そして、リュシアが寝込んでから三日が過ぎた。 昨日サーシャが作ったきのこのシチューは、結局ほとんど減っていなかったらしい。喉が腫れているという様子は なく、ただ食欲がないらしい。 その後も夕方に果物などを持って言ったようだが、やはり口にはしなかったらしい。 幸いにして悪化はしてないようだが、いくら寝ているだけと言っても、まったく食事を口にしなければ治るものも治らない。 宿の料理なども出しているが、まったく喉を通らないようだった。 (どーすっかなー。) そして、セイにお鉢が回ってきたのだった。 料理は別に苦手ではない。どちらかと言えば大量に作る方が慣れているのだが、それは言っても仕方がないだろう。 しかし、トゥールの料理もサーシャの料理も駄目となると、一体何を作ればいいのか検討がつかない。 (病人食…ねぇ…。) セイは頭をかきながら、包丁を手に取った。 扉を叩き、セイは無言で部屋に入った。 「…セイ。」 熱のせいか、リュシアの声はぼんやりとくぐもっていた。セイは鍋を横に置き、横の椅子に座った。 「具合はどうだ?…熱下がってねぇな。」 「ごめんなさい…。」 「謝ることじゃねぇだろ。ま、悪いと思うなら、これ食ってくれ。」 そう言って、セイは鍋の物を指差す。リュシアがそっと覗くと、白くてどろどろした物に、なにやら野菜が混ぜてある 不思議なものだった。 「…?」 不思議そうに見上げたリュシアに、セイは笑う。 「これはおかゆっていう、まぁジパングの病人食だな。米を魚のだしで煮込んでやわらかくしたもんだ。」 そういいながら、セイはスープ皿におかゆをよそう。 「…セイは、よく食べてた?」 「いいや?実のところ、あんまり食べたことがない。これも見よう見まねで作ったからな、正しい作り方かどうか 自信はないな。」 子供の頃、よく熱を出してはいたが、あの親が自分のために料理を作ってくれるはずがなく、食べたことがあるのは たまたま弥生が風邪を引いたときの余り物を分けてもらった時くらいだった。 そんな思い出を押し込め、セイは小さく笑う。 「ま、そんなわけで味見もかねて食ってみて欲しいわけだ。」 「…………。」 リュシアはその皿をじっと見つめる。 「食えないか?喉腫れてるのか?」 セイの言葉に、リュシアは首を振る。問題はそこじゃないのだ。…心配かけているのは分かっている。なのに どうしても食べられない。…怖くて。 じっとみつめて固まるリュシアに、セイはため息交じりで口にする。 「…帰りたいならそう言ったらいいんだぞ?」 その言葉に、リュシアは固まった。そして、大急ぎで首を思いっきり振る。 「リュシア、リュシア別に帰りたいなんて、思ってない…。」 「そうかぁ?俺は帰りたいけどな。」 セイのどこか間延びした声に、リュシアは驚いて顔を上げる。 「一日中真っ暗だしよ、まぁ、日光の心配をしなくてもいいのはいいとしても、町中辛気臭いしよ、モンスターはやたら強いし…。 上に居場所がないからって金腕はここに留まるつもりらしいが、信じられねーな。俺はとっとと日の当たる上の世界に 帰りてーよ。」 セイのそんな軽い愚痴に目をまん丸にするリュシア。その表情がおかしくて、セイは少し笑った後、優しい口調で言った。 「だからな、お前がもし『帰りたい』って言ったら、俺は…俺もサーシャもトゥールもきっとこう言うな。『そうだな、 とっととゾーマ倒して帰ろう』ってな。」 リュシアの目から、涙がこぼれた。 ここに来たことに悔いはないけれど、ないはずだけれど。 ママに会いたかった。看病して欲しかった。甘えたかった。 けれど、それを言ったら帰されてしまう気がして。また置いていかれる気がして言えなかった。 トゥールもサーシャも優しくて。…ママのように優しくて。二人が出してくれた料理の味は、本当に懐かしくて 食べられなかった。 ぽろぽろと涙をこぼすリュシアを、セイは少し困ったように見ていた。 「だいたいな、お前ルーラ使えるんだから、もう自由に行き来できるんだぞ?それに…言ったろ?もう二度としないってな。 いまさらお前をはずそうなんて、もう思っちゃいないんだから。」 リュシアはこくこくと頷き続けながら、泣き続けた。 気がつくと、リュシアの目は真っ赤だった。 「…大丈夫か?疲れただろ?寝るか?」 泣くのには体力がいる。風邪で消耗した体にはきついだろうと声をかけたセイに、リュシアは首を振ってから笑って見せた。 「…それ、食べる約束だから。…食べて、元気になるの。」 「そうか。」 セイはスープ皿によそった、すでにさめたおかゆを手渡す。リュシアは黙ってそれを食べた。 「…うまいか?」 「おいしい。…セイが病気になったら、作る。」 熱でふらふらになりながら、ゆっくりとおかゆと食べているリュシアを見ながら、セイは小さく微笑んだ。 看病イベントです。結構ざっくりと削っていますが。セイとリュシアのカップリングを目指したわりには、 保護者の域を超えていないような、そうでないような。 実際のところリュシアが風邪を引いた一番の原因は、生活リズムの乱れかと思われます。皆様、体には くれぐれもご注意を。 |
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