空が、とても青かった。
 その光に照らされて映し出されたのは、紫。 それは毒の沼。そして茶色。戦いのあと。荒らされた家並み。 ぐちゃぐちゃになった花畑。そして、血の跡。それだけだった。
 ラグは震えた。心が、体が凍えるほど寒かった。
(ここは?どこだ?僕の…村なのか?)
 予想していたという意識と、絶望感。それが頭の中をぐるぐる回る。
(皆はどこにいったんだろう…)
 そんな事をぼんやり考える。もう一人の自分が言う。みんな死んでしまったんだ。 自分を守る為に死んでしまったんだよ、と。
「嘘だ…だって、何もないじゃないか!どこにもいないじゃないか! …そうか、死んだから、いないんだね…やっぱり、夢なんかじゃなかったんだ…」
 そう言ってラグはしゃがみこんだ。冷たい風が体を冷やすが、 立ち上がる気にはならなかった。
 これから僕はどうすればいいんだろう? どうするべきなんだろう?もうすでにぼやけ切った頭で考える。どれくらい、 そこに座っていたのだろうか?頭の霧が、少しだけ晴れた。
 ”弔い”
そう、頭に浮かんだ。あの愛する人たちが、 せめて天国に上がれるように弔わなければ。そう思い、唐突に気が付く。

 どこにも死体がないのだ。モンスターの死体も、そしてみんなの死体も。
 立ち上がって探す。皆はここで死んだはず。血の跡もある。それに… 死んだと言っていたんだ。自分はその人たちを弔わなければいけないのだ。 …それが自分があの人たちにできる、最後のことなのに。
 そう思って探してもどこにも見当たらない。疲れ果てて座るラグの頭に、 気絶をした、あの光が浮かんだ。
(あれが全てを持っていったんだ。あれはどこから来た?魔物? じゃあ…僕の全ては魔物が…奪っていった??)
 弔いは生者から死者にできる最後の物。そして生者が死者への 心の整理をする為のもの。しかしラグにはそれすらも与えられなかった。 すべて、なにもかも奪われたのだ。
 ラグは走り出す。
「なんでだよ、なんでだよ、なんでだよ!」
 がむしゃらに走り、がむしゃらに叫ぶ。心の重さはどんどんのしかかってくる。 そうして、村の中央まできたとき、ラグはこけた。
 足をすりむき、自分が情けなくなってきた。涙が溢れそうになってくる。 そうして泣き出す直前まできたとき、ふと、足元を見た。

 羽帽子。その羽帽子には見覚えがあった。外に出る大人たちが お土産にと、シンシアに買ってきたものだ。
 ラグはゆっくり手に取った。そのとたん、体が少し 暖かくなった様な気がした。全身が温かな何かで包まれた、そんな気がした。 そして涙が不思議と止まった。

 そうして、シンシアのお気に入りの場所に、あの時のように寝転がる。自分は、 これからどうしたらいいのだろう?何もかも失ってしまった。 大切な人たちも、夢も、目標も。
「どうしたらいい?どうしたら…」

 ― お前の役割は私たちを守るのではない、世界を守る事だ。 ―
 ― 世界を守ってくれ、ラグ。それがお前の生まれたときから与えられた試練なんだ。 ―
 ―魔物を勇者であるお前を力ないうちに殺し、世界を滅ぼそうとしているのだ。世界を 救えるのはお前と、共に戦う仲間だけだ。―

 さまざまな言葉が、頭をよぎる。
「そんなこと言われても、どうすればいいか、判らないよ…世界なんて救えるわけないよ… だって、皆さえ救えなかったんだから…」

 ― 大切なのは心の強さです。 勇者は人々の希望。人々の一番前に立つものなのです。揺ぎ無く、迷わない、常に正しい事を行い、 弱気を助け、前のみを見て生きていく。 ―

「僕には、できなかったよ。だから、僕は勇者なんかじゃないよ…希望に、なれなかったよ…」
 自分は勇者なんかじゃない。なら、何ができる?自分に、みんなの為に、何ができる?
 そう思い、もう一度、シンシアの羽帽子を見つめた。自分に残されたものは、剣と 荷物と、そして帽子だけ。…もうひとつ、あった。

― ラグ、私を、守ってね。私を、救ってね。 ―


 シンシアの最後の言葉。あれは、どういう意味だろう?あれは、僕に何をして欲しかったのだろう? 去り際に言った、あの言葉はそのままの意味ではないだろう事は、ラグにはよくわかった。
 必死で考えた。村のみんなの願いが叶えられそうにないなら、せめてシンシアの願いだけは叶えたかった。
(仇を、取ってくれ、ということだろうか?違うような気がする…だけど…今の僕には他の意味がわからない…)
 みんなの仇を、シンシアの仇を取れば、みんなの心は休まるだろうか?救われるだろうか?
   デス…ピサロ…確かあの時、頭上でそう聞こえた。デスピサロ。それが、 みんなが死んだ、原因。みんなの、仇。僕の、敵。僕から全てを奪い去ったもの。

 羽帽子を握りながらラグは立ち上がった。怒りと嫌悪を喪失感を胸に抱きながら。そうして村の出口、 見張りのおじさんが立っていたところへ歩く。
 いつかここから皆に見守られながら、外に出ることを夢見ていた。現実は誰もいない、何もない所から、 旅立つ。
 村のほうへ振り向いた。村人の皆に声をかけるようにラグは口を開く。
「僕はどうしたらいいのか、判らない。だけど」
 その先は声にせず、誓う。
 ―仇を討って来るよ、必ず―
 そうして、ゆっくり歩き出す。あったはずの村から、ないと思っていた、外へ…
 ラグができる最後の事。ラグがするべきたった一つのこと。それは旅に出ることだった。
 村人の仇と、最後の言葉に意味を探しに。

 喪失から始まる旅路は、ラグの心に暗いものを呼び込んだ。 ただ見上げた空は、まるで血のように、そしていつか見た流れ星のように緋かった。


 やっと旅立ってくれました…。これからラグの旅が始まります。 何よりも自分との戦いになると思います。頑張って欲しいものです。
 この小説の目標「PS版ドラクエ4に忠実でありながら、もっとも忠実でない小説」 を目指しております。よろしくお願いいたします。

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