水に守られしベラヌール。そしてその町はまた、最も魔に近い町。
「おやおや、今度はそっちの坊ちゃんかい?」
 ルーンの一件ですっかり顔なじみになった宿の女将がレオンを見て言う。
「すみません、またお世話になります。」
 人好きのする笑顔でルーンは言うが、挨拶もそこそこにルーンが呪われていた時長期休暇 していた部屋へレオンを運び込む。
 レオンは軽かった。いや、そういうと語弊がある。同じ年頃の少年達より筋肉がついている分普通より 重い事は確かなのだから。
 だが。
「ぐそー…」
 レオンが感じている重さを、ルーンは全く感じない。最も力のあるレオンが持ちあがらないと騒いでいる 腕を、最も力がないリィンが軽々と持てるくらいなのだ。今もルーンはレオンの身体を 抱えベッドへ運び込んだ。

「…どんな感じなの?」
「さっきあいつが言ってたとおりだ。鉄の塊が手足に付いてるようで重くて動かねえんだ。」
 疲労こんばいしながらレオンが告げる。
「自業自得でしてよ、レオン。」
 つんとした表情でリィンが告げる。
「なんだと…」
「亡くなった人のお墓を崩すなんて、持ち主が怒って当然の事じゃなくて?その報復なのですから、自業自得だわ。」
「ぐ…」
 あきれたように、少し怒ったように言うリィンの言葉にレオンは言い返すことが出来なかった。
 そんなときその空気の棘を抜くのは、いつもルーンの仕事だった。
「僕、ずっとここで寝てたんだよねー。今はレオンが寝てるなんて変な感じだねー」
 あはははあはーと笑うルーン。その笑いが今のレオンには気に障る。だが、容赦なくリィンが ルーンに言葉を返す。
「違うわよ。レオンはルーンと違ってハーゴンでもなんでもない、ただの幽霊に!やられたのよ、ルーンとは違ってよ。」
 レオンのむかつきが頂点に達する。だが、一瞬早くルーンが言葉を継ぐ。
「あの時レオンとリィンが一生懸命僕の呪いを解く方法を探してくれたんだよね。」
「ぉう…」
 尻つぼみになった怒りがふぬけた言葉と共に発せられる。
「リィンが犬にされた時は、レオンと僕でラーの鏡を探したよね。」
「…そうね。」
 棘が生えていたリィンの言葉が元に戻る。
「じゃあ、今度は僕とリィンの番だよね。」
 にっこりとルーンが笑う。
「…そうね、私達の番だわ。」
 リィンがため息混じりに言う。
「すまねえな。ルーン、リィン。」
「かまわないわ。お互い様ですもの。」
 にっこりとリィンが笑った。


「とりあえず、世界樹の葉でも飲んで見る?」
 ルーンが袋から取り出した世界樹の葉を見せた。
「…贅沢はいわねーけど…それってすっげ苦くなかったか?」
「うん、一回死んじゃうかと思ったよ、僕ー。」
「ほらほら、好き嫌い言ってる時じゃないでしょ?貸して、食べやすいようにすりつぶすわ。」
 うん、と言ってルーンはリィンに世界樹の葉を渡す。リィンはすぐさま水で洗い、すりこぎですりはじめた。
「でも俺、体は健康だぜ?効くのか?」
「これで効くならいいんだどねー。」
 レオンの問いかけに無責任に笑うルーン。
「できたわよ。腕上げられないんでしょ。レオン、口あけて。」
 意を決したように開けるレオンの口に、そっと世界樹の葉を入れる。
「ぐげぎゃげぎゃがががぐぐぎゃぐがぐげぐ…」
 うめくレオンの口にリィンは水を注いだ。その様子を見て、どうやら効いていなさそうだと悟る。 レオンは水を求めて手を動かす事もしなかったからだ。
「効かなかったみたいだねー。」
「じぬがど思っだぞ…俺は…」
 その様子を見てもう一杯リィンが水を飲ませた。
「そろそろ外も暗くなってきたわ。人に聞こうにも人通りがないし、外に出るにも悪い時間ね。 レオンには不便な思いをかけるけれど、続きは明日でもかまわないかしら?」
「おお。」
 レオンが頷くのを確認するとルーンが立ち上がる。
「じゃあ、僕、女将さんに言ってくるよ。ちゃんとチェックインもしないとね。」
 扉を開けてパタパタとルーンが部屋から出て行く。

「もう一杯お水いる?」
「いや、いい。サンキュ。」
 そう言いながらも腕を上げることが出来ないレオン。
「苦しい?」
「いや、身体は健康なんだ。ただ重くて動かないだけだ。痛くもなんともねえ。…心配かけて悪いな。」
「かまわないわ。…仲間だもの。」
 そう言って見せた笑みは昇りはじめの月に照らされて、輝いているようにも、見えた。


「んー、とりあえずラダトームに行ってみようと思ってるんだー」
 朝になっても、やはりレオンの呪いは解けてなかった。
「どうして?」
「確か城下町に呪いの研究しているおじいさんが居たよね。その人に聞いてみようと思って。」
「そうね、じゃあ…」
 さっそく出ようとするリィンをルーンは止めた。
「僕一人で行ってくるよ。リィンはここに残って。」
「どうして?!」
「腕も持ち上がらないなら、きっとレオン困ると思うんだ。助けてあげて。」
 ルーンはどこまでも澄んだ目で、まっすぐとリィンをみつめた。
「でも…危ないわ。」
「僕、もう、ベギラマもザラキも使えるし、海の敵もラダトームの敵も大丈夫だよ。帰りはルーラで帰ってくるし、 心配しないで。」
「ルーンの時は、宿の人が面倒見てくれたもの、レオンだって大丈夫じゃなくて?」
 そういうとルーンは首を振った。
「僕の時は…誰が見ても病気だった。具合が悪いのがわかったもの。だから皆親身になってくれた。 でもレオンは違う。誰が見ても『どうして起きられないのか』きっと判らないと思うんだ。 それなのに宿の人たちにレオンを任せたら、きっと辛い思いをすると思う。宿のみんなだって どう世話したら良いか判らないと思うし…」
「それは…そうだわ…」
「レオンの事、お願いしたら、駄目かな?リィン?」
 そうまっすぐみつめるルーンの眼。この目にリィンは弱かった。どこまでも、どこまでも清らか だったから。
「手がかりが見つかったら、ちゃんと教えてくれる?」
「うん、僕一人じゃ駄目だと思ったら、ちゃんと話すから。」
 それだけ聞くとリィンはため息をついた。
「判ったわ。御願いね、ルーン。」
「うん、行ってきます。」




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