそれを止めた。
「ちょっと待ってよ。ねえ、君。どうしてそんなことしたの?お父さんを生き返らせたいってどういうこと?」


 少年は涙を拭きながら語り始めた。
「…僕のお父さんは、以前アンコクダーに逆らって殺されちゃったんです。…そのあとすぐ、救世主様が この創界山を元に戻してくれたんだけど…救世主様は間に合わなかったんだ…あと、少し早く来てくれれば助かったのに!!」
 ずきん、とワタルの胸がうずく。虎王が何かを言おうとするが、シバラクが口をふさいだ。少年はワタルが救世主本人だと 気がついていないのだろう。
「…もちろん、救世主様には感謝してるんです。でも、どうしても僕、お父さんに会いたくて…そうしたら、夢を 見たんです。龍神池にある三つの宝があれば、このセリーヌの森に封印されている神様を蘇らせることができるって。 …その神様は命を司る神様で、きっとお父さんを生き返らせてくれるって。…ただの夢だと思ったんだけど、 でも、僕どうしても試してみたかったんです。でも、盗んだことは悪いことです。…ごめんなさい。」
 そう言って、少年は頭を下げた。
「…お願いです!今だけ、今だけ見逃してください!お父さんを生き返らせたらすぐ、宝を返します!!」
 四人は黙り込んだ。ワタルは頬をぽりぽりと掻く。そして。
「わかったよ。僕たちも協力するよ。終わったら、それを返してくれるよね?」
「はい!もちろんです!ありがとう!!」

 少年の道案内に、四人はついていく。
「でも、良いのか?」
「大丈夫だよ、先生。僕たちは宝を取り戻すことが目的なんだから。ちょっとだけ遅くなるだけだよ。それで、 どこにその神様はいるの?」
 少年はワタルを見て笑う。
「あっちです。この先に広場があって、そこに大きな岩があるんです。神様はその岩の中に眠っているんだそうです。」
「へぇー。それも夢で見たの?」
「はい!」
 そう言って少年は歩いていく。すると、開けたところに出る。少年の言うとおり、大きな岩がそこにあった。
「うわぁ、本当だー。大きな岩だねー。」
「はい、これが復活の神、セリーヌが眠っている岩です。」
「どうやって封印を解くんじゃ?」
 シバラクの疑問に、少年は答える。
「あの岩を、龍鱗鏡で照らしながらその龍角剣で切るんです。」
「へー。じゃあ、僕が切るから、君、鏡で照らしてくれる?」
「はい!ワタルさん、お願いします!!」
 少年は鏡を取り出し、陽の光が当たるように鏡を動かす。鏡は陽の光を反射し、岩を照らす。
「よし、じゃあ行くよ!!」
 そう言って、ワタルは背中に手を回す。…そして、剣を柄に手をあてたまま止まった。
「…?」
「どうしたんじゃ?」
 シバラクの声に反応せず、ワタルは首をかしげた。
(おかしい…どうして龍角剣は石になってたんだ?)
”龍角剣は光すら切ることができると言われている剣で、悪しき者が触ろうとすると、自らを石に変え、ふさわしい 持ち主を待つといわれる剣じゃ”
 おばばはそう言っていた。悪しき者が触ったから、石になってたはずなのに。
「ねえ、封印を解くのにこの剣が必要だったなら、どうしてこの剣を取らなかったの?」
 ワタルの言葉に、少年はおずおずと答えを返す。
「…僕が入ったときには、その剣は石だったんです。だから抜けなくて…」
「そういえばこれがあった社には封印がしてあったはずなんだけど、どうやって中に入ったの?」
「封印?…そういえば、縄があったけど…なんだか切れそうだったから、ちぎって入っちゃったんです。」
「そんなはずはないぞ!母上の封印は、そんな簡単には解けないはずだ!!」
 虎王が、大声で怒鳴る。少年はひるんだ。
「で、でも、僕知りません!!」
「じゃあ、どうして僕がワタルだって知ってたの?さっき、僕の名前を呼んだよね?」
 ワタルの言葉に、少年は口をつぐむ。シバラクも、ヒミコも虎王も、ワタルの名前を呼んでいない。ワタルが救世主だと知って 信用してもらえなかったら困るからだ。
「え…あの…」
「それとね、どうして僕が龍角剣を持ってるって知ってたの?」
 ワタルがそういうと、少年はにやりと笑った。


「…まったく、おとなしく騙されていればいいものを…」
 それは、少年の声とはまったく違う、おどろおどろしい声だった。
「魔界の者か!!」
 虎王は剣を抜いた。シバラクも剣を抜く。
「お前は何者じゃ!!」
「…私はバートラム。アンコクダー様の使い。ドナルカミたちの爪の甘さをアンコクダー様に報告する役目だったものだ。」
「アンコクダーは死んだぞ!!」
 ワタルの言葉に、バートラムは頷く。
「…だからこそだ。私はアンコクダー様の復活を、神に命じるのだ!!」
 そういうと、は手を上げる。
「出でよ!!コルニクス!!!」
 そのとたん、大きな物が、大地を揺るがせた。見ると、真っ黒な烏型魔神が、そこにあった。

「よぉし」
 ワタルは龍角剣を抜き、まっすぐに構える。
「りゅーじんまるー!!!!」
 ”おおーーーーーーーー”
 虚空に、龍神丸が現れる。ゆっくりと額が光り、ワタルの勾玉と反応しあう。ワタルは龍神丸に引き寄せられ、龍神丸の 中に乗り込んだ。
「龍神丸!アンコクダーの部下だ!油断するなよ!!」
 ”わかっている!”
「とりゃーーーーーー!!」
 見ると、邪虎丸がコルニクスの翼めがけて切りかかっていた。だが、翼の一振りで邪虎丸が飛ばされている。
「虎王!」
「大丈夫だワタル!!それより手ごわいぞ!!」
「わかっている!!」
 ワタルは龍神丸の角をしっかりと握る。
「あいやシバラク!!行くぞ!!野牛シバラク流×の字切り!!」
 今度は戦神丸がコルニクスの首を狙う。
「甘い!!!」
 コルニクスの首からミサイルが発射される。戦神丸がまともにくらう。
「先生!!」
「大丈夫だ!だが、弱点を見つけないといかんぞ!!」
「うん!」
 ”ワタル!!来るぞ!!”
 龍神丸の声に、ワタルが前を見る、コルニクスが翼を払い、そこから羽根型のナイフが飛ぶ。
「龍神丸!剣だ!!」
 ”おう!!”
 龍神丸は剣を振るい、そのことごとくを跳ね返した。
「とりゃーーーー!!」
 虎王が今度は後ろから切りかかる。だが、尾羽から長い刃の鞭が飛び出し、虎王をなぎ払う。
 ”全身武器みたいなやつだ!!油断するな!!”
「うん!」
 龍神丸は飛び上がり、翼の付け根を狙う。だが、そこからもミサイルが飛び出す。そして翼の先から飛び出したナイフの 何発かが龍神丸にあたる。
「うわぁぁぁーーーーー」
 ”大丈夫か、ワタル!!”
「これでどうだ!!」
 戦神丸が、真下からサスマタを放り投げた。だが、それを弾きのけ、足の爪からナイフの雨を降らした。
「このやろうーーーーーーーーー」
 邪虎丸が正面上から飛び掛る。するとくちばしが飛び、邪虎丸にあたる。くちばしに付いていたチェーンが引き戻り、 顔に元通りくちばしが装着される。
「どうする、ワタル?!」
 虎王が支持を仰ぐが、倒す隙が思いつかなかった。

「どこか、武器がないところがあれば…」
 どうやら全身武器のせいで、機動力はそうないらしい。鳥形魔神のくせに動きが早くない。
 ”もう一度…今度は三人でやるぞ、ワタル!!”
「わかった!皆、いっせいに攻撃だ!!」
「「おう!!」」
 龍神丸は後ろから、邪虎丸は横から、戦神丸は正面から襲い掛かる。
「甘い!!」
 バートラムは笑う。尾羽が龍神丸を弾き返し、翼が邪虎丸をしとめ、戦神丸は くちばしにやられる。
「この程度が救世主とは、笑えるな!!」
 だが。
「そりゃーーーーーー!!」
 戦神丸の刀が、くちばしのチェーンをからめ取る。くちばしの先に思い切りぶち当たった戦神丸だったが、 シバラクは力の限り叫ぶ。
「この鎖を切れ!!虎王!!」
「わかった!!!タイガーソード!!!!」
 渾身の力を込めた邪虎丸の剣が、鎖をぶちぎった。
「いまだ、ワタル!!!」
 虎王の声に、ワタルは龍角剣を抜く。
「龍神丸、行くよ!!」
 ”おう!!”
 龍神丸はコルニクスの正面に立ち、ジャンプをする。
「ひっさーつ!!」
 ゆっくりと龍角剣を動かす。その動きにあわせて、龍神丸も剣を抜く。
「登ーーーーーーーー龍ーーーーーーーーーー剣!!!!!」
 龍神丸の剣が、コルニクスを真っ二つにする。そして、バートラムは魔神の破片とともに、空へと消えていった。
「やったね!!!!」


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