今日は、日曜日だった。マーニャはバルザックの誘いで、ドライブに来ていた。
 ここから車で少し行った場所に、綺麗な景色を見ながら食事が出来る所があると、バルザックは言った。 マーニャは笑ってOKした。

   バルザックが、あの車で迎えに来たとき、ミネアはとても怒っていた。
 少し泣きはらしたような目。そして心まで射抜くような瞳。
 そんな妹に、マーニャはただ、
「どこかに出かけるなら…最近は物騒だわ、ちゃんとまっすぐ帰りなさいよ。」
 顔を見ずにそれだけを言って、家を飛び出した。

 ラジオの音がうるさかった。リクエストの曲らしい。女性のボーカリストが、高く 情熱的に歌って見せる。
 マーニャは助手席から外を見ながら、その曲を聴くことしか出来なかった。

「マーニャ、静かだな?酔ったのか?」
「そんな事ないわ、バルザック。それより、いつ着くの?」
「ああ、もう少しだ。今日は渋滞していないから早いな。」
 以前、誰かと言ったことがあるのだろうか。だが、マーニャにとって、そんな事はどうでも良かった。


「そう言えば、マーニャ随分地味な格好をしているんだな。」
「そうかしら、こんなものじゃない?高校生だし。」
 今のマーニャはノーメイク、ノーアクセサリーだった。
「いや、お前にはもっと派手なのが似合うよ。着飾れよ、そのほうが俺に似合う。」
 マーニャは笑った。
「いやね、女心がわからないの?あたしはバルザックが贈ってくれたアクセサリーしか付けなくないわ。 あたしを貴方好みの女にしてよ。」
「ああ、いいな。俺がお前を極上の女にしてやるよ。」
 まるで、茶番劇。
(あんたのために、どうしてあたしが綺麗にならなきゃいけないの?)

 車が止まった。どうやら目的地に着いたらしい。マーニャは車を降りた。
 横に歩く男性。…あの夏を思い出す。
 幼い頃は隣りに歩くのが、夢だったような気もする。
 マーニャはバルザックの腕にするりと腕をまわす。
「…どうしたんだい?マーニャ?」
 バルザックは笑う。その笑みが、マーニャの身体に泥のようにまとわりつく。
「愛してるわ、バルザック。」
 ・・・へどが、出るほど。


 いつもの樹の下。ようやくゆっくりとミネアが語り始めた。
 バルザックとの因縁。かつて母が死んだ日の事。姉の、おさない頃の恋慕。
 そして、今姉が何故かバルザックと付き合っていること。
「なるほど、それで…」
「ミネアさんたち、大変だったのね…」
 クリフトとアリーナの言葉に、ミネアが首を振った。
「いいえ、過去の事は…許せないけれど、もういいのです。姉さんも言っていたけれど、会社は 持ち直しています。けれど…だからといってどうして姉さんが平然とあの男と付き合えるのか、 それが判らないんです!!」
「初恋の、人だから、ではないのでしょうか?」
 クリフトの言葉に、ミネアが暗く答える。
「わからないんです。そうかもしれない、そう思います。ですけれど、あの事件の時、一番怒っていたのは 姉さんだったんです…なのに…」
 アリーナは、少しくらい顔をして言った。
「けど、ミネアさん。マーニャさんが好きなら、それは、仕方の無い事だと思うわ。今、その人がまた 何か企んでいるならそれを阻止しなきゃいけないけれど…恋愛は本人同士のものでしょう? 幸せなら…それは口出すのはどうかと思うの…」
「そう…なのかしら…初恋で、忘れられない人と結ばれて、幸せだから…」
 その意見に、ラグも頷こうとして、止まる。

「ちょっと待ってください。…一つ、気になることがあるんです。」
「なんですか?ラグ?」
「もし、マーニャさんが初恋の人と結ばれて、付き合い始めたなら、今は幸せいっぱいのはずですよね?」
「そう、なりますね…現に、私がバルザックと姉さんを見たときは、姉さんとても幸せそうでしたから…」
 ミネアは辛そうに言う。そのコメントにラグはより不思議そうに言った。
「僕の友達、体育祭の後にマーニャさんを見たって言ってたんですけど、とても暗い顔をしてたって言ってました。 でも、好きな人と付き合えたのに、どうしてそんな暗い顔をする必要があるんでしょう?」
 アリーナが不思議そうに言う。
「ミネアさんと喧嘩したからとか?」
「ありえませんわ!姉さんは私の前でもあれほど幸せそうだったんですもの!」
「ラグさん、それは、本当なんですか?」
 クリフトの言葉にラグは頷く。
「なら、一度確かめて見る必要があるかもしれませんね。」
「…本当に、あるんでしょうか?もし、何か理由があるのなら、私に言ってくれると想います…」
「それは、わかりません。ですけれど、とりあえずマーニャさんが本当にバルザックさんのことが好きなのか、 確かめて見る価値はあると思いますよ。」
 クリフトの言葉に、ミネアは縋るように頷いた。
「もし何かあったとするなら、私たちが聞いても無駄よね。きっとマーニャさん本当のこと言ってくれない わ。じゃあ、この事が話せて、信頼できる人で、協力してくれて、マーニャさんがその人の事知らない人… 難しいわね。」
 アリーナのつぶやきに、ラグは自信を持って言う。
「一人心当りがあります。」


 計画決行日は4日後とあいなった。




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