「よい天候に恵まれたな。・・・さぁ!皆の者!!我が愛する娘、イェスミーナの生誕を祈って!!!」
 デルコンダル王の言葉に合わせて、人々がいっせいに杯を交わす。
 誕生祭は、今日が本番。城の酒蔵を空にする勢いで酒が振舞われているが、おそらくこれもいつものこのなのだろう、 妙に手馴れた雰囲気だった。
 三人はそのお酒に手をつけず、決戦の時を待つ。
「…ルーン、お前今日も香水つけてるのか?」
 近くによると、それだけで薔薇の匂いを感じる。
「付けすぎじゃなくて?香水と言うのは本人の体臭を際立たせるためにつけるものでしてよ?」
「いや、そういう問題じゃなくてだな。そんな匂い漂わせてたら奇襲もできねーじゃねーか。」
「大丈夫だよー。キラータイガーの鼻は僕たちよりいいもん。香水つけてなくったって一緒だよー。」
 にっこりと笑うルーン。それを見て、レオンはリィンの耳元にささやいた。
「なぁ、あいつが変になったのって香水を付け始めてからか?」
「…そういえば…そうかも知れませんわね。」
 二人は頭をつき合わせてうなる。
「…あの香水が呪われてたとか…そういうことはあるのか?」
「そんな気配はしませんでしたけれど…あとで調べてみた方がよろしいですわね。」
 リィンはそう締めくくった時だった。
「では、皆の者!聞いておろう!伝説の勇者の血筋の者が、我が前で戦いを献上すると!!」
 一斉に歓声があがる。
「前に出るがよい!戦士たちよ!!」
 仰々しい声に、三人は設えられた広場へと足を運ぶ。歓声がよりいっそう大きくなった。 その歓声に混じり「殺せ」「死ね」などといった言葉が聞こえると、三人はうんざりとする。
「…なんだか複雑だな。」
「命のやりとりですのにね。」
 くしくも、三人は格闘場の獣になったのだ。…たとえ死んでも、それは娯楽に過ぎない。
「では、檻を!!」
 見ると向こう側に、うなるキラータイガーが見える。それは大きく、気迫に満ちていた。
 三人は、いつものように戦闘姿勢に入る。
 ガラガラと檻が開くと同時に、キラータイガーが三人に飛び掛った。

 鋭い爪が、レオンの側を掠めた。
「…いきなりだな…」
 数多くのモンスターと戦ってきたが、相手の様子を見ることもなく、躊躇なしに 襲ってくるのはよほど下級のモンスターやそもそも知性がないかだが、キラータイガーが そのどちらとも思えない。
 ルーンがキラータイガーに向かう。横から掠めるように剣を薙ぐ。…その剣は、やすやすと キラータイガーに届いた。
「バギマ!!」
 リィンの呪文が、向かってくるキラータイガーの顔を切り裂く。だが、まったく意に介さずキラータイガーは リィンに飛び掛った。
 レオンは、その横っ腹を蹴り飛ばす。吹っ飛んだキラータイガーは着地し、こちらをにらんで唸った。
「…様子がおかしいですわ。まるで操られているようですもの。」
 ちろりと横を見ると、デルコンダル王は嬉しそうに三人の戦う様を見ていた。
「…敵前逃亡しないようにか?」
「ですわね。もし縮こまってしまったら面白くないと思ったのでしょう。」
 ルーンは手数の多さでキラータイガーを裁きながらギラの呪文を唱えた。炎がキラータイガーの 毛皮を焼く。だが、キラータイガーは炎すら恐れず、そのまま飛び掛ってくる。それをルーンはしゃがんで 避けた。キラータイガーは塀にぶつかった。
「違うよ、きっとお腹が空いてるんだと思う。毛並みがね、乾いてるんだ。きっと 何日も何も食べてないんだ。」
 ルーンの言葉に、もう一度キラータイガーを見た。その瞳はおそらく何も見えてない。 ただ、生きるためにそこにいる。
「…閉じ込められ、餌も与えられないでただひたすらそこにいたのですわね。」
 リィンがしんみりと言う。おそらく犬だった頃を思い出しているのだろう。
「生きるために狩ることもできなかったのか。…あいつ何考えてやがる!!」
「…きっと王様にとっては僕たちも同じなんだろうね。」
 ルーンの言葉に、二人が燃え上がった。
「っくっそ!とっとと終わらせてやらぁ!!ロトの末裔の戦いを見てやがれ!!」
 改めて剣を握りなおし、キラータイガーに走る。その横から、ルーンの炎とリィンの風が巻き起こる。
 そのまま飛び上がり、風に切られ火に巻かれているキラータイガーを見下ろす。一気に剣を振り下ろした。

 キラータイガーはそのままばたりと倒れた。歓声があふれた。
「見事だ!!実に実に素晴らしい戦いだった。」
 そのあふれる笑顔とは裏腹に、おそらく多少悔しがっていることを想像して、レオンはすこし溜飲を 下げる。
「では褒美だ!!三人とも、望むものを言うがいい!!」
 その言葉に、三人は目を見合わせる。
「では、デルコンダル王、わたくしに紋章をお授けくださいませ。」
 にっこりと笑って言ったリィンの言葉に、デルコンダル王は手を上げ、紋章を持ってこさせる。
「リィン姫、私の正妃になる気はないか?」
「未練ですわね、デルコンダル王。わたくしには果たすべきものがありますわ。」
 それだけ言って、リィンは紋章を受け取り、下がった。次にルーンがぴょこんと飛び出す。
「僕は、樽一杯のミルクと生肉!!」
 その言葉に、デルコンダル王の口がぽっかりと開いた。
「…そんなものをどうするのだ?」
「駄目ですか?」
「いや、かまわぬ。誰か!用意するがいい!!」
 その言葉を聞いて、ルーンはキラータイガーに近づく。そして、回復呪文をかけた。レオンの剣のはらで 叩かれたキラータイガーは脳震盪を起こしていたが、死んではいなかった。
「何をするのだ?・・・どうして殺さなかった?」
 兵士が持ってきた二つの樽を、ルーンはキラータイガーの前に転がした。目を覚ましたキラータイガーは それを必死にむさぼった。それを見ながらルーンは言う。
「…自分の意思でない戦いなんて、無意味です、王様。もう望みは使ってしまいましたけど、できれば 野に帰してください。」
「…そしてまた襲い掛かってこられたらどうするのだ?」
「その時は戦います。…でも、それはこの子が意思で戦ってきた時です。」
 食べ終わったキラータイガーは満足したように横になって眠り始めた。その様子はどこかほほえましい とさえ思える。
 そして、レオンが歩み出て、ひざまずく。うやうやしく礼をしてみせる。
「王様、私の願いもかなえてくださるでしょうか?」
「おお、何でも言うが良い!」
「その言葉に、偽りはございませんか?」
「王の言葉に二言は許されぬわ!!」
「そうですか。感謝します。」
 言うが早いか、レオンは立ち上がり、王の眼前へと迫って言った。
「一発殴らせろ。」
 そして拳が、王の頬に当たった。





 戦闘シーン終了ー!…あんまりうまくまとまらなかったですね、すみません。
 三つの願いはずっと考えていたことでした。実際キラータイガーもモンスターなわけで、 あれなんですが、人に飼われているものを殺すのはなんとなく忍びなかったので… 理不尽なことを言う王様を一発殴りたい!!と思ったことは一度や二度ではないです。 デルコンダル王ではありませんでしたが…
 次回から急展開する予定。お楽しみに…

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