「ここは無尽蔵に掘られた迷路になってますわ。気をつけてくださいね。」
 ミネアがそう注意をうながすまでもなく、その坑道はせまく、暗く、そして。
「これならば、人を迷わすために作った洞窟の方がましじゃ…」
 ブライがそう愚痴るほどの複雑さだった。
「でもマーニャさんとミネアさんがいなかったら凄い事になってたでしょうね・・・」
 金を掘る為に無秩序に掘られたため、行き止まりは無数とも言える数になっていた。 そして匂い。何よりもそのガスの匂いにあてられ、途中からはただ黙って歩くのみとなっていた。
 そして階段を降りた。
「前はここから先はなかったけど…やっぱり凄い事になってるわね…」
「すごい…すごい邪気を感じます…あれは…何?」
 毒ガスより濃い魔物の気配。それはミネアに身震いを覚えさえせた。
「きっと、地獄の帝王、でしょ!大丈夫よ!」
「全力をつくそう。今まで他の人間にできぬ事をやってきた我々だ。その力を持っていると信じねば きっと何もなせはしないだろう。」
 アリーナとライアンがそれぞれの形で人を奮い立たせた。そして8人はまた歩く。
 ラグは思い起こしていた。初めての城を。そこで王様に言われた言葉を。
 『地獄の帝王をたおせ』それが勇者のなすべき事だと。
(勇者って言うのはエスタークを倒す為にいるんだろうか?)
 村の皆がエスタークを倒す事を望んでいたんだろうか?これが終われば自分は「勇者」なのだろうか?
 それはどうしても信じられなかった。
「誰か、倒れてますじゃ。」
 ブライとクリフトが近寄る。だが既に息絶えていた。クリフトは首をふる。
”私はついに宝の山を掘り当てた。”
 壁に書かれた言葉をただ残していた。
「こんな宝がなんの役に立つと言うんですか…ネネに見せてもやれない…人の役に立たないものは宝でも何でも ないんですよ…」
 トルネコが哀しげにつぶやいた。その男が掘り当てたものを見ながら。
 そこには城があった。邪悪で醜悪な、魔の城が。
 しかしその邪悪さを人間は欲あるがゆえに、自らで引きずり出したのである。
 この戦いは、人間の欲との戦いなのかもしれない。


 ドクン・ドクン・ドクン…
 自らの心臓の音だろうか?誰もがそう思った。だが、違った。  気味の悪い音がただひたすら響く。その音を聞くと、身が震える。心が縮まる。声が出せない。
「これは、エスタークの鼓動…」
 ラグがつぶやくと、皆がハッとしてラグを見た。
「多分、そう思います。なんでわかるのか僕にはわからないんですけれど…」
 頼りなげな顔。不安そうな瞳。それでも、皆に息を飲ませた。
 ここにいる少年は、確かに勇者なのだ。地獄の帝王を倒す為に、神がこの世に下ろした、御使いなのだと。
「いきましょう。エスタークはきっとこのままにしてちゃいけないんです。」
 その声を聞く。だいじょうぶだと。負けないと。その体が、魂が、心が、全てが人々に語りかけた。ここにいるのは 希望だと。
 しかし神はこうも言うだろう。今や、 この場で立ち上がり、立ち向かおうとできるのは、この導かれし者だけなのだと。ここにいる八人全員、神に定められた 希望の一端を握っているのだ。

 城は長い間、地中に埋まっていたのが伺える埃っぽさだった。しかしそれは醜悪でありながら流麗。そして形式美溢れた 作りが、ここが古代、魔族の城だったことをうかがわせる。
「城の作りとしてはむしろオーソドックスと言えますな。」
 ブライが城の作りを観察しながら言う。
「そうなんですか…人間の城と余り変わらないんですね。」
「城である機能を生かすために同じ結論に達する事はそうそうおかしなことではないじゃろう。この様子だと 玉座の間はすぐそこじゃ。」
 皆が気を引き締める。そこにトルネコが指を挿して聞く。
「あれはなんでしょう?炎のように見えますが…なにか見覚えがありますな…」
 そこには祭壇があった。そしてその上に、炎が燃えていた。
「いや、炎ではありますまい。あれは、サントハイムで見たモンスターに似ておりますぞ。」
 ライアンの言葉に、みな無言でうなずき、そして祭壇へ駆け寄った。
「ねえ、貴方エスタークの手下?!」
 真っ先に祭壇に駆け上がったアリーナがモンスターへ問い掛ける。
「我はエスターク様に不死を与えられし者…この祭壇より全てを見通すもの…」
「エスタークはどこにいるの?」
「我は見よう。汝らがエスターク様へ絶望する様を。我は見よう、エスターク様が汝らを倒し、真に覚醒する様を…」
 それは答えではなかった。ゆらり、と揺れる。その向こうになにか壺のようなものが見えた。
「不死…そんなものを得た者は、すでに生き物ではありませんね…」
 クリフトがつぶやく。それが答えだった。生き物ではないものは、人の問いかけに答えられるものではない。
 八人は階段を降りた。
「でも、あんなのがいたってことは、もうすぐエスタークですね…」
 ラグがつぶやく。そして七人を見た。
「エスタークを倒す事は…僕らの旅の目的じゃありません…地獄の帝王と言われるからにはきっと強いでしょう。 皆さんは…」
 ラグが遠慮がちに語りかける。みなまで言わせずマーニャがラグの背中を叩いた。
「なーに今更言ってんの!行くに決まってるでしょ?」
「そうよ、ラグ。貴方私たちを信じてないの?」
「私たちは決めました。貴方についていくと。」
「神の御心はそこにあります。私はその心のままに進みます。その先に人の幸せがある限り。」
「ラグさんは相変わらずですねえ。まだそんな事をいっておられるのですか?私たちは仲間なのでしょう?」
「そうじゃよ。まったく。わしの魔力の前ではエスタークごとき、寿命ほどの怖さもないわい。」
「私は貴方と心ざしをともに生きるもの。貴方の目的、デスピサロを倒すことも、そうでないことも全て 同じだ。共に、命をかけよう。」
 ラグは何も言わなかった。頭を下げた。気持ちを疑ってしまった事。遠慮してしまった事に。そして 皆へ背なを向ける。その向こうに階段があった。
「いきましょう。皆さん。」


 そこは確かに玉座だった。この城が生きていた頃、ここに何万と言うモンスターが集ったのだろう。ある一点をみつめ 話を聞いていたのかもしれない。
 そしてその玉座に座るもの。それは醜悪にして威厳溢れるもの。地獄の帝王エスターク。だが。
「…なんの反応もないわね…」
「なんでなのかしら…?」
 そこに声が割り込む。
「おぬしら、一体なに奴!」
「魔族ではないな!」
 エスタークの足元。そこに見覚えのある魔族がいた。どうやらデスピサロより先に来ていた魔族らしい。
「我らと共に世界を制覇するエスターク様に仇なそうというのか!」
 そう言いながら、モンスターは攻撃を加えてくる。だが、すでにラグたちの敵ではなかった。 アリーナが飛び、ライアンが切る。マーニャとブライはそれぞれ炎と氷の華を咲かせ、クリフトとミネアは 人を包み込む呪文を唱える。トルネコが敵にフェイントをかけ、ラグが皆の動きを読みながら 止めを刺す。
 そして、敵をなぎ払った一瞬の静寂。皆が一息つこうというとき、頭上から声がした。
「何奴だ…我が眠りを妨げるものよ…」
 皆がエスタークの方を向く。ずっと反応がなかったエスタークが、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「我の眠りを妨げるものに、災いと、死を…」

 そう言うと同時に、皆の上へ閃光が落ちてくる。八人はとっさによける。そして身構える。だが、 エスタークはそのまま動かない。しばらく時が流れた。
「なんなの…?」
 マーニャが首をかしげる。トルネコがふと何かを思いだし、声をあげた。
「どうしましたか?トルネコさん?」
「ラグさん、皆さん。さっきの炎、エスタークが私たちを倒して、真に覚醒するって言ってませんでしたか?」
 アリーナが身を乗り出す。
「つまり、エスタークは、まだ寝てるのね!」
「そう言えば、先ほど『眠りを妨げる』と言っておりましたな」
 ライアンが同意する。ラグもうなずく。
 そしてラグが剣を掲げるを合図に、八人の総攻撃が始まった。



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