終わらないお伽話を
 〜 仲間 〜



 黒々と口を開けたギアガの大穴の近くに、ふわりと降り立つ。
 振り返ると、今まで飛んできた空が蒼く澄んでいる。
 トゥールはセイが降りたのを確認すると、ラーミアの首筋をそっと撫でた。
「ありがとう。もう僕達は大丈夫。これからは自由に大空を飛んで。凄く助かったよ。」
 ラーミアは、小さく鳴く。どうか頑張って。そう言っているように見えた。
 トゥールが小さく頷くと、ラーミアはゆっくりと羽を広げて大空に舞い上がった。
 セイと二人でそれを見送ると、二人は転進して穴へと歩き出した。
「おい、あっちになんか建物があるぞ。」
 セイが指差した先には、小さな小屋のようなものがあった。穴に寄り添うように建っているその小屋は、 粗末ながらもしっかりした作りをしていた。新しいものではなく、かなり歴史を感じる。
「…でも、なんか…ちょっと壊れてない?」
 屋根のところになにやらひび割れが見える。そのひび割れ自体は新しそうだった。
「…なんだろうな。もしかしたらバラモスの影響かもな。」
「そうだね。とりあえず行こう。」


 遠くから見たとおり、小屋のあちこちにひびが入っているようだったが、すぐに壊れるという状態ではなかった。 何か大きな衝撃がかすった、といった風情だった。トゥールは小さくノックして、慎重にドアを開ける。
 中はがらんとしていた。太陽の光さえ、ギアガの大穴に吸収されるのだろうか、目がくらんで、何も見えない。
 やがて、見えてきたのは小さな二つのベッド。そしてささやかな生活用具。
「誰かの家か?」
「…というより、なんか、炭焼き小屋とかそんなのに近いかな…?バラモスとか穴の見張り小屋のなのかも。」
 奥の方に、人の気配がした。二人は警戒しながらも奥へと進む。
 トゥールとセイは、足を止めた。
 奥は、ギアガの大穴につながっていた。誰かが誤って落ちないためか、低い石壁に四方を囲まれていたのだろう。だが、 その壁はすでにぼろぼろになり、大きく穴が開いていた。
 だが、トゥールとセイが足を止めた理由は、そこにはない。
 その崩れた石壁の前に並んだ二つの人影。それは、血の気が凍るほど恐ろしい人物。
 サーシャとリュシアがこちらをにらみつけていたからだった。


「な!んで、」
「嘘だろ、どうやって、ここにいるんだ?」
 ここにはラーミアでしか来られないはずだ。そしてそのラーミアはつい、先ほどまで自分達が乗っていた。そしてこの二人が ここに今まで来た事がないのは、あきらかだった。
「なんでここにいるんだよ?!」
 セイが頭を抱えて混乱したように叫ぶ。その言葉に、リュシアがじとりとセイを見た。
「…それだけ?」
 リュシアが言葉少ななのはいつもの事だが、それが妙に恐ろしく聞こえるのはなぜだろうか。
「えっと、いや、それだけって、あのそのな…。」
「馬鹿!!」
 それは、怒声だった。初めて聞くリュシアの怒り声に、セイは腰を抜かしそうになる。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」
 リュシアはセイに殴りかかった。殴るといっても、か弱い魔法使いの腕だ。セイには蚊ほどにも感じない。
 だが、セイは打たれるままに立っていた。そのリュシアの声が、だんだん涙声に変わってきたからだった。
「どうして、どうして置いて行っちゃうの!リュシア、仲間でしょ?リュシア嫌なのに、そうやって守られて、 戦えなくて皆死んじゃうの、もう嫌なのに!!」
 ぎゅ、と手のひらを硬く握り締めるリュシア。
「…リュシアは、駄目な子だけど、サーシャに怪我させて、失敗したけど、でも、でも戦いたい。今は ちゃんと皆の力になりたい…、そんな気持ち…」
 リュシアはセイの胸にすがりつくように両手を沿え、セイの顔を見上げた。目には大量の涙が溜まっている。
「そんな気持ち、セイは分かってくれてるって、思ってたのに…。」
 その一言に、セイは堕ちた。
 リュシアの非難の言葉を聞きながら、セイはくらくらする頭を必死で支える。
 リュシアの言葉に、恋愛感情がないことは分かっている。それでも。
「セイまでいなくなるなんて、思わなかった、セイは、セイはちゃんとリュシアたちのこと、待ってて くれるって、思ってたのに、なのに…。」
 そんな風に自分は特別だと、すがりつかれたらもう全面降伏するしかない。
 セイは躊躇いながらも、そっとリュシアの頭を抱きしめた。
「悪かった…だから、泣くなよ。」
 女に泣かれるのは苦手だった。過去を思い出す。
 …けれど、リュシアは初めから平気だったなと、セイは苦笑する。ただ、それとは違う意味で、苦手だと 思うだけだった。
「泣いてない、怒ってるの!!」
 そう言いながら両目いっぱいに涙を湛えるリュシアが、本当に可愛かった。
「…じゃあ、もう怒るなよ。俺が悪かったよ。」
 最初から好きだったなんて言わない。ただ、最初はその黒の色に、どこか憧れと、そして関心を持って。それでも 素直にそう表現することができなかったことを思い出す。
 それからは、妹を思い出す、皆に愛され、甘やかされ、自分とは違う、綺麗なものを 見てきた少女。どこかほっとけなくて、でも面倒くさい子供だった。
 じゃあ、この気持ちはどこから沸いたのか。おそらく。
”リュシア達のセイは、生きててくれて良かったの。生きててくれないと駄目なの。”
「もう二度としないから、許してくれよ。…もう、リュシアを裏切るようなことはしない。 二度と勝手に消えるようなことはしない。約束するから。」
 そっと頭を撫でながら、セイはリュシアに許しを請いた。


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