階段の先は、細い通路だった。まっすぐの一本道。その先には祭壇のようなものと、そして棺。
「…大地におわす精霊ルビス様。どうかかの魂を貴方の元で安らかに眠らせたまえ…。」
 サーシャの祈りの声の元、信心深くないセイはあっさりとその棺をあける。すると、中から埃かぶった この場所にふさわしくないほどのきらめきが姿を現す。
「…すごい。」
 思わずトゥールが息を呑むほどの美しい黄金色の爪がそこにあった。
「はー、これが黄金の爪か。」
 セイはひょいっと棺から取り出す。するとどこからともなく低い声が響いた。
「黄金の爪を奪うものに災いあれ!!」
「なんだ?!」
 まるで、そのひつぎそのものから響いたような声。四人はとっさに構える。
「…呪いか?…聞いてた通りだな!っと!」
 セイはそう言うと、その爪で、すぐ後ろから襲い掛かってきたマミーに殴りかかる。
 気がつくと、周囲はミイラたちで埋め尽くされていた。
「ここにいつまでもいても仕方ない。とにかく倒しながら階段まで走ろう!!」
 トゥールの言葉に三人は頷くと、それぞれ身近な敵を攻撃し始めた。


 どれだけ走っただろうか。敵を切り、蹴散らしながら、四人はひたすらに階段を目指して走った。
 いつもならばこの程度の距離、どうということはない。だが、今回は一歩歩くたびに敵が前に立ちふさがり、襲い掛かってくる。 魔法が使えない中、集団に攻撃できるのはリュシアの杖だけとあっては、疲労は溜まる一方だった。
 ようやく階段にたどり着いたとき、サーシャは静かに息をした。
 思いっきり息を吐きたかった。肩で息をして、落ち着きたかったがなんとか音が出ないように、何度も鼻で息をするに留める。
 階段をあがるために足を踏み出すと、その足がわずかに震えていることに気がついた。
「大丈夫?」
 息の仕方が妙だったせいだろうか、トゥールが目ざとくそれを見つけ、問いかけてくる。サーシャはいつもどおりに笑った。
「平気よ、やぁね。…それにしてもこんな風に死者を惑わしてしまうのは本当に嫌ね。」
「悪いとは思うけどよ、だからこそ、とっととこれ取って行っちまわないとな。そうしたらもう二度とこんなことないわけだしな。」
 セイの言葉にサーシャは頷いた。
「そうね、…もうこんなことは二度とごめんよ。」
 サーシャの言葉に、リュシアもこくこくと頷く。見ると顔色が少し悪い。それでもサーシャの心配そうな顔に返した 笑顔を見ると、自分なんかよりよっぽど演技が上手いなとサーシャは感心した。

 なんとか笑顔で階段を登りきるが、その先にはまた、ミイラたちが姿を現していた。
 もう終わったのではないかという、淡い期待が裏切られたことを知ったが、サーシャは気にせず剣を握りなおした。
「サーシャはこっち。」
 そんなサーシャに、トゥールは裁きの杖を手渡す。
「ありがとう、でも大丈夫よ?」
「考えてみたら、ずっと一人で戦ってたんだよね。ごめん。あとは任せてよ。」
 トゥールはそう言うと、強引に裁きの杖を手渡した。
「サーシャ、リュシア、後ろからフォロー頼むな。」
 セイがにやりと笑って、黄金の爪をぎゅっとにぎる。
「…リュシアは何もしてないから。」
「…悪いな、俺のわがままに付き合わせて。ガラじゃないかもしれないが、たまには男の矜持を見守ってくれよ。 それに、この爪がどれだけ丈夫か試さないとな。」
 少し優しい目でそう言うと、セイは二人に背中を向けて。
「じゃあ行こうか、セイ!」
「おうよ!!」
 二人は踊るように走り出し、モンスターたちに切りかかる。サーシャたちは一瞬唖然となって顔を見合わせたが、やがて我に帰り、 杖を使いながら二人の後を追った。


 ようやく日の光を浴びたときは、四人ともホッと息を吐いた。
 後半、サーシャとリュシアはほとんど戦闘に貢献することはなかった。もちろん、杖を振るっていたが、ミイラたちを 屠ったのは男二人だった。
 その男二人は、汗を流してはいるが、どこか楽しそうにしている。
「怪我はどう?」
「私はほとんどないわ。二人とも治すわよ。」
 魔法力だけは有り余っているが、トゥールは首を振った。
「一晩寝れば治るよ。…さすがに疲れたしね。早く宿に戻ろう。」
「そうだな。…ま、これでやっと憂いなく戦えそうだな。」
「その前にオーブをレイアムランドに持っていかないと。」
「そうだったな。」
 そう楽しそうに話す男二人を、サーシャはぼんやりと見ていた。
 暗い地下でひらひらと舞う、黄金のきらめき。
 大きな背中。あれだけ小さくて、泣き虫だったはずのトゥールの姿が、 とてもたくましく見えて。その黄金のきらめきよりも、印象に残った気がするのは気のせいだろうか?
 サーシャはその気持ちを認めまいと、首を振る。
 そんな抵抗があとどれだけ続けられるかわからないが、その気持ちを記憶の奥に沈めるささやかな 抵抗として、サーシャは背中の疼きに笑ってみせた。


 黄金の爪編でした。55話と56話の間に入ります。
 実際問題、黄金の爪を手に入れるためには、これくらいのレベルが必要かと思われますが。まぁ、鞭とかあるので もうちょっと楽でしょうけれど。サーシャが鞭ってなんとなく似合いすぎて怖いなぁ。
 トゥールとサーシャのフラグ?っぽい物を書いてみました。…それでもあんまり報われてないと言うか なんというか。頑張れトゥール?
 リュシアの方はほったらかしですが、まぁこっちの方についてもそのうちフォローしたいと思います。
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