3日後の朝。完全復活したサーシャはなんとか朝の清掃を終え、バケツの水を捨てようと教会の扉を開けた。 「……あ。」 「おはよう。」 朝の光を浴びながら、トゥールは少しだけバツが悪そうに笑っていた。 「……お、はよう。」 なんだか妙に気まずくて、震える声で答えを返す。 「体、大丈夫?」 さっきまで普通だったのに、なんだか上手く声が出ない。寝込みながら、もし 会えたら普通にしようと思っていて、謝って、それから元通りの仲間になろうと色々考えていたのに。 サーシャは結局小さく頷くだけになってしまった。 「えっと、この後時間くれないかな……?」 「え、っと……うん、大丈夫、だけど……。ちょっと待っててくれる?」 なんだか気まずくて、サーシャはバケツの水を捨て、ぱたぱたと家に戻り、手を洗う。 これは何かの夢ではないかと思ったが、戻ってからも、トゥールは変わらずそこにいた。 「あの……。」 「あ、えっと、じゃあ、ちょっとどこでもいいんだけど……着いてきて。」 トゥールもどこか緊張しているのだろう。そんなことを言って、サーシャに背を向けて歩き始める。 ついたのは、町外れの人気のない森だった。 「えっと、えっとさ……その、この間の、ことなんだけど。」 「ごめんなさい!」 サーシャは勢いよく頭を下げた。 突然謝られるとは思わなかったトゥールが、その勢いに思わずのけぞる。 「え、サーシャ?」 「……それと、ありがとう。ずっと私を支えて助けてくれた。……トゥールにだけだなって、思ったの。私が 無意識に甘えられるのが。けれど、その甘えで、ずっとトゥールを傷つけてきてた。不安をぶつけて、 受け止めてもらって、私はここまでやってこられたなって思ったの。だから、ごめんなさい。」 「えっと、あ、うん。」 サーシャは顔を上げる。寂しそうな顔をしていた。サーシャは気まずいのか、勢いのまままくしたてる。 「だから、その、気まずいと思うけれど、私もこれから甘えないようにするし、トゥールが良かったらなんだけれど、 また、友達とか仲間として接してくれたら嬉しい。けれど、これも私のわがままだし、やっぱり無理だと 思うのなら、私、街を出て……」 「え、ちょっと待って!」 なんだか不穏な話し運びになってきたので、トゥールは急いで止める。 「その、この間のことはごめん。……驚いてさ。うん。」 トゥールは大きく大きく深呼吸をする。そして。 「僕はサーシャのことが好きだよ。ずっと変わらず。誰よりも大好きだよ。側にいて欲しいんだ。」 サーシャは一瞬、なんのことか考えて。そして真っ赤になってぺたん、とへたりこんだ。 サーシャのその顔は、どこか呆けているようで、可愛らしい。 「サーシャ?!」 「え、だって、私、ごめんって。」 「だってサーシャ、ずるいよ。熱に浮かされて言われたら、本当かどうか疑うじゃないか。寂しくて、誰か 側にいて欲しいだけじゃないかって思うよ。」 「ち、違うわ!私は、私がトゥールが……好き、よ。」 そう口にして耳まで赤くなる。恥ずかしくて消えてしまいたくなり、うつむいて何とか言葉をつむぎだす。 「気がついたのは、その、風邪を引いて……誰かに側にいて欲しいなって思ったの。でも、トゥールが、いいって。 他の誰でもないトゥールに会いたいって思って……そんなときに来てくれたから嬉しくて。トゥールは いつも、私を助けてくれた。だから……」 す、とトゥールの足が目に入る。顔を上げると目の前に、笑顔のトゥールの姿があった。 「……もう一度、ちゃんと言って欲しいな。」 「え、あの……。」 恥ずかしくて恥ずかしくて、顔から火が出そうなのだ。ぱくぱくと言葉にならず、何度も口を動かすが、トゥールは それを見て真剣な顔をした。 「嬉しいよ。でも、ちょっと怖いんだ。サーシャは、ルビス様の願いを知ってる。ずっと崇拝してたルビス様の願いを。 サーシャはもしかして、それを叶えたいだけなんじゃない?僕と結ばれて子供を残すこと。それを叶えるために 自分の気持ちをごまかしてない?」 「馬鹿、違うわよ!!」 思わず声を上げる。両手を地面につき、まるでにらむようにトゥールを見る。 「だって、気がついたのは3日前だけど、もっと前からきっと好きだった。 トゥールが私を助け出してくれる前からずっとよ!私の勇者がトゥールで良かった、トゥールじゃないと 嫌だって思うもの!オルデガさまでも誰でもない、トゥールだから、」 そこまで言ってサーシャは息をした。さっきのトゥールと同じように。 「トゥール、大好きよ。ずっと待っていてくれてありがとう。」 サーシャは顔を真っ赤にして、微笑む。それに我慢しきれずにトゥールは抱きしめた。 かつてこんなことが、あったように思う。森の中、泣くサーシャを抱きしめた。 あの時、サーシャはその手を突き飛ばした。自らが消える恐怖ゆえに。 けれど今は、お互いしっかりと抱き合い、その存在を確かめている。 「好きだよ、サーシャ。」 「……私も。」 「ずっと側にいて。いつか僕がアレフガルドに戻るときも。」 「ええ、一緒に行くわ。ずっと一緒にいたいもの。」 「僕の夢、一緒に叶えてくれる?」 「……ええ。トゥールがいて、私がいて、子供達がいて、きっと楽しいわ。」 二人は抱き合い、お互いの鼓動を確かめながら、ずっとそんなことを話していた。 お疲れ様でした。回り道などしながら、ようやく二人をくっつけることができました。頑固者 トゥールといじっぱりサーシャですが、この先は人並みに山アリ谷アリ、でも平凡に幸せに日々を過ごすのでは ないかと思います。もうサーシャが意地を張る必要はないですしね。 トゥールは結構平気でいちゃいちゃするタイプですが、サーシャは恥ずかしくてあまり人前ではそういうことは できなくて真っ赤になったりするのだろうなと思います。 |
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