目が覚めたサーシャが真っ先に見たものは、いつものように少し心配そうに微笑む、トゥールの 姿だった。
 サーシャは起き上がる。どうやらサーシャの控え室らしい。部屋にはトゥールだけのようで、 サーシャは問いかける。
「トゥール……大会は……?」
「終わったよ。僕の勝ち。まだまだ師匠に勝つのは早すぎるよ。」
 トゥールはいつものようににっこりと笑った。
「トゥール、私力いっぱいやってしまったから……痛かったでしょう?怪我は?」
「治したよ。本気でやるっていったのは僕なんだから気にしないで。あれくらいやってくれて良かったよ。 八百長だと思われたらこの先、ここの人達も困るしね。一番見ごたえのある試合だったって褒めてもらったよ。」
 トゥールの言葉に、サーシャは胸をなでおろす。そして一番言わなければならないことを思い出した。
「あの、あと、その、……ごめんなさい、心配かけて。」
「本当だよ。」
 トゥールの声音が変わる。ずいっとサーシャの目前に迫った。
「今回やってわかったと思うけど、そりゃサーシャは強いけど、でも勝負に絶対はないんだから。あんなこと 引き受けないでそれこそ普通に僕が参加すればよかったんだよ。せめて相談してくれたって良いじゃないか。 仲間なんだから。」
「うん、ごめんなさい。」
「だいたいサーシャ、ここに残ったのは僕たちの意思なんだから、そう突っ走らないこと。大体ギアガの大穴を 閉じたのはルビス様なんだし、サーシャはルビス様とは別の人格なんだかね、わかってる?」
「はい。ごめんなさい。」
 サーシャは神妙に、トゥールの説教を聞いて頷く。そして。
「嬉しかったわ、ありがとう。」
 サーシャは花がほころぶような笑顔で、トゥールに心からの礼を言うと、トゥールの真剣な表情が崩れる。
「ま、いいか。これでサーシャは僕の物なんだよね?」
「え。えっと。その……。」
 トゥールはにんまりと笑うと、そのままゆっくりと体をサーシャに寄せる。自然に押され、そのまま寝台に横になると、 トゥールは横からその上に覆いかぶさる形になる。
 トゥールの熱のある目を見ていられなくて、サーシャは目を閉じた。そのまぶたの裏に浮かぶのは、 先ほど戦った、真剣な表情のトゥールで。サーシャの胸はトゥールの体温を感じて自然に高鳴る。
 トゥールの吐息がサーシャの肌に触れ、そしてトゥールの唇が、サーシャの頬に触れた。
「あはは、ごめんごめん。大丈夫だよ、ちゃんと優勝商品はロンダルキアに行かせて下さいってお願いしておいたから。」
 トゥールはがばっと身を起こし、ぱたぱたと手を振る。サーシャはいまだ高鳴る胸を押さえて、首だけ起こした。
「うん、びっくりさせてごめん。セイとリュシアも心配してるから、ちゃんと宿に帰ってきてね。じゃあ、僕 ちょっと院長さんに挨拶してくるよ。」
 トゥールはそう言うと、部屋を出て行った。その背中を見送りながら、紅潮した頬と、痛いくらいになる 心臓の音に、サーシャは困り果てた。

 そして部屋の外で。
(まさか、拒否されないなんて……思わなかったもんなぁ……。もったいなかったなぁ……いや、でも……。)
 同じく高鳴る心臓の音と紅潮する顔に悩まされながら、トゥールは頭を抱えてもだえた。


 旅の扉を越え、洞窟を越え、山道を越え、四人はようやくロンダルキアへとたどり着く。
「ここがロンダルキアか……やっぱり寒いね。」
「高いところだから。……空が近い。雲が下にある。」
 リュシアとそう言い合うトゥールはいつもどおりで、そしてあれほどうるさく鳴ったサーシャの胸も 今は元通りだった。
「ここからどこに行けばいいのかしら?」
 サーシャの言葉に、案内役の僧が嬉しそうに答える。
「そうですね……伝承がどこを示しているかわからないのですが、一番高い丘の上など ご覧になられますか?」
「そうだな。とりあえず言ってみるか。」
 そして、僧の案内で、トゥール達はロンダルキアの中でも一番高い、丘の上……この世界の一番 空に近い場所へとたどり着いた。
「”いと高き山の光の中で天界に導かれる”だったか?」
 セイが言うと、案内人の僧が頷く。
「光って言われても……あ、あれ!!」
 ゆっくりと雲間から光が差していく。目の前に、一筋の陽の光が当たる。
「あれだ、皆、急いで!!」
 トゥールがサーシャと、セイの手をつかむ。その瞬間、サーシャの胸がまた高まった。
「あ、えっと、あそこ?」
 心臓の音が聞こえないか心配しながら、サーシャはトゥールの手を握り返す。その横ではセイがリュシアの手をつかみ、 その光を見ていた。
 四人はゆっくりと光に導かれ、そして案内人の目の前で消えた。
 驚いた僧が皆に伝え、それが新たな伝説を生むのは、また別の話しだ。


 一瞬目の前が光り、そしてそれが収まったとき、四人は不思議な空に浮かぶ島にいた。
「なんだ?!!元の世界じゃ……ないようだが……。」
「そうだね。ロンダルキアでもないみたいだ。ここは寒くないし。」
 セイとトゥールがそう分析する。サーシャとリュシアも驚きながら見慣れぬ光景に目をきょろきょろさせた。
「……あそこに洞窟がある。」
「本当。あそこに行くべきなのかしらね、ほかに何もないし。」
「少なくとも何かの可能性はあるよね。行こう。」
 トゥールは二人の手を放し、そちらに歩き出す。セイとリュシアもすぐさまその後に続く。
 そして、サーシャは苦笑した。困ったことに手を放しても、胸の鼓動が収まっていない。あの甘い快感もないのに、 手放すのが惜しかった。
「サーシャ?!」
 リュシアに呼ばれ、サーシャは顔を上げる。
 とりあえず今は忘れていよう。目の前のことを片付けなければ。
「ごめんなさい!すぐ行くわ。」
 こん、とうるさい胸を一度叩き、サーシャは歩き出した。


 そんなわけで、ベタに武闘大会でした。4ではアリーナが武闘大会に出場していますが、今回のルールの 場合、正直賢者に勝てるキャラはいないでしょう。トゥールは絶対に 勝てません。アリーナのような武闘家タイプなら、会心の一撃の連打で なんとか、という運の勝負に持ち込めますかね。そんなわけで、サーシャは戦略ミスをしています。 一発目にマホトーンではなくマホカンタで安定だと思われます。
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