「手はずはいいな?」
 当日忍び込む面子は、中々の人数であった。最初に声をかけてきた男がセイや他の盗賊、そして 一般人まで何人も紛れ込んでいる。
 村人の一人だろう。盗賊行為に戸惑っているのか、少し自信なさげに立っている青年が、盗賊に ロープを持つように促されている。別の壮年男性は、どこか興奮したように、荷物を抱えている。
どうやら宝を見たい、そして盗賊に盗られないようにと見張る  意味で、村人も仲間に加わっているらしい。果たしてどういう交渉をしたのかは知らないが。まぁ適当に 出し抜くつもりなのだろう。おそらく、セイに聞かされていないことも多数あるはずだ。

 時間は夜半すぎ。おそらくこの神殿の設計に携わったであろう村人の案内で、裏手からずんずんと進んでいく。
 やがて、バリア床が張り巡らされた大きな広間に着く。その中央にある、仰々しい台座には、なにやら古びたランプが おいてあった。
 人々はざわめく。
「……あれは?」
「よくわからんが、魔法の力がある宝だろうな。よし、手はずどおりやるぞ。この床には触れるな。」
 縄を取り出し、指示通り壁に釘を埋め込もうとする刹那。すぐ横を滑るように走る少女が通った。
 バンダナを巻いた頭からは、三つ編みにした黒い髪がこぼれている。ノースリーブの服の上から、少し大きめなシャツを 合わせ、短めなスカートの下に膝上のぴったりとしたズボンを履いたそのスタイルは、いかにもな盗賊スタイルだ。
 さっきまではいなかったはずの少女は、歩くと体中が苦痛にゆがむはずの床を、走っていく。
「だ、誰だ?ちょっと待て!」
 追いかけようとした盗賊は、バリア床に足を突っ込み、苦痛にゆがみながら体を下げる。
 そしてその横から、今度はまるで翼が生えたように飛び上がり、バリア床に着地した男が笑った。


「ここまで案内ご苦労さん。」
「お前は確かセイ……あの女、確かお前の女だな!!」
 服装はまったく違うが、台座の宝に手を伸ばした女は、確かにセイと一緒に座っていた少女だった。一般人に 見えたが、それすらも罠だったのだと歯噛みする。
 セイはそのまま高く宙返りをし、少女の横に立つ。
「俺達もこの宝は気になってたもんでね。内部に入るのが面倒だったんで、利用させてもらったぜ。」
 不敵に笑うセイに対し、盗賊は歯軋りをする。どうがんばってもそこにたどり着くには10分かかる。逃げられないようにと、 盗賊は出入り口をふさぐように立った。
「俺たちを利用したってわけか!!ふざけるな!!それはこの村の宝だぞ!!」
 村人がセイに怒鳴るが、セイは笑って少女に呼びかける。
「さて、そのお宝は俺たちが手にするにふさわしいもんか?」
 ランプをじっと見ていた少女は、やがて顔を上げる。
「……これは、こうして灯りをつけると……。」
 そう言って少女はランプに火をつける。すると、突然太陽の光が部屋を包んだ。
「朝に……朝になった?」
「そんな馬鹿な!!!」
 そうざわめいていると、盗賊の後ろの扉が開く。扉に頭をぶつけ、思わずしゃがみこんだ盗賊の後ろから、この 神殿の神官が現れた。
「貴方たちは……これは何事です?!……それを返しなさい!!それはこの世界を混乱に招くもの。持ち出してはいけません!!」
「へぇ、中々のお宝だな。」
 そういうと、セイは少女の肩に手を起き、そしてふっと火を消した。そのとたん、再び太陽は隠れ、 夜へと戻った。
「ま、こんな田舎にゃもったいないな。この白刃のセイ様がきちんともらってやるよ。」
「逃がさねぇぞ!!馬鹿にしやがって!!」
 盗賊と村人が、入り口を囲う。構造上、ここを出るためにはこの扉を通らなければならないのだ。
 だが、セイは少女をランプごと横抱きにすると、どういう仕掛けかそのまま空へと浮かび上がった。
「じゃあな!」
 笑いながら、飛ぶ二人はそのままステンドグラスにぶつかるかと思いきや、その直前にふっと姿を消した。


「うまくいった。」
「ああ、ご苦労さん。リュシアのおかげだ。これでまぁ、あの村も平和になるだろうな。」
 ルーラでゼニスの城を経由してアリアハンまで飛びながら、いつもと違う珍しい格好をしているリュシアは、少し照れたように笑う。
 実のところ仕掛けは簡単だ。魔法使いと気づかせないように、あえて盗賊らしい格好をさせ、星降る腕輪ですばやさをあげておく。  適当な男に姿を変え、頃合を見計らってセイの近くでトラマナを使い、姿を見せる。
 それっぽく見えるランプを置いておいてもらい、火をつける、消すのに合わせてリュシアがラナルータを使った。その 呪文の正体を知らなければ、まさに世界を動かす宝に見えただろう。
 正体もなにも、昼夜を逆転させる呪文などリュシアにしか使えないのだから、ばれるはずもないだろうが。
「これで、セイ、あっちの世界でも大盗賊。世界を動かす宝、盗んだもんね。」
「……世界を動かす、唯一つの宝、ねぇ……。」
 リュシアはセイの腕の中で、嬉しそうに笑う。
 自由に姿を変える宝。どんな扉でも自由に開けられる宝。昼夜を逆転させる宝。
 それは世界でただひとつの。
 そして、その宝の価値は、そんなところにはなくて。にっこりと笑うリュシアを見て、セイは少し頬を赤くしながら つぶやいた。
「まぁ、な。そうかもな。」

 アリアハンに着き、セイの足が地面に着く。セイは、そのまま、アリアハンの町へと歩き出した。
「わ、セイ、降りる、降りるよ?」
「いや、色々呪文使って疲れただろ?このまま送っていくって。」
 抱きかかえられたままのリュシアは、セイにそう言われ首を振る。
「別に、平気。旅にしてた時はもっと呪文使ってた。だから、それに、ちょっと恥ずかしいし、あの。」
 ちょっと赤くなっているのが可愛くて。セイはあえて少し高く抱え、耳元でささやいた。
「だって俺が盗んだんだろ?世界に一つの宝とやらを。」


 まぁ、昼夜逆転以外なら、サーシャにも使えるんですけどね。(台無し)
 最後へたれセイにするか、イケセイにするか悩んで、今回はイケセイになりました。たまには かっこつけてもらわにゃ。
 ちなみに2のザハンで思うことは、聖なる織り機に対して、あの神殿は大げさすぎないか?ということでした。 村人も大して信心深くなさそうですし。そんなわけでこうなったのです。
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