騒ぎ疲れた早朝の町を抜け、三人はローラの門へと向かった。
 まだ朝早いためか、 人通りはないようだったが、やがて自由になった人々が明るい顔で行きかうようになるはずだった。
 サマルトリア側に抜けると、見張りの兵士が三人の顔を見てひざまずいた。
「おかえりなさいませ、ルーンバルト王子様、レオンクルス王子様、リィンディア王女様。」
「見張っててくれたんだねー、ありがとう。」
「恐れながらルーンバルト王子に、我が王からの伝言を授かっております。」
「父様からの伝言?言ってくれるかな?」
「はい、サマルトリア王は”王妃とセラフィナ様と三人で、ローレシアにて待つ”と。」
 三人は揃って目を丸くした。
「え?父様と母様とセラがローレシアにいるの?どうして?」
「申し訳在りませんが、そこまでは存じません。」
「他には?」
「”リィンディア様を必ずお連れするように”と。」
「リィンを?…父様は、急いでた?」
 ルーンの言葉に、兵士は首を振る。
「いえ、そんなご様子は…」
 ルーンはしばらく考え込んで、しゃがみこんだ。兵士と同じ目線になる。
「ルーンバルト様!そんな!」
「ねえ、父様の言葉をそのまま僕に伝えてくれないかな?ね?」
「は…あの…『わしは先に王妃とセラの三人でローレシアに行っとくから、寄り道せんで来いよ、と伝えてくれ。 ああ、リィンディア王女を忘れんでつれてくるように頼むよ』と…」
「…それ、王族の伝言じゃねーだろ…」
「サマルトリア王族の会話って、いつもあんな風に軽いのかしら…」
 脱力した二人に対して、ルーンは顔を明るくして立ち上がる。
「うん、判った、ありがとう。ご苦労様!!じゃあ、レオン、リィン、行こう!」
 そう言ってローラの門を出て行くルーンの後を、二人は追った。

「…サマルトリア王の言葉を聞いて、ルーンは何かわかりましたの?」
「わからないけど、緊急事態じゃないってことはわかったよ。だから安心して、ローレシアに行こうよ。ね?」
「まぁ…あれは確かに緊急事態じゃないだろうけどよ…」
 レオンは頭を少し頭を抱えた。リィンも少し頭を抑えていたが、立ち直るように顔をあげる。
「ですが、わたくしをローレシアに呼んでどうするつもりなのでしょう…?それにサマルトリア王もいらっしゃるなんて…」
「どうしたんだろうねー。皆でお出迎えしてくれるのかなぁ?」
「親父がなんかたくらんでそうだよな…」
 ルーンの笑顔とは対照的に、暗い顔をしてレオンがつぶやく。
「たくらんでるってー?」
「しらねーけどよ…ろくなことじゃねーだろ。だいたいどんなにサマルトリア王がのんきだろうと、突然他の国に許可も なく行くような人間じゃ…ねーと…」
 最後のほうは自信がなくなり、声が小さくなった。
「うん、父様もさすがにしないと思うよ?怒られちゃうもん。母様だって止めると思うしー」
「とはいえ、さすがに暗殺などではないでしょうし、とりあえず急ぎましょう?考えてもそれこそわかりませんことですわよ?」
 リィンの言葉に頷いて、三人は少し足を速めた。


 ローレシアの城下町も、相変わらずのお祭騒ぎだった。にぎやかに行き来する町の人間にまぎれ、三人は城下町に入り込み、 目立たないように城に向かった。
「…おかしいな?」
「妙に、静かですわね…?」
 場内は不思議なほどに静まり返っていた。誰もいないわけではないようで、奥の方では誰かが 作業している音がする。だが、いつもなら廊下を行きかっている召使いも、兵士もいない。
「変だねー、父様も母様もセラもいないし…」
「とにかく、上に言ってみるか。親父が何かたくらんでるなら、謁見の間にいるはずだ。」
「そうですわね。」
 緊張感を持って、三人は謁見の間に続く階段をあがる。そこには確かに大勢の人の気配がした。
 レオンが扉に手をかける。重い扉をなんなく開けた。


「おかえりなさいませ!!レオンクルス様!!」
「貴方達こそ真の勇者です!!」
 祭事用のぴかぴかの鎧をまとった兵士たち。そしていつもなら正装した王妃に、正装したサマルトリア王と王妃。セラはどうやらこの場には いないようだった。
 なによりも最高の正装を身にまとった自分の親に、レオンは目を見張った。頭にかぶっているのは、いつもならば 宝物庫の奥にしまいこまれている王冠だった。
「…何事だ?」
「王子レオンクルスよ、さすが我が息子!!勇者ロトの血を引きしもの!!そなたのような息子を持ってわしは 誇らしいぞ!!本当に良くやった!!」
 満面の笑みでいう王の言葉に、レオンの全身に鳥肌が立った。
「ありがたき幸せです…」
 ひきつった声でレオンはそれだけをいうのが精一杯だった。
 王はこちらに歩み寄り、レオンの手を握る。
「どうやらそろそろ、新しい時代が来るようじゃな…レオンクルスよ!!今こそお前に王位を譲ろうぞ!!」
「はぁ?!」
 余りにも唐突な展開に、レオンは小声で叫んだ。そのとたん、王が痛いほどレオンの手を握る。
「ひきうけてくれるな?」
「…どういうことだ?」
「どういうこともこういうこともあるか。この記念すべき時、偉業をなしとげた息子に王位を譲りたいと 思うことがそんなにおかしいのか?」
「おかしいに決まってるだろ、何をたくらんでやがる。」
 人々が見守る中、手を力いっぱい握り合っている二人は、あまりにも怪しかった。
「たくらんでいるとは失敬な。そろそろ年だしな、愛息子に王位を譲ることのどこがおかしい?まぁ、まだまだ 未熟だろうから、この父が手取り足取り力になってやることは当然だがな。」
 そこまで言われて、ようやく父親の意図が飲み込めた。自分を王に据え、国民の人気を集めると共に、裏で 権力を握ろうということだろう。
 ついでに婚約者のリィンの事を考えれば、合法的にムーンブルクはローレシアの土地となりうる。
 だからこそ人を集め、既成事実を作り、断りにくい状態に持っていこうとしたのだろう。
 ”俺は、操られたりしねぇ!!”
 そう叫ぼうとして、レオンは口を閉じた。


 約束があった。人を人として扱うために。
 約束があった。…もう誰も殺さないと。
 約束が、あった。リィンを守ると。
 大事な約束たち。それは、レオンの中で、生き生きとした約束たち。
 そのためには、王になるものいいかもしれない。そう思った。

 かつて、アレフはこういった。
 ”自分の治める国があるのなら、それは自分自身でみつけたいのです”と
 だけれど、世界のどこにも、自分の治めるべき国はなかった。
 ならここがそうなのだろうか?…その答えは。

 約束があった。…ローラの愛した国を守ると。

「…ご拝命、謹んでお受けいたします。」
 レオンは跪いて礼をした。父親は一瞬目をぱちくりさせたが、すぐに持ち直した。
「そうか、よく決心した。皆の者も、聞いたな!!」
 その言葉に、その場の全員が拍手を送る。王の最後の仕事として、頭につけている王冠を外し、跪いているレオンの頭に かぶせた。
「ローレシアの、新しい英雄王の誕生じゃ!!」


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