姿を現したリュシアが再び向かいの席に座る。
「で、話は全部聞いてたんだな?」
「……多分、全部。」
「決行は明後日らしいが、お前色々仕事あるだろ。送ってやるよ。」
「……お休みする。」
「おいおい。大丈夫かよ。」
 セイは目を見張る。リュシアはまじめな性質だ。自分が仕事を休めば周りが大変だということを よく知っている。
「だって、気になる。……それに、ほっとけない。ちゃんと確かめたい。」
「まぁ、そういうと思ったけどな。ったく、とっくに引退したんだがな。」
 だからこそ、セイは適当に断ることをあきらめて話を聞いたわけで。
「とりあえずまず神殿に調査しねーとな……神殿か……こういうのはサーシャかトゥール向けだよな……。」
「わ、わたし、がんばるから、だから。」
「まぁ、元本職にまかせておけよ。」
 なにやら決意するように、両手を握るリュシアに、セイは笑って見せた。


 その日の夜、二人は神殿に忍び込む。まずは宝が本当にあるのか、あるならどんな宝か調査しなければ 話にならない。
 その神殿は確かに大きかったが、二人の前では敵ではなかった。
 そして大きなバリアの部屋に着く。天井は全面ステンドグラスで飾られたその部屋は、月明かりに輝いて 美しかった。
 その中央にはなにやら台座があるが、その上には何もない。
「……なにもないね。」
「めぼしいところは見たんだがなぁ。やっぱデマってことか?」
「……聞いてみよう。」
 リュシアはついっと身を翻し、居住区へと向かう。 
「ちょっと待て、せめて朝になってからにしようぜ。」
「……そっか、寝てる」
「そこにいるのは誰です?」
 ランプの灯りの向こう側。年老いた修道女が声を上げる。
「やばい、逃げるぞ!!」
 セイがリュシアを抱え、逃げようとするが、それより早くリュシアが声を上げた。
「待って!ごめんなさい。あの、あの、お話、したいんです。あの……。」
 リュシアの声に、修道女が戸惑っているようだった。セイはため息をつく。
「……ここにあるって宝のことを調査してるんだ。話を聞かせてくれるか?」
「そんなものはここにはありませんよ。あきらめて立ち去りなさい。」
「違うの、あの、あの……。」
 リュシアは困ったようにあえぐと、扉が開く音がした。姿を現した中年の男は、セイたちと修道女 を見比べて、困惑しているようだった。
「……どうしましたか?」
「盗賊が出たようです。困ったものですね。」
「あんたが、ここを作ったっていう神官か?」
 セイの言葉に、男はうなずく。そうしてにこやかに笑った。
「盗賊さんですか。どうですか、まだ夜は冷えます。暖かいものでもいかがですか?」


 なぜかセイとリュシアは神官の部屋へと招かれ、お茶をご馳走になっていた。最初にリュシアを見つけた 修道女は機嫌が悪いようだったが、神官は笑みを崩さずお茶の準備を整えた。
「何もめぼしいものはなかったでしょう。すみません。」
「いや、正直俺たちは金に困って入ったわけじゃねぇんだ。」
 セイの言葉は真実だった。勇者として世界を旅するということは、誰にも入れない秘境へと足を踏み入れるトレジャーハントの 旅でもあり、一流のモンスターハンターの旅でもあった。正直に言えば四人は一生遊んで暮らせるだけの財産を すでに持ち合わせているのだった。
 そうして、村に流れている噂を説明する。盗賊がここを狙っていることも説明すると、神官はうなった。
「そうですか……困りました……。」
「結局、この立派な神殿は何のためなんだ?」
「簡単にいいますと、村人の仕事のためです。」
「は?」
「うちの親は業突く張りの商人でして。親が事故で死んだのをきっかけに、神への道を志したのですが、 せっかくですから、このお金を困った人のために役に立てたいと思ったんです。」
「そんな、神官様……神官様は本当に偉大なお方です。世界が滅亡へと歩んでいる今、人々の 支えになりたいと。……けれど、ただで奉仕することは村人のためにはならないといって、財産をすべてなげうって この神殿をおつくりになったのですよ。」
 修道女が自慢げに言う。
「だから、神殿を作って、その報酬で、皆?」
 リュシアの言葉に、神官はうなずいた。
「ええ、ですから、神殿は大きく、凝ったものにする必要があったのです。仕事がなくならないためにね。」
「つまり、何かのために作ったわけじゃなくて、神殿を作ることが目的だったってわけか。」
「はい。……人々が力を合わせることで、こんな大きく、立派な神殿ができました。人が信頼して力をあわせること。これが 世界を動かす唯一つの宝です。」
 その言葉に、セイは頭をかきむしる。
「しっかしその言葉じゃ、納得しないだろうな……。」
「そうですね……一度あるとわかっているものは、いくら言っても隠している思われるだけなのでしょう。ですが、 きっといつかわかってくださると信じております。」
「人の欲というのものは、本当に困ったものですね。」
 神官と修道女がそう言い合うが、セイは苦い顔をした。
「ならいいが、その前に怪我人が出ちまう可能性があるし、なにより盗賊団がな……。」
「……盗む?」
「は?」
「セイは、すごい盗賊さんでしょ?ここから盗もう。世界で唯一つの宝。」
 リュシアがにっこりと笑う。セイはようやく得心が言ったようだった。


 計画をまとめるころには、空も白んでいた。神官たちは帰る二人に頭を下げた。
「本当にありがとうございます。……それにしても貴方達は一体……。只者とは思えませんが……。」
「あー、えっと。」
「……わたしたちは、世界を救ったロトの勇者の従者と勇者と一緒に旅したルビスの巫女様に仕える侍女。」
 困ったように言葉を濁すセイの横で、リュシアはにっこりと笑う。
「おお……なんと……。」
「でも、勇者様たちは目立つこと好きじゃない、だから内緒にしてください。」
「ま、そういうことだ。じゃあ、くれぐれもよろしく頼むな。」
 セイは苦笑してそれに乗る。まさか当の本人はこんなところで使われているとは思っていないだろう。
 それをいけしゃあしゃあとやってみせるあたり、本当にリュシアはこの2年で変わった。
 神殿を出てセイはリュシアにそういうと、リュシアは笑った。
「セイも変わったよ。たくさん、たくさん変わったよ。わたし、今のセイの方が好き。」


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