第5章  闘病    

 アレフはローラ姫を抱いてマイラに戻り、かつて滞在していた宿へと駆け込む。

「宿へ入った瞬間、女将が驚いた。不審に思っただろうが、人命最優先と、すぐさま部屋へあげてくれ、俺を 追い出した。『あんた、あの子はなんなんだい?』俺は迷った。そのまま言えば、この村は大騒ぎになるだろう。 もし、その騒ぎを万が一、竜王に聞きつけられたら大変な事になる。そこまで考え、俺は、女将に結局こう言った。『あの娘は 山賊に監禁されていた、どこかのお嬢様らしい』と。その言葉に大体の嘘がなかったためか、女将は納得したようだった。 女将は取って返し、タオルを持って、部屋に入っていった。」(冒険の書 107P 第40行)

 そのあと、しばらくの空白があるはずだが、アレフはそこには触れていない。どこかへ行った描写もない事から、 アレフはおそらくその扉の前でひたすら待っていたのだと思われる。

「女将が出てきた。手にはどろどろのタオルを持っていた。おそらく姫の身体を拭いてくれたのだろう。 『今、栄養のある粥でも作ってくるよ。あんた見てやっておいておくれ。』俺は、 頷いた。礼を言い、俺はノックをした。」(冒険の書 108P 第1行目)

 アレフはここで女将に金をやって世話を頼む事が出来た。だが、アレフはそれを選ばず、何の疑問もなく 頷いている。ここに、アレフの大きな心の変化が見られるように、著者は思う。

「俺は、まだ恐ろしかった。あの、醜い身体をもう一度見るのかと思うと、俺は落ち着かなかった。 だが、俺自身も不思議に思っていた。あれほど嫌悪感を感じた身体を触れた、この腕を…俺は洗うことを 一度も考えなかった。」(冒険の書 108P 第5行目)

 この台詞からも、それはあきらかである。

「声がした。とぎれとぎれのか細い声だった。それは、確かにあの洞窟で聞いた声だった。俺は部屋へ入った。そこには あの時と同じ少女が同じようにベッドで寝ていた。彼女は同じように細く、同じように 弱っていた。当たり前だ。あれから半日とて、過ぎていないのだから。だが、俺は同じ人物だと、 一瞬判らなかった。少女は光り輝く蜂蜜色の髪を持ち、透き通るような白い肌を持っていたからだ。 …今から考えればそれは当然のことで、髪は汚れていただけで、最初からこの色だったのであろうし、 あの洞窟に閉じ込められていたなら、たとえ日焼けしていても 色などすっかり抜け落ちていただろう。だが、いまだみっともないほどやせ衰えていたとはいえ、 綺麗に洗われた姫は、別人のようだった。」(冒険の書 108P 第12行目)

 ここからも推測するに、ローラ姫は相当美しい容姿を持っていたことがわかる。
「世界に一つ咲く花は 陽に照らされて金の髪 閉じたまぶたをひらいたら そこに見えるはエメラルド  薔薇の頬持つその肌は 雪にも負けぬ白い色 ローラがひとたび微笑めば 空の色さえ輝いて その愛らしい唇は  小鳥と歌をさえずるよ」(歴史に残る吟遊詩 384P 第1行)のように世界で歌われている ローラの容姿はお世辞ではなかったと言えるだろう。

「姫はまだ起き上がることは出来ないようだったが、女将に面倒を見てもらい、人心地がついたのだろう。 か細い声で、俺に話し掛けてきた。熱があるようで、途切れ途切れのその声はかすれていた。 どうやら女将に水を飲ませてもらったようだが、それでもまだ 上手く声が出ないようだった。『助けてくだ…さって、あ…りがとうございます、・・・勇者…様。 …わたしは…ラルフ…16世の、娘…ローラ…。ラダ…トームのお城…へ 連れて…行って下さいませんか…?父も皆も、きっと心配して・・』 姫が言った言葉は真実だった。…その方がいいだろう。 こんな所にずっと置いておいてもただのお荷物だ。女を引っ掛ける事もできねえし、金ばっかかかる。 明日にでも城に送りつけさえすりゃ、俺は一躍ヒーローなんだ。わかっていた、判っていたが、俺は言葉をさえぎり、 首を振った。『貴方は今、とても弱っています、お分かりですね?。下手に動かすと危ないほどです。ここでしばらく静養しましょう。 せっかく助け出されたというのに、もし御身に何かあらば、王はそれこそ嘆かれるでしょうから。』 ローラはじっと俺をみつめたが、弱弱しく言葉を紡いだ。『勇者…様がそう、おっしゃる、なら… ご迷…惑、おか…けいたしますわ…』そう言って、微笑んで見せた。その顔は… あの洞窟で見たおぞましい顔と同じ顔だとは、俺はとても信じられなかった。」(冒険の書 109P 第25行)

 そうして、ローラは静養のため、マイラの村に逗留している。その間、アレフは一度も以前通った 女性の元へ通わず、ただひたすらローラの面倒と、金策に励んでいる。
 その間、アレフの行動を大体まとめると、こういうことになる。 『朝起きて朝食。その後お粥をもって姫の部屋へ行き、顔を吹いてやり、飯を食べさせる。 その後外へモンスターを倒しに行く。昼過ぎに戻って、姫の部屋で一緒に昼食を食べる。そのあと、姫の 体調がいい日には温泉に連れて行き、湯女をやとって温泉に入れてもらう。その後姫を部屋に運んで、 夕食の時間まで側についている。その後姫にご飯を食べさせ、アレフも夕食を食べて、明日に備えて寝る。』
 そこに、アレフ自身の娯楽は一切ない。酒はおろか、あれほど気に入っていた春売りの場所へも一度も 足を運んでいない。だが、一度アレフは村で、その春売りの女と遭遇している。

「すでに見慣れた顔がいた。俺の感想はそれだけだった。女は俺に言った。『あら、こっちにいたなら、どうして寄ってくれないの? アレフ、貴方がいないと寂しいのよ、私。また来て、サービスするから。』そういって、2本、指を立てる。 それは以前の金額に比べると、随分安かった。だが、俺はそんな気にはなれなかった。俺は首を振る。 女は俺に笑いかける。『宿屋で女を囲っているって噂だけど、貴方がそんな事をするとは思えないわ。 一度くらい、浮気したって判らないわよ、どうせ本気じゃないんでしょ?』俺は言った、そんなのではない、ただの 人命救助だと。女は俺に擦り寄ってきた。『ならいいじゃない?貴方だって休まなきゃやってられないでしょ? 今日だったら無料でもいいわ…貴方との夜…忘れられないから…』俺はぞっとした。かつてあれほど心地よく感じた 体が、むしろ忌まわしく思える。あの軽い体、骨のような細い腕…女の匂いがまったくしなかった、 あの闇の生き物・・・俺は女を突き飛ばした。…そして俺は宿屋へ走った。それは我ながらまったく 矛盾した行動だった。多分、俺はあの生き物が、もういないことを確認したかったんだろう。」(冒険の書 157P 第9行)

 以前マイラにいたアレフと同一人物とは思えない行動である。もちろん「飽きた」こともあるのだろうが、 それ以前にローラの病んだ様子はアレフにとってトラウマになっているようである。

「俺は、扉を開けた。小鳥のような声が聞こえる。『勇者様、お帰りなさいませ。』姫は身体を起こしていた。 子供の頃、ほころんでいく花を見たような、そんな不思議に嬉しい気分になる。少しずつであるが健康的な 姿を取り戻し、ふっくらしてきているのが他人事ながら、なぜか嬉しい。…そう、なぜかこの姫の 回復が、俺は自分のことのように嬉しいのだ。…それはもう、あれが見たくないからなのか。それとも あの嫌悪感に対する罪悪感から出るものなのか、俺にはわからない。だが、なんでかこの姫を見ると、 今まで感じたことがないほど、ほっとする事は確かだった。」(冒険の書 162P 第11行)

「6日目になると、姫はすでに熱も下がり、身体も大分楽になっているようだった。こけた頬も随分戻り、 ふらふらしていたが、自力で歩けるようになっていた。…俺はそこで改めて気がついた。この姫は 美しいのだと。それも人並はずれて。はっきり言えば俺が今までみた女の中で一番綺麗なのだ。俺は散々 ローラ姫の想像をしたが、その想像をはるかに越えていた。俺はいまさらながら驚いた。『勇者様? どうかなさいまして?』ぼんやりと見ていた姫は、俺をいたわるように話し掛けてきた。俺は笑って見せた。 …本当にどうかしている。もう、とっくに送り返してもいい、手間が かかるだけの姫を完治するまでは、と引き止めている自分が、自分で信じられない。」(冒険の書 185P 第25行)

 アレフははっきりと、自分の心の変化に気づき、いぶかしんでいる。だが、その理由に付いては、 自分でも気が付いていないようであった。だが、こう書いている。

「俺は、ただこの姫にもう二度とあんな想いはして欲しくないだけだった。この姫が、あんな哀れな思いをしないように、 あんな悲しみを、もう二度と受けないように。俺は同情していたのだと思う。そして、おそらく見下してたのだろう。 自分の故郷を奪った原因があのように惨めな思いをしている事で、俺の気が晴れたのだ。…そうだ、そうでなければ 説明がつかない。…これほどにあの姫を大切に扱う自分の気持ちが俺には理解できないのだから。」 (冒険の書 192P 第5行)


    第6章  運命    

 そうして、マイラにアレフがローラを保護してから9日、ローラの体調は回復し、夜にアレフはローラに明日 ラダトームに帰す事を約束している。

「俺の言葉に姫は頷いた。『ありがとう、ございます。』とさぞかし喜ぶだろうと思っていた俺は、少々 拍子抜けをしたが、姫はそれほどに喜んでいないようだった。なにか事情でもあるのだろうか。そうは思ったが、 それは俺の関知するところじゃない。俺は用意していたものを差し出した。『こちらを用意させていただきました。 粗末でしょうが、今の服装よりはマシなはずです。明日、お着替えになってください。』」(冒険の書 201P 第28行)

 ここでも、アレフの心境の変化がうかがえる。今まで何度も女性と相対しているアレフだが、金銭以外のものを 支払った事は、ただの一度たりとてなかったのだから。

「俺が差し出した箱の中には、ドレスと靴が入っている。おそらく姫が以前来ていたドレスよりは粗末なものだろうが、 ここまで来ていたドレスや、今着ている布の服よりは、マシなはずだった。どんなに苦労しても、これ以上のものが、 この場所、この時間で手に入らないのはいたし方のない事だった。」(冒険の書 201P 第29行)

 この言葉から、アレフはこの贈り物をするのにそれなりに苦労した事が伺える。そもそもマイラと言う田舎でドレスを 短期間で手に入れることは、すでに容易ではない事なのだから、それを思いつき、実行に移しただけで、アレフの以前から 持っていた「合理的考え」がこの時点で失われている事がわかる。ましてこの行動は「アレフの目標」のうち 「金」とは相反している。

「箱が開けられ、姫の手に、薄紅のドレスがあった。姫は嬉しそうに微笑む。『わざわざ、わたしのために…ありがとうございます。 そのお心遣い、感謝いたします…』その口調は、とても王族らしく、俺はなんとなく寂しくなった。そういえば 着ている服のせいだったのだろうか、それとも俺が世話をして、姫がそれをいつも素直に聞いていたせいだったのだろうか、 俺はすっかりこの女が姫だということを忘れていた気がした。この女は俺の言う事に従い、俺の話を笑って聞き、 いつも辛そうな顔を見せず、楽しそうにしていた。…でも、それも今日で終わりなのだ。…厄介で、面倒くさくて、 金食い虫で…考えればいい事など一つもなかったはずなのだが、なぜ俺はこの終わりを残念に思っていた。」(冒険の書 201P 第32行)

 その真意は、次に明らかになる。

「そんなことを考えていると、俺は衣擦れの音がする事に気が付いた。以前は物音一つにも敏感だった俺が随分と 鈍くなったもんだ。ここしばらくのんびりした生活をしていたせいかもしれない。そう考えてその音の方を見ると、 その音は目の前からしていた。俺は、ギョッとして、次に眼をそらした。姫が、服を脱いでいたのだ。俺は叫んだ。『 そのドレスは明日のものです、着てみたいのならば、退席させて戴きますゆえ、一声かけていただきませんと!』だが、姫の 手は止まらなかった。おそらく、ドレスに着替えているのだろうか。俺は目をそらしていたので 俺にはわからない。俺はゆっくりとあとずさりはじめた。姫は言った。『お待ちください!』 その言葉に、俺の足が止まる。ゆっくりと姫に向けると、姫は素肌にシーツを巻いていた。その顔は赤く、眼は潤んでいるようで、 この期に及んで、俺はまだ体調が悪いのかと、心配をした。だが、姫は言った。『…ローラは勇者様を、 お慕いしております…』そう頬を染めていた。俺は、凍ったように身体をとめた。」(冒険の書 201P 第34行)

「『あのように醜いわたしに打算抜きあれほど良くして下さって…話していても、とても楽しゅうございましたわ。… 勇者様がわたしをどんな風に思っていらっしゃったか、わかっているつもりですわ。それでも、こんな風に優しくしていただいた事、 ローラは嬉しく…でも、わたしは、何も持っておりませんの。ローラ個人が、勇者様に差し上げる事が できるものは、たった一つですわ…勇者様には逆にご迷惑な事かも、しれませんけれど…』俺は驚いた。姫が俺を慕っていた事ではない。 いいや、それも驚いた事だが、それ以上に、姫が知っていた事に、俺は驚いた。 俺があの姫を忌まわしく思い、その罪悪感を埋めるために優しくしていた事も、全て見通していたのだ。 それを知っていてなお、俺にこの姫は微笑みかけ、愛情をくれたのだ。俺の今のこの気持ちは、 ほとんど崇拝に近かった。だからこそ、俺は近寄る事も出来ず、遠ざかることも出来なかった。」(冒険の書  201P 第40行)

 ここでアレフは初めてローラの想いに気がつき、困惑をしている。また、伝説の勇者の昔話の一説に、
「勇者は姫を女神のように崇め、姫は勇者をただ一人の騎士だと誓った。」(リムルダーム地方の昔話より)
 という一説があるが、先ほどの記述はこの一説と似ているのではないかと、著者は考える。
 ローラ姫の告白へのアレフの返答は、以下のとおりだった。

「俺は、ほとんど息絶え絶えに言葉を搾り出した。『お気持ちはとても嬉しく思います。ですが姫は、思い違いをなさっているように 思います。姫様は、ただあのおつらい境遇から助け出された事に、感謝されているだけに過ぎません。俺のような人間に… そんな事をしてはいけません。』そう言って、俺はため息をついた。全く自分の言葉にあきれ果てた。このまま いただいてしまえばいいのだ。俺はそれが望みだったではないか。それでも俺は、姫の身体に手を伸ばす事が できなかった。俺は、本当にどうかしている。」(冒険の書 202P 第2行)

 それに対しての、ローラ姫の返答が、興味深い。

「ローラは首を振る。『いいえ、貴方が助け出してくださったからこそ、ローラは貴方様を勇者様だと信じられましたわ。 ローラは、貴方だからこそ、お慕いしております。』俺は、むきになった。この姫は、俺の本質も 知らぬくせに、愛を説くのだろうか。『貴方は、俺の本性を知らない。俺は汚い、貴方の期待に応じられる人間ではない。 …この事は、忘れましょう。貴方は、俺のような人を、信じない方がいい。』その、信頼の眼が、俺には痛かった。 俺は、きっと助け出したあの時の姫よりも、汚れた存在なのだ。この姫に…触れられる立場ではない。特に 城に帰り、真に姫となったローラ姫は、俺とは縁遠くなるのだ。だが、俺は姫を甘く見ていた。 『いいえ、ローラは、今ため息をつき、汚さも清さもわきまえた貴方でなくては 愛しませんでした。貴方は自分の手で、足で全てを探し掴む方。自分の中で憂鬱を治め 、自分の糧に出来る方。そういう方だから、ローラは貴方を信じますし、愛したのです。』」(冒険の書 203P 第10行)

「風に吹かれては ただblueなため息さ どうかしてる そんな君を 私 信じられる」(ペルポイ地方に伝わる 伝承歌の一節)
 これはかつて、地下都市があったとされるペルポイ地方に伝わる、市井の歌の一節である。一見ただの 甘い恋の歌だと受け取られているが、何人もの学者が竜の勇者との関連性に付いて研究している。
 そして、著者はこの一節に、上の文章との関連性があると考える。つまりこの伝承歌は、ローラ姫が アレフに送った歌が巡り伝わったのではないかと、推測する。

「俺が、この姫を汚していいわけがない。触れることすら、許されないと思うのに、もう姫から眼を離せなかった。 『ローラがお嫌いだというのでしたら、今宵の事はお忘れくださいませ。…ですが、今宵は貴方と触れ合う、最後の 機会です…ローラのことを、どうお想いなのか、どうぞ、おっしゃってくださいませ…』 声が、甘かった。 肌は白く、月明かりに照らされていた。愛しかった。触れたかった。…側に近づきたかった。頭の中で、俺が 囁く。”近づいてはいけない”と。それでも俺は足を運んだ。ベッドへと、ゆっくり。自然に声が出た。…生まれてこの方、 俺が一度も発した事のない言葉を。『愛しております…姫…』姫は眼を 潤ませた。『ローラと、お呼びくださいませ…』そっと、俺は ローラの顔に触れた。例えようもない罪悪感と、そして幸福感が押し寄せた。『ローラ…』俺はゆっくりと ローラを抱きしめる。ローラは嬉しそうに言った。『お名前を、教えてくださいませんか?勇者様…』そうか、 俺は自分の名すらも、この姫に告げた事がなかったのか。金や名誉が目当てだと言いながら、我ながら抜けている。そう、 自嘲気味に笑う。…そうだ、俺は最初にあの醜い姿を見てから…そして、 その気高き魂を知ってから…ずっとこの姫に魂を抜かれていたのだ。」(冒険の書 203P 第20行)

 そうして、この二人は一夜に及んでいる。その感想を、アレフはこう記している。

「肌は信じられないほどすべらかで、白かった。心地よい感覚が体全てに染み渡っていく。 触れるたびに自分の心に愛おしさがこみ上げてくるのが 判る。髪は水のように流れ、いつまでも撫でていたい気分にさせてくれた。俺はローラを抱きしめた。その身体は 以前抱きあげた時とは違い、ちゃんと付くべき所に肉がついていた。そうやって見ると、ローラは標準以上の 体の持ち主で、特に胸の豊満さは見事なものだった。それでいて、腰はほっそりと細い。元からなのか、 この度の経験のせいなのかは俺は知らないが目を見張ると、ローラは恥ずかしそうに頬を染めた。ゆっくりと シーツを外していく。ここまで来て、俺はまだ躊躇していた。本当に、俺が汚してもいいのだろうか? 口に出さない声が、聞こえたのだろう、ローラはにこりと笑う。『…私は思います。愛する方と愛し合う事で 人は、自らの心を信じられるようになるのかも知れないと…』それを聞いて、俺は確信できた。この姫の清さは、むしろ自分の 汚れを中和してくれるのではないかと。…あの洞窟からローラを救い出した、そのときから、ずっと俺は むしろ、その事を期待していたのかもしれない。ゆっくりと、 ローラをシーツの褥に横たえさせた。そして、俺は初めて、心から目の前の女と、一つになった。」(冒険の書 203P  第30行)
 これまで、冒険の書には他の様々な女性との契りについて書かれているが、このようにみずみずしい、愛に満ちた 文章ははじめて登場する。事実、アレフは、

「それは、まるで初めて女を抱いた時のような気分だった。事実、こんな気持ちで女を抱いたのは、初めてだった。欲を満たす為では なく、心を満たす為に。抱くたびに、愛おしさが募り、ますますそれを求めたくなる。 ローラは処女で、王家の姫で、抱くには明らかにマイナス要因がありすぎる、そんな事はわかっている。…そして、 これを王家に知られたら、最悪俺は首を切られるだろう。だが、俺は仕方がないと思っている。この姫の魅力の前で 俺は逆らう事が、できなかったのだから。」(冒険の書 205P 第3行)

 と記されている。すでに、この時点でこの二人は結ばれ、心をただ一人へと定めた事が伺える。

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