窓の外に見える太陽は、空高くあがっていた。
「…昼前…。」
 やけに喉が渇く。幸い頭痛などはしないようだったが、本調子には程遠い。
 リュシアは水差しの水をコップに移し、一気に飲み干すとパジャマから着替えることにした。

 朝食をとるには遅い時間だったが、外の空気が浴びたくて、リュシアは宿を出た。
 海風が、リュシアの頭をクリアにしていく。
(気持ち良い…。)
 まるで祝福されたような快晴に、心が弾んだ。近くにある、海の上に作られた、小さな公園へと歩き出す。
 途中から記憶が飛び飛びになっているけれど、昨日はとても楽しかった。
 誕生日はいつもにぎやかだけれど、知らない人も多くて気後れすることが沢山あった。だが昨日は 本当に純粋に、自分の誕生日を祝ってくれて、本当に嬉しかったのだ。
 リュシアはベンチに腰掛ける。海を見ると雄大な船が、海を切って歩みだしているのが見える。
 柔らかな潮風が頬を撫で、強すぎない日差しがリュシアを包む。リュシアは目を瞑り、世界の全てを感じた。

 ぽん ぽん ぱちん。
 頭を優しくなでられ、リュシアは目を開ける。
「寝てんのか?」
「セイ…、寝てないよ、気持ち良かったから。」
 目を開けたリュシアの目には、呆れたセイの顔が映った。
「二日酔いは大丈夫か?」
「平気、喉かわいたけど。」
「そりゃ何よりだな。…そろそろ昼飯だぞ?」
 セイの言葉に、リュシアは立ち上がる。そうしてセイの横に並んだ。
「セイ、帰るとこ?買い物?」
 セイの手には小さな紙袋があった。セイは苦笑して紙袋をつぶす。
「え?ああ、いや、暇だったんでうろうろしてたら腹が減ってな。ちょっとつまみ食いしてた。これは空だ。」
「…ご飯は?」
「たいしたもんじゃねぇし、ちゃんと食うよ。…それよりリュシア、風にあおられて髪の毛すげーぞ。」
 リュシアは髪を撫で付けようと手を伸ばす。セイは苦笑しながら、宿屋の扉を開けた。
「ちゃんと部屋で直して来いよ、待っててやるから。」
 リュシアは頷いて、そのままぱたぱたと部屋まで駆けていった。


 廊下で良く見る顔をすれ違う。
「あら、リュシア、どうしたの?そんなに急いで。」
「サーシャ、起きた?大丈夫?」
 苦笑したサーシャの顔色は、いつもどおりだった。
「ありがとう、二日酔いはないみたいだけど…駄目ね、記憶がないわ。やっぱり最初の一杯でやめておくべきね。 迷惑かけなかった?」
「リュシアも寝てたから。これからお昼。リュシア、部屋戻るけどすぐ行くから。」
「そう、…あら?リュシア、頭に虫が…。」
 とサーシャが手を伸ばし、止まる。
「と、ごめんなさい、髪飾りだったのね。精巧だったから間違えちゃった。綺麗ね。」
「え?」
 リュシアはサーシャの言葉に目を丸くする。
「ちょっと意外な感じなのに、すごく似合ってる。可愛いわ。」
 ”ぽん ぽん 『ぱちん』”
 その言葉に、にこにこと笑うサーシャを置いて、リュシアは部屋まで走った。

 部屋に戻り、後頭部を鏡に映す。そこには、蝶が止まっていた。
「…綺麗。」
 金色の細工の蝶は、今まさに花に止まらんとする様を再現していた。羽の部分はガラスで色とりどりのガラスが、ステンド グラスのように配置され、陽にきらきらと輝いていた。
 不器用な止め方をされているそれを、そっとはずす。丁寧に作られているが、素材から見ると高級な物ではないだろう。 今まで自分が好んでいたものに比べ、随分と派手な印象がある。だがとても美しく、かわいらしくて嬉しくなった。
 少し悩んで、髪飾りをイヤリングとしおりと一緒にしまいこむ。 祝福の気持ちだけ胸にしまって、にっこりと笑い、リュシアは部屋を後にした。


 誕生祝編。本編44話と45話の間の話になります。
 なんとなくトゥールとリュシアって一年以上差が空いているようなイメージで書いていたんですが、実際の所 学年(という概念はないのですけど)が空いているだけで、多分八ヶ月くらいしか空いてませんねぇ。あら意外。 まぁ、血筋が血筋なので、見た目年がとりにくくはあるのですが。
 書きたかったのは四人の酔っ払い方です。
 セイ→限度が分かってる(散々鍛えられた)ので、そうそう酔わない。
 トゥール→口がよく回る。
 サーシャ→突然意味不明なことを言って、そのまま寝る。
 リュシア→甘え癖。抱き付き癖。な感じです。
 日本国ではお酒は二十歳になってから。酒は飲んでも飲まれるな。飲むなら乗るな乗るなら飲むな、です。

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