第3章  伝説の旅路   

 アレフはこのラダトームの町で2泊している。だが、勇者としての期待に居心地の悪さを感じ、逃げるように 旅立っている。そしてその後の行動を、アレフはこう決定している。

「むやみにとんずらするのは良くねえ。下手すりゃ捕まっちまう。 うまいこと、できるだけこの町から離れさえすれば、何とかなるはずだ。 よし、できるだけ、竜王の城から離れよう。どーせ近づけやしねえんだし。誰かが北に町があるとか言っていた。 とりあえずローラ姫とやらを探す振りしてそっちに向かおう。」(冒険の書 80P 第35行)

 はっきりいって、アレフにはこの時点で、やる気はまったくと言っていいほどない。だが、

「ローラ姫か…なんか噂じゃ美人っぽいな。やっぱ男だったら一度はやりてえよな、お姫様と。」(冒険の書 68 P 第40行)

 という風に、興味は示しているようだ。
 そうして、アレフは結果的にガライの町を目指している。それについての理由は、

「とにかく探しているふりでもしておこう。それでもそんなに路銀がねえからな、ガライとやらで手堅く稼ぐぜ。俺って 結構働き者だよなあ…」(冒険の書 69P 第3行)

 と記している。アレフの伝説はここから始まるのである。

 アレフはガライの町につき、ガライの墓から竪琴を取り出している。これは幼い子供でも知っている 周知の事実だろう。なぜ現実主義のアレフがこのような行動を取ったかというと、

「酒場に入って噂を聞いた。この町を一人の男がねえ…じゃあ、墓とやらの供えもんは結構なもんだろうな。まあ、 入っていいならちょいと寄ってみるか。そろそろ路銀も尽きそうだしな。」(冒険の書 78P 第8行)

「なにい?この町にまでロトの勇者の情報が流れてんのか?結構侮れねえな、あの王さん。 評判なんざどうでもいいが、どうやらこの町でものんびりはできなさそうだな。ま、墓にはモンスターも出るらしいし、 ちょっと盗掘…いやいや冒険すりゃ勇者様らしいかも知れねえな…そうなったらこっちのもんだぜ。」( 冒険の書 79P 49行)

 この二つの集約する。ここで著者は問いたい。もし、竜の勇者が世間で言われているように 騎士道精神溢れた勇者だったのならば、なぜガライの墓へ入り、そこから遺品を持ち出しているのだろうか? 「授けられた」「運命だった」などといわれているが、それは現実的には不可解な事である。確かに 我々にとって見れば、竜の勇者の伝説は神話と同じほど神々しいものであるが、そこが現実だった事に 竜の勇者の価値はあるのだから。しかしこの問題は、この冒険の書が本物であった事の証明とは 余り関わりのない物であるので、これはあくまで補足論とする。
 そこからアレフは東に旅立っている。これはまたラダトームに戻るわけには行かなかった以上、仕方がない選択とも 言える。また、

「東に姫さんを攫ったって言うしな。まあ、とりあえずそっちにいきゃ怪しまれるこた―ねーだろ。」(冒険の書 89P  第26行)

 という計画もあったからである。
 そこからの長旅は、アレフにとっても少々辛い物があったらしく、冒険の書でも様々な苦しみが書かれているが、 今回の件には関わりがないので、ここでは割愛する。だが、

「くそ、なんだっていきなりこんなにモンスターが沸いてでやがんだよ!なんか恨みでもあんのか?!」(冒険の書  90P 第15行)

 と毒づきながらも、一度も「弱音」が書かれていないのは、著者にはとても勇者らしく感じられる。

 アレフはこの後、マイラにつき、10日ほど滞在している。旅路の傷を癒す為でもあるが、一番の 理由は、

「さすが温泉町ってか?いーい女がいるもんだ。まあ金取られちまうけどその元は 取れてるし、床上手だし、美人でスタイルもサービスもいい。たまんねえなー。酒もうめえし、 結構安い。いい町だぜ。」(冒険の書 93P 第16行)

 つまり、まあ、お気に入りの春売りにお金を注ぎ込んでいたのである。どうやら行動を見る限り、 10日間毎日通っていたようである。
 なぜアレフがこの地に安住しなかったかは定かではない。 ロトの伝説は残ってはいたが、ラダトームやガライのように、村人が希望としてアレフを注目していたという 描写はなされていない。ただ、アレフは10日間モンスターを倒しお金を 稼ぎ、毎日女の元へ通い満足して、その後酒場へ向かうのという生活をして いたようなのである。もっとも前述を見る限り、春売りの女を気に入った理由は けして愛などではなく、商売の需要と供給として、そのサービスに満足していたようであるが。 その後、アレフはただ、こう書き残している。

「なんか飽きた。次は南だ。洞窟を抜ければ、リムルダールがあるらしい。俺は今度はそっちに向かう。」( 冒険の書 95P 第1行)

 と、唐突に思い立っている。ともかく、そこからアレフは南にある海を抜ける洞くつへと向かう事になる。

 そこから、アレフは南下して、無事に洞窟へと辿り着いている。たいまつをつけながら、暗い洞窟を歩いている途中、 アレフは横道を発見している。

「なんだ?ここ、ただの通路じゃねえのか?なんで曲がり道があんだ?そうして俺はたいまつで道を照らすと、 そこだけ妙ーに、作りが雑だった。…もしかして、これモンスターが作ったとかか?」(冒険の書 97P 第11行)

「そういや、ローラ姫とやらが洞窟に捕らえられてるって言ってたな。まあ、とりあえず行ってみっか。 上手くいきゃ王さんからなんかもらえっし、ローラ姫とも一発できるかもしんねえしな。」(冒険の書 97P 第18行)

 という、野望を抱き、アレフはその道を曲がり、先へと進んでいる。このささやかな選択が、 アレフを勇者たらしめる、最後の選択肢だったと著者は考える。
 そうして、アレフは門番のドラゴンを倒している。そのことに付いてアレフは、

「まじかよ?まあ、竜王だってそう馬鹿じゃねえよな…鬼のような強さだったぜ…死ぬかと思った… でもまあ、終わりよけりゃ全て良しだぜ。この分の報酬も王さんに払ってもらおう。 じゃあ、美人の姫さんを拝みに行くぜ。」(冒険の書 105P 第42行)

 と、語っている。そうして、ここからのアレフは、ガラリと文調を変えている。これはおそらくローラ姫との 出会いにより、アレフの心に大きな変化が現れたのだと思われる。


    第4章  出会い   

「部屋の中の光は自分があけた扉の向こうから漏れるもののみで、薄暗く、空気は湿っていた。歩くたびに 埃が舞い上がり、湿り気が身体にまとわりつく。扉が閉まると、そこは真の闇になった。俺はたいまつを つけた。部屋には醜悪な臓物が盛られ、蛆がたかっている。端にあるのはつぼだろうか。どうやら トイレがわりだったのだろうか、嫌なにおいがもれる。横に乾いた皿がある。おそらくそこには 水が入っていたのだろうが、すでに埃が積もっていた。とても洗われた様子はない。」(冒険の書 106P 第1行)

 そこには悪態もなく、ただ淡々と部屋の情景が語られている。どうやらアレフは相当の ショックだったらしい。そしてローラ姫は恐ろしいほどの待遇で閉じ込められていたらしい事がわかる。
 一般論として、竜王がローラ姫を攫った理由はローラ姫を嫁に迎える為とされているが、もしそうならば、 ローラ姫はあのような洞窟ではなく、竜王の城にいるのが自然ではないだろうか。著者が推論する所は、 おそらくローラ姫は光の玉を奪ったあとラダトームが、竜王の城へ軍勢で攻めてこさせないための人質だったのではないだろうか。 ゆえに、ローラ姫は竜王にとって「生きてさえいればよい」存在であり、それ以上の関心はなく手下に世話を任せたのであろう。 そして冒険の書に書かれている待遇。おそらくモンスターは自らの基準に照らし合わせ、 かなり良い待遇で遇したつもりだったのではないかと考える。モンスターにとって臓物はご馳走であるし、 換気や光は必要ないし、時に不快に感じる事すらあるという。
 一部のモンスターを除き、水も余り必要としないのだから、モンスターがローラ姫をけっして虐待していたのではないと 言えるのではないだろうか。それはそのあとの冒険の書の描写からもわかる。 モンスターはローラ姫に(粗末とはいえ)ベッドを用意しているのだから。

「部屋の中にあったのは、それの他には粗末なベッドだけだった。汚い毛布が申し訳程度に置かれている。 どんな田舎の宿屋でも置かれていないような、汚い毛布で、毛玉が浮き出ている。そうしてそこに寝ていたのは 、薄汚い物体だった。元は赤金色だったのであろう髪が、ふけやほこりにまみれている。その髪には 櫛を通した様子もなく、からまりを見せて、身体にまきついている。服は豪華な、いや元々は豪華だった、と言ったほうが 正しいだろうドレスだった。既に泥とほこりにまみれ、光沢はない。宝石や美しいレースがあったところだけむしりとられていた。 色は、元々は美しい黄色だったのだろうが、今となっては色あせと汚れで、茶色に見える。 ドレスの作り自体が立派な為、逆に哀れと滑稽さを誘う有様だった。靴は履いていなかった。ベッドのあたりにもない。 どうやらモンスターに取られたのだろうか。」(冒険の書 106P 第7行)

 ここまでいて、アレフはあからさまにローラ本人の描写を避けている。この冒険の書がその場で書かれたわけでは ないだろうから、のちに書き写されたのだと思う。この陰惨な風景を先に出してまで、ローラの 状態は思い起こして書くのを恐れるほどすさまじい有様だったのが予想できる。それでも、アレフは筆をとって続きを書いている。

「女が寝ていた。おそらくローラ姫だろう。身体は捕まってから一度も洗われていないようで、ほこりと汚れと 垢にまみれていた。顔も、腕も、足もおそらくドレスの中の身体も人間とは思えないほど痩せ細っていた。これほど 湿気に溢れた場所だというのに、肌は乾ききっているように思える。それでいて表面にはドロドロとした 何かがこびりついている。もはや死んでいないのが不思議だとすら思えた。いや、もし死んでいたのなら 、これほど俺の身体は震えはしなかっただろう。俺がたいまつをつけると、女はおそらく身体を動かすのが 辛いのだろう、ぼんやりとゆっくりとこちらをむいた。健康な状態なら、おそらくものすごく美しいかったであろう女は、 むしろその元あった美貌のためにむしろそら恐ろしく、その様子はまるで悪霊かゾンビのようだった。」 (冒険の書 106P 第12行)

 その後もアレフの告白は続く。冷静に、あまりにも現実に忠実に、この冒険の書は書かれている。そこに 夢も幻想もない、容赦ない描写だ。アレフの現実主義が、ここにも現れている。

「最初に感じたのは、嫌悪感だった。見たくもない、触りたくもないゴミや死体を見るよりも恐ろしいぞっとした、 悪寒が走る感覚だった。女はこっちをみて、虚ろな眼を開く。やせ細った顔の中、その目だけが爛々と翠色に 輝き、俺は逃げ出したくなった。もし、これが死体だったら、俺はこれほど嫌悪感を感じたりはしなかった。 死は日常に転がっているのだ。たとえそれが昨日まで仲良く共に飯を食った仲間でも、俺は悲しみすら、 感じた事がほとんどなかったのだから。いっそ、死んでいて欲しかった。だが、 姫は一言つぶやいた。『ああ…』この一言は、未だに俺の耳にこびりついて、こすっても こすっても消えない。それは人間の声ではなかった。かすれた声。確かに女の声なのに なぜか妙に低い。おそらく姫はこの洞窟に来て、うめき声と泣き声と叫び声以外、声を出す事がなかったのだろう。俺は あとずさるのを抑えるのがやっとだった。」(冒険の書 106P 第19行)

 そう描写しているが、このあとこの声を聞いて、アレフの心に変化が生まれている。

「次に感じたのは、怒りと罪悪感だった。この、かすれたたった一言に、どれほどの想いがこめられてるのだろう。 その重みは、おそらく金より重いのだ。俺は怒った。ローラ姫を攫った竜王も、こんな所に閉じ込めたモンスター達も、 今までこの姫を助けられなかった兵士達も…この俺も。…おれがあんな所で遊び呆けてふらふら している間、この姫はどれほどの苦痛を味わったのだろうか?もっと早く来ていれば、 もっと早くこの苦痛から解放できたのに。罪悪感が胸をよぎる。俺が感じた、いいや、 ずっと感じているこの嫌悪感が忌まわしい。俺がこんな風にこの姫を嫌がる権利は、俺にはないというのに。」(冒険の書  106P 第28行)

 初めて二人が会話を交わす描写はここである。

「姫は、ゆっくりと重々しく口を開く。息も絶え絶えだった。『たすけ…だしてくださる方が…まだ、いただなんて… …しんじ、られません…わ…』その言葉は、この姫が死ぬ覚悟をしていた事をさした。俺は近くまで駆け寄った。 『あ…りが、とう…ござ…います…』その吐息が熱かった。どうやら高熱があるようだった。俺はなおも口を開こうとする 姫を制した。姫を抱き上げようと、ベッドまで歩いたが、俺の中の嫌悪感が消えない。だが、この姫に罪はないのだ。 もし、俺がためらっている事がわかったら、この姫は、どれほど傷つくだろう。マントを、そっと姫の 身体へかけた。姫はこの身体を人にさらすのは嫌だろうと…そしてなにより俺自身の嫌悪感を少しでも 抑える為だった。俺はそっと姫の背中と腰に手を差し入れ、マントで包みながら 姫を持ち上げた。…たしかに、その身体は驚くほど熱かった。だが、俺が本当に驚いたのはそのことじゃない。 軽かったのだ、信じられないほど。そして、身体に肉がまったくなく、女性という感じすらない。ただ、そこには皮を かぶった骨があるだけだった。俺は、こういうのは精一杯だった。『もう、大丈夫です、姫。何も 心配はいりません。』その声が、涙声にならなかったのが奇跡だろうと思えるほど、俺の声は震えていた。 それだけ聞くと、姫は気絶した。意識がないにもかかわらず、全く重みを感じなかった。」 (冒険の書 106P 第31行)

 どうやらローラ姫はほとんど死ぬ直前にアレフに助け出されたと推測される。
 その後の行動を、アレフはこう定めた。

「急がなくてはならないと感じた。このままにしていては、この姫は死んでしまうだろう。俺は少し考えて、 マイラにこの姫を運ぶ事にした。このまま城へ運んでいたら、死んでしまうかもしれない。 それよりはマイラで身体を癒したほうがいいだろうし、姫もこの姿を余り人にさらしたくないだろう、俺はそう考えた。」 (冒険の書 107P 第8行)


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